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肉食系ヒロインに食べられました  作者: 月ノ裏常夜


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[3-13] 方法

 ルーベルに案内されるように、オリバー達は隠れ家の地下へと向かった。ギルスも来たため五人全員が地下室の前に揃っている。

「封印は破られてないわね」

 ルーベルは扉の封印が維持されている事を確認する。余程大事なものなのだろう。扉には封印が掛けられていた。

「これって鍵をかけた本人が居ないと開かない奴か?」

 以前似たような封印がギルド内部に仕掛けられており、リリアが封印を解いていたのを見たことがオリバーにはあった。

「そうよ。あたしでないと開かない。無理に開けようとしたら生き埋めになる」

 オリバー達は、ルーベルとは森の中で合流した。自分が留守の間でも、万一何者かが侵入したとしても、ここだけは守るつもりだったのだろう。

「生き埋め?」

 それにしても、生き埋めというのは過激な方法だ。思わずオリバーが聞き返す。

「侵入者対策の罠って事よ。自分の研究を他の者に横取りされないように対策するのは研究者として普通の事よ」

 ルーベルが物騒な事を言いながら掌を扉に浮かび上がっている模様の上に置くと、光の一部が収まった。

 その挙動は以前オリバーが見た物と同じであった。見た目だけでも無く、原理も同じなのだとすると、これで封印が解除されたのだろう。

「入って」

 ルーベルが部屋の扉を開ける。地下だというのに中には薄暗い光が灯ったままになっていた。真っ先に目に入ってきたのは部屋の中央にある怪しげな装置である。

 半球状の形をしており中は液体で満たされているが、何よりも中にエルフが入れられている。

「あれがその道具よ」

それを見たルーベルは、そう断言したが、オリバーにはいくつもの疑問が生まれた。何から聞くべきか少し迷ったが、最初に口から出た質問はこうだ。

「あれ、生きてるのか?」

 容器の中に入れられているエルフは、頭が天井に、足が地面に向いているため一見すれば立っているように見えるが、よく見れば足が地面に着いていない。あれは立っているというよりも容器の中で満たされている液体の中に浮いているといった方が良いのだろう。また、目が閉じられており、意識があるようには見えない。

「生きてるわよ。本当にギルスから何も聞いてないの?」

 ルーベルは当たり前の事をいうかの様に答える。

「俺たちが聞いたのは、ギルスはフィアンセを助けようとしていて。治療に使う道具がここにあるから取りに来たって事だけだ」

 ギルスから聞いた情報だけでは、この地下室にあるあの道具が一体何なのかが全く分からない。

「あの容器の中にいるのは、そのフィアンセの髪の毛を培養して造ったエルフよ。ホムンクルスって言った方がわかりやすいかしら」

 ホムンクルス。それは魔術によって作り出された人間の事を指す。オリバーとしては噂では聞いたことがあるが、それを実現したという話は聞いた事が無かった。

 エルフがエルフの魔術によって、一人のエルフを造り出したとするならば、それをホムンクルスと呼ぶのは間違いでは無いだろう。

「あれがホムンクルス?」

 培養液に浸されているとはいえ、見た目は普通のエルフにしか見えない。それを作られた存在であると言われてもすぐに信じるのは難しかった。

「そう、私が造ったの」

 そして、あの見た目はどことなくルーベルに似ている。それはルーベルがあのホムンクルスを造ったという事と何か関係があるのだろうか。ルーベルとホムンクルスの顔を交互に見比べているオリバーを見て、ルーベルは思い出したかのようにこう言った。

「ああ、言ってなかったわね。ギルスのフィアンセは、私の姉よ」

 オリバーは、ルーベルとギルスが何故協力関係にあるのか聞いていなかったが、その言葉を聞いて納得がいった。

 ギルスはマリルの婚約者であり、ルーベルはマリルの妹。二人ともマリルを助ける理由があるからこそ、里から追放されても協力関係にあるのだろう。

「髪の毛から完全な体を復元したのか?」

 容器に入れられているエルフは、手足はもちろん頭もある。元となる素材が髪の毛一本というのであれば、それだけで完全に体を造ったという事になるが、そんな事ができるとはオリバーには思えなかった。

