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肉食系ヒロインに食べられました  作者: 月ノ裏常夜


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[3-2] 遺物

 騎士団の中には大きく分けて二つの組織が存在する。

 一つは近衛と呼ばれている王族の護衛を専門とする組織。こちらはエリート組織と呼ばれており、入団は狭き門である。騎士団と呼ばれるよりも「近衛」と称されるのが一般的である。

 もう一つは外回りと呼ばれる町の巡回や不審者の取り締まりなど、治安維持を主な任務とする組織。一般的な騎士は後者とされており、「騎士団」とだけ称されるのはこちらの事を指す事が多い。ミランダもこちらに属している。

「ミランダです。召還に応じ参じました」

 彼女は自分を呼び出した者の部屋の前に立ち、中に呼びかけた。恐らくは先日のガエラの件に関する話だと予想はしていた。

「入れ」

 部屋の中から、男の低い声が聞こえてきた。

「はい」

ミランダが部屋の中に入ると、扉の向こうに居たのは召喚状の差出人である第九騎士団長のローベルグだった。騎士団は九つの部隊に分けられている。第一が近衛騎士団であり、第二から第九が治安維持を目的とした騎士団となっている。

ミランダはローベルグの顔は知っていたが、面識がある訳ではない。祭事の際に騎士団長として参加しているのを遠目で見た事がある程度であった。

 第九騎士団についてはそれ以外の任務を行っているという噂もあるが、現状第五騎士団に所属しているミランダはその噂については半信半疑であった。

「先日のガエラとの戦闘を聞かせてもらった。グールと戦闘をしたそうだな」

「はい。ですが肝心のガエラには逃げられました」

 以前ミランダは住民から寄せられた苦情の対応としてガエラという名の人物の自宅を訪れたが、ガエラ宅内にてグールと戦闘になり、現場に同行した三名の部下の内、一名重症、一名行方不明という事態となった。その後日、行方不明者の捜索を行った際に再度ガエラと遭遇し戦闘となったが、この際にも再度グールと戦闘になった。残念ながら騎士団はガエラは取り逃がしてしまうが、現場に居合わせた冒険者達によって討伐されるという結果になった。

 言い換えるならば、結果的にガエラの討伐には成功したのだが、騎士であるミランダは、自らの手でガエラを討伐できなかった事を悔いていた。

「そのようだな。だが今日ここに来て貰った理由はそこではない」

 騎士団の中には、冒険者に手柄を横取りされたと考える者もいる。さらに、ミランダとその場にいた冒険者の間柄を知っている騎士からは、これはミランダが意図的に冒険者に手柄を渡したのではないかと言いだす者もいる状態であった。そんな状況であったために、ミランダはそれについての言及かと予想していたのだが、ローベルグの態度を見るにそうでは無いらしい。

 冒険者と騎士団は現在微妙な関係にある。魔物の討伐を生業とするのが冒険者であり、主に国民の安全を守る事を生業としている騎士である。

 国民に対する魔物からの被害が増える中、冒険者は魔物の討伐に従事しているが、騎士は主に街中の警備をするだけに留まり魔物の討伐には消極的という面がある、

 国民の中には騎士団よりも冒険者の方が頼りになるのではないかと言いだす者もいると聞く。

 そんな中、騎士であるミランダがガエラを取り逃がし、さらに冒険者に討伐の手柄を取られるというのは騎士団の面子を潰す行為であり、その点に関して叱責を受けるのではないかとミランダは思っていたが、一方で現在第五騎士団に所属しているミランダを、第九騎士団長であるローベルグが呼び出すという事は、もっと別の用件ではないかという予想もしていた。

「ではどのようなご用件でしょうか?」

召喚状の中には用件が記載されていなかった上に、ミランダには、ガエラの件以外で呼び出しを受ける心辺りが無かった。

 ローベルグの用件がガエラの件ではないとなると、ローベルグから話を聞くしかない。

「君も知っていると思うが我々騎士団の本分は治安維持組織ではあるが、そこに対魔物に関する事は含まれていなかった。対魔物に関する仕事はギルドが行っていたからだ。しかし魔物の活動が活発化している事に伴い、市民からは騎士団も魔物に対する行動をしてもらいたいという要望が多く寄せられている。よって騎士団の中にも対魔物用の部隊を作ろうとする動きがある。」

「確かにその話は聞いています」

 騎士団員の中では専らの噂になっていた。魔物の被害が慢性的に増える中、騎士団の中に対魔物用の部隊を立ち上げるという話だ。

「そこに丁度良く魔物との戦闘経験がある人物が現れたという訳だ。そう、君の事だよ。ガエラとの一件でグールと戦ったそうだな」

 グールも魔物に分類される。あの時のグールとの戦闘による実績を見出されたという事だ。

「私に対魔物用の部隊に参加しろという話ですか?」

 魔物との戦闘経験のある騎士として、対魔物用の部隊の一員として声を掛けるというのであれば、わざわざ別の騎士団員であるミランダに声を掛けるというのも納得がいく。

「それも少し違う」

 ローベルグからの回答は曖昧な内容であった。

「では一体どのようなご用件で?」

 話の本筋が見えず、ミランダは単刀直入に話の主旨を尋ねた。

「本題に入る前に確認させてもらおう。君の弟は悪魔憑きとしてお尋ね者になっているな」

 その話題は、ミランダが事前に予想していた物の一つであった。

「はい」

 これは否定しても仕方がない。変えようのない事実だ。事前に予想していた事もあり、ミランダ間を置くことなく肯定する。

 ミランダの弟であるオリバーは、以前騎士団に所属していたが、悪魔憑きの嫌疑が掛けられ、裁判の結果処刑判決が言い渡された。しかし処刑の直前に逃亡し、現在はお尋ね者になっている。

 そして、ガエラを討伐した冒険者達の中にその姿を見たという証言は、現場にいた多くの騎士からされている。当時現場にいたミランダもまた、オリバーの姿を見ている。

「君は弟が本当に悪魔憑きになったと思うか?」

 当時の裁判で、オリバー本人は自らが悪魔憑きである事を否定していた。

「いいえ、濡れ衣だと思っています」

 ミランダは臆することなく、自分の考えをはっきりと口にした。

「自分の弟の無実を証明したいと思うか?」

 ミランダはオリバーが仲間殺しをするような人間ではないと今でも思っていた。つまり、この質問の答えもまた、迷う事は無かった。

「はい」

 その答えを望んでいたのか、ローベルグはミランダの答えを聞いて満足げにこう答え、席を立った。

「では、見せたい物がある。付いてきたまえ」

 第九騎士団に関する噂がある。それは表沙汰にはできない事件の処理を裏で行っているという話だ。証拠はなく、ミランダもその噂自体は耳にしたことがあるが、単なる話のネタ程度にしか思っていなかった。

 そう言った噂話の中で、第九騎士団は別の呼ばれ方をしている。その名称は『暗部』である。


 ●


 ローベルグは騎士団長であり、ミランダは一介の騎士団員だ。立場上横に並んで歩く事は憚られたため、ミランダはローベルグの後ろに続く格好になっている。

「もしも、騎士団とギルドが武力衝突をしたら、ギルドが勝ち騎士団にとって代わるのではないかという話を聞いた事はあるか?」

 ローベルグは移動しながら、後ろについてくるミランダに対して、振り向かずに背中越しに尋ねた。

「あります」

 魔物の活動活発化に伴い、ギルド所属の冒険者による魔物の討伐は増えている。その一方で魔物への対処は管轄外であると、街の外に生