「そうよ。ゴーレムを生成する魔術が役に立ったわ」

 本当に髪の毛一本からあのホムンクルスを造ったらしい。

「どう役に立つんだ?」

 しかし、ホムンクルス作成とゴーレム作成がどのように繋がるのか、魔術に疎いオリバーには分からない。

「ゴーレムは元々土の体に疑似魂魄を埋め込んだことで、ただの土の体を生き物のようにして使役するでしょ。本来はゴーレムに埋め込む疑似生命を髪の毛に植え付けて、ついでにあの培養液に浸して体を復元させたのよ」

 ゴーレムの体は土で出来ている。土の体を造っただけでは、それはただの人の形をした土の像であり動く事はない。そこに疑似魂魄を埋め込む事で初めて生命として動き出す事ができる。

 ルーベルは元々ゴーレム使いであり、疑似魂魄を生成する魔術を習得していたため、それをホムンクルスの生成にも流用したという事か。

「疑似魂魄を埋め込んだとして、あの液体は何なんだ?」

 ホムンクルスは液体に浸されているが、一体何なのだろうか。

「疑似魂魄を埋め込んで生きた状態にする必要はあるのは、生きた状態でないと体が再生しないから。でもそれだけじゃ体の生成まではできないのよ。まあ、この培養液にも魔術的な仕掛けが色々あって、体の成長を促進させるような効果があるけど、そもそもこの培養液に入れる対象が生きてないと効果を発揮しないのよ。つまり、対象を生きた状態にする疑似魂魄の魔術と、再生能力を促進させるこの培養液の二つがあって、初めてホムンクルスの培養は成功するの」

 その言葉の意味を考える。それは恐ろしい事ではないのか。ホムンクルスには疑似魂魄が埋め込まれている。それはあのホムンクルスが生きているという事ではないのか。

ギルスは道具を取りに行くと言っていた。つまりあの培養液の中にいるエルフを道具だと思っているという事だ。オリバーは半ば否定してほしいと思いながらその質問をした。

「それはつまり、あのエルフは生きてるって事か?」

 オリバーはつい、培養液の中の存在をエルフと呼んだ。それほどまでにあの培養液の中にいる存在は、エルフにしか見えなかった。

「そうよ。生きてるか死んでるかでいえば、生きてるわね」

 オリバーの感情の乱れに気が付いていないのか、ルーベルがそれは当たり前のことであるかのようい言う。

「あのエルフをどう使うんだ?」

 あれを治療の道具だと言うならば、あの生きたエルフは一体どうなるというのか。

 その質問に答えたのはギルスだった。

「ガエラと戦った時、魂を抜き取る魔法をみせただろう?」

確かに見た。グールから魂を抜き取り無力化した魔法。それをギルスは使える。

「ああ」

 生きた人間やエルフからは魂を抜き取るのは難しいが、弱った相手やグールのような疑似魂魄を埋め込まれた存在であれば、ギルスの魔術で強制的に魂を引き抜ける。ギルスから以前そのような話を聞いた。

「あれでホムンクルスから魂を抜き取って、マリルの魂をあの体に入れる」

 実際にギルスがグールから魂を抜き取るところを見たオリバーにとっては、その言葉が嘘ではない事は分かっている。だからこそ、その言葉が何を意味しているのかも分かってしまう。

 ルーベルは、あのホムンクルスは生きていると言った。そしてギルスはそのホムンクルスから魂を抜くと言った。

「ホムンクルスの魂はどうなるんだ?」

 薄々は分かっていたが、オリバーはその可能性を頭の中で信じたくなかった。それをギルスは何の躊躇いもなく口にした。

「消えてもらう」

 生きているホムンクルスから、その魂を引き抜く。さらに、その体には別の魂を埋め込む。そうなれば、本来のホムンクルスの魂は行き場所がなくなる。それが例え疑似魂魄だとしても、元々存在した魂が消えるという事には変わりはない。

「消える?」

 思わずオリバーは、その言葉の意味を聞き返す。

「ガエラと戦った時に見せなかったっけ? 疑似魂魄は入れ物が無い状態で、依り代となる体が無い状態では、長時間の活動できない。空気中に長時間放置するだけで消滅するんだよ」

 その光景は確かに見ているが、オリバーが聞きたいのはそういった実際にどのような現象が起きるかではない。

「消滅って事は死ぬって事だろ」

 魂の消滅とは、生命の死を意味する。

 消滅するという言葉を平然と口にしたギルスに対し、オリバーは信じられないと言った視線を向けた。

「その言い方も間違いじゃないね」

 しかし、オリバーの考えはギルスには伝わらないようで、ギルスもまた何がおかしいのか分からないといった感じの目で見ている。

「それはおかしくないか?」

 ホムンクルスを死なせると、平然と言ってのけるギルスがオリバーには理解できなかったが、ギルスからすればオリバーの考え方が理解できないようだ。

そしてルーベルもまた、駄々をこねる子供を諭すような口調で、オリバーの疑問に答えた。

「これはね、見た目がエルフってだけ。中身は疑似魂魄。ゴーレムと同じ。もう体の培養は終わった。だから疑似魂魄を抜き取る。何かおかしい?」

 それはゴーレムの製作者であるルーベルらしい発想なのかもしれないが、オリバーにはその考え方は受け入れ難かった。

「疑似魂魄を抜き取るっていうのは、殺すって事だろ?」

 ホムンクルスと言われても、オリバーの目にはあの培養液の中に浸されているのはエルフにしか見えない上に、そこから命を抜き取るというのは殺すというのと同じ事だ。

「あなたはゴーレムが壊れる事を殺されたと表現するの?」

 ルーベルは対象的に、ホムンクルスはゴーレムと同じであり、物としか見ていないような言い方であった。

「ゴーレムは人間でもエルフでもない」

 ゴーレムは人間ともエルフとも見た目がかけ離れている。いくら二足歩行ができるという共通点があっても、ゴーレムは土に疑似魂魄を埋め込まれた存在だ。もしもオリバーの目の前でゴーレム破壊されたからと言って、人間が死んだかのように悲しむかと言われたらそうはならないだろう。

 だからオリバーはゴーレムを人間やエルフと同一視するつもりはない。

「ホムンクルスだって、人間でもエルフでもないわよ」

 そしてルーベルは、そのゴーレムとホムンクルスが同列の存在だと言っている。

「これはエルフだろ」

 そう言ってオリバーは培養液に入れられたホムンクルスを指す。ルーベルはこれをホムンクルスと言った。しかしオリバーから見ればこれはエルフにしか見えなかった。

 根本的な考え方の違い。オリバーはホムンクルスをエルフや人間と同列の存在だと考えているが、ルーベルとギルスはホムンクルスはゴーレムと同列の存在だと思っている。

「そう見えるだけ。全然別物よ。体を培養させるために一時的に疑似魂魄を埋め込んだ造り物の命。自然に生まれた命じゃないのよ」

 ホムンクルスの創造主であるルーベルは、あくまでこのホムンクルスが一般的なエルフとは違うという事を主張し、同時に造り物の命である以上、ホムンクルスとゴーレムは同列であると言っている。

「でも生きてるんだろ」

 例え造り物であっても生き物である。その命を奪うという考え方にオリバーは賛同できなかった。

「あなたがゴーレムを生き物だと思っているなら、そうなるでしょうね」

 ホムンクルスは生きているとはいえ、魔術によって疑似魂魄を埋め込まれた存在であり、その点ではゴーレムと一致する。もしもホムンクルスを生き物だと定義するならば、ゴーレムも生き物と定義することになる。

「ホムンクルスをゴーレムと同一視しろっていうのか?」

 そもそもオリバーはホムンクルスとゴーレムを同列の存在と考えるつもりは無い。

 オリバーにとってゴーレムは生き物ではないという主張は受け入れられる。それでも目の前のホムンクルスを生き物ではないというのは受け入れられなかった。それは何故かと言われると言い表すのは難しい。

「人間でもエルフでもないっていう点では同義でしょ。見た目がエルフに似てるだけ」

 人間と同じ言語を話し意思疎通の出来るエルフと、見た目が酷似しているからなのだろうか。オリバーにはホムンクルスは人間でもエルフでもないと言われても、だからといって殺す事は受け入れられなかった。このホムンクルスを、別のエルフを救う為と言って、治療の名目で命を奪うという事は果たして許されるのだろうか。

「似ているだけって・・・」

 見た目がエルフに似ているだけで、ホムンクルスはエルフではない。ホムンクルスの製作者であるルーベルがそう言うのであれば、間違いは無いのだろう。それでもオリバーはホムンクルスを殺すという行為を受け入れる事ができない。

 オリバーはもう一度培養液に入れられたホムンクルスを見る。やはりどう見てもエルフにしか見えない。

「ギルス、これは先に説明しておいて欲しかったわ」

 煮え切らないオリバーの態度を見て、ルーベルはギルスに対して非難の矛先を向ける。

「いやあ、君の方が上手く説明してくれると思ったんだけどね」

 ギルスは相変わらず飄々としており、特に悪いとは思っていないようであった。

「そういう問題では無いわよ。倫理観からこの治療法を受け入れられない人間かもしれないっていうのは、分かってたでしょ。ここまできて断られたらどうするつもりなの?」

 ルーベルはホムンクルスはエルフとは異なり、治療のために殺しても良いとは考えていながらも、その考えに人間が賛同しない事を懸念していたようだ。

「オリバー君には貸があるんだから、断ったりはしないと思うけどねえ」

 オリバーからすれば、ギルスにはガエラ討伐を手伝ってもらったという貸しがある。よって今になって約束を反故にするというのは避けたいところである。

 つまり、ギルスも半ばこのような展開は予想はしていたが、かといってギルスが先に貸を作った以上は、後から一方的に約束を反故にするような事をオリバーがするとは思っていないという事だろう。

「ギルス、君も同じ意見なのか? このホムンクルスの命を奪う事を、何とも思わないのか?」

 今までの説明はルーベルの口からされたものだ。ギルスも同じ考え方なのか。

 この培養液の中にいる人物がエルフでなく、ホムンクルスだと認めても、その外見がエルフに酷似しているという事実は変わらない。それをどう思っているのか、オリバーはギルスの口から直接聞きたかった。

「そうだよ。このために何年もかけてきた」

 そして、ギルスもまたルーベルと同じ価値観であると断言された。フィアンセの命を助けたいと考えているギルスが、その治療方法を把握しているのは当然の事。

「リリアとヴァネッサは、この方法に賛成なのか?」

 この考え方はエルフ特有の考え方なのか、それとも自分の考え方がおかしいのか。オリバーはその疑問を確かめるために二人の魔族に自分の疑問を問いかける。

 先に答えたのはヴァネッサだった。

「約束したのはにーさんでしょ。いまさら一方的に反故にするのは間違ってるよ」

 約束は約束。一方的に反故にする事は出来ない。それがヴァネッサの答えだった。

「でも、これは知らなかったぞ」

 オリバーと同様に、ヴァネッサも治療にホムンクルスを使う話は今初めて聞いた話のはずだ。それなのに、考えが変わらないというのか。

「知らなかった? それなのに約束したの? そういうのは約束する前に確認する事だよ」

 まるでオリバーを咎めるような言い方であった。

 ヴァネッサの言っている事は正論だろう。約束する前に詳細を確認せず、後になってから思っていた事と違うという理由で約束を反故にするというのは間違いであり、約束をする前にその詳細を確認するべきだ。その点においてオリバーにも非があるだろう。

「ギルスの肩を持つのか?」

 ヴァネッサの反応はギルスにとっては意外であった。いつもギルスを疑っていたヴァネッサであれば、ギルスのやり方には反対すると思っていた。

「約束したのはにーさんでしょ。帽子は先に約束を果たしてる。さらに、にーさんは帽子に貸しがある状態。今から約束を破る方がおかしいよ」

 例え隠し事があったとしても、約束をして、先に貸を作った以上は貸を返す義務がある。それがヴァネッサの考え方のようだ。

「じゃあ、約束を抜きにしたら、どうなんだ? 一人のエルフを助けるために、あのホムンクルスを犠牲にするっていうやり方は認められるのか?」

 約束という点において、ヴァネッサが言う事はオリバーも正しいとは思っていた。しかしそれとは別に、一人の命を犠牲にして、別の一人を助けるとい方法についてどう思っているか。あのホムンクルスは物であり生き物として扱わないというのか、オリバーはそれを知りたかった。

「あたしは良いと思うよ。誰かが造ったホムンクルスだっていうなら、製作者が決めればいい」

 ヴァネッサも、ギルスやルーベルと同じ、この方法が正しいと思っている。

 ホムンクルスが生きていようと、その命を奪う事になろうと、ホムンクルスの製作者が決めた事であれば問題はない。だからこのやり方には反対しない。それがヴァネッサの考え方だった。

 そこまで言われてしまうと、オリバーは何も言えなかった。それでもオリバーはリリアに視線を向ける。

「リリアはどう思う?」

 約束をしたのはオリバーではあるが、実際に魔術を使う事になるのはリリアだ。リリア本人の意見も聞いておかなければならない。

「これは、私たちがどうこう言う問題では無いわ。私たちは約束をした。だからそれを守るべき」

 リリアは治療の方法は当事者であるギルスとルーベルが決める事であり、そこに横から口出しをすべきではないという考えだ。つまりリリアもまた、反対はしない。つまりこの場でホムンクルスの命を奪う事に対して反対しているのはオリバー一人だけだ。

それでもまだ納得していないようなオリバーに対し、ギルスが口を開いた。

「君がこのホムンクルスをエルフと同一視したとして、この先どうするつもりだい? ずっとこのまま寝かせておく? それとも起こすのかい? 彼女は生まれてからずっとあの培養液の中で眠ったままだ。当然知能はない。それを殺すのが可哀そうだと言ったところで、どうやって生かすんだい?」

 ギルスの言う通り、ここでオリバーが反対したところで、あのホムンクルスは既に存在している。それを殺すなと言ったところで、このまま生かし続けるのは、それは正しいと言えるのだろうか。

 意識も無くただ培養液の中で生かされているだけの存在。その生に一体どれだけの価値があるのか。

 何も言い返せない。このままずっと培養液の中で生かされるだけの存在として、このさき生き続ける方が良いというのか。それとも別の方法があるとでもいうのか。

 現実的な答えが思い付かないオリバーに対して、ギルスはさらに言葉を続ける。

「人間の君が、このホムンクルスを引き取って一緒に暮らすとでもいうのかい?」

 そこまでは考えていなかった。ただエルフと同じ見た目をしたホムンクルスを、道具として扱う事に違和感があった。しかしそれを上手く言葉として説明する事はオリバーにはできなかった。

 殺すのが良くないからといって、殺すのを止めたところで、この先一体どうやって生かし続けるというのか。その答えをオリバーは提示する事ができない。

さらにギルスはオリバーの答えを待たずにこう続けた。

「それだとマリルが死ぬんだよ」

 ギルスの顔はいつになく真剣であった。

 オリバーは前提として大事な事を忘れていた。このホムンクルスはマリルの命を助けるために創られた。即ち、このホムンクルスをこのまま生かし続けるという事は、マリルの治療を断念する事であり、マリルの命を見捨てるという事と同義だ。

 今ここで、ホムンクルスの命を助けるという選択をすれば、今度はマリルの命が助からなくなる。目の前のホムンクルスか、遠くにいるエルフか。助かるのはどちらか一方だけだ。

 ホムンクルスを殺す事が道徳的に問題があるという理由で生かし続けるというのは、遠くで病を患っているエルフを見殺しにすることになる。それは果たして人道的な行為と言えるのか。

「君は僕に代わってマリルを助けてくれるのかい? それならこのホムンクルスを渡してもいいけどね」

 ギルスとしても、それが無理な話である事は承知しているのだろう。オリバーはただの人間であり、病気を治す力はない。リリアの再生の力も、ヴァネッサの治癒の力も外傷は治せても、病気は治せない。

「それは無理だ」

 だからこそオリバーはそう答えるしかなかった。それに対して、当然のようにギルスはこう返す。

「じゃあ、約束を守ってくれ」

 ギルスのフィアンセであるマリルの治療を行うために、門を開く魔術の補佐がいる。それを腕の良い魔術師であるリリアにやらせる。それが元々の約束であった。

「分かった。約束は守る。リリアもそれでいいな?」

 ホムンクルスを殺す事が正しい事だとは思えない。それでもこの場でその考えを持つのはオリバーだけであり、先にギルスを貸しを作ってしまったという状況もある。オリバーはまずは約束を守る事を確約し、そして実際に魔術を使う役割を担うリリアに対してもその確認をする。

「さっきも言った通り、私は良いわよ」

 リリアはオリバーとは異なりホムンクルスの命を奪う事を問題視しているようでは無かった。今になって断る理由は無いのだろう。

「先に言っておくけど、この培養液からこのホムンクルスを出したら、後はスピード勝負なのよ。直ぐに治療を行わないと体の鮮度が落ちるの。直前になって、やっぱり嫌なんて言われたら困るんだけど、本当にいいのね?」

 それでもルーベルは更に念押しをしてきた。どうやら治癒の作業は時間に厳しい作業となるようだ。

「やるわよ。躊躇したりなんてしないわ」

 リリアはそう言い切った。

 これでようやくホムンクルスを使った治癒を行う事を、全員が同意したことになるが、それを行うにはまだ決めなければならない事がある。

「じゃあ、森に居る魔物どもを今晩どうするかについて話してもいいかしら?」

 余程魔物に興味があるのか、ルーベルは喜々として、次の議題を持ち出した。

次話は9/30に投稿予定です。

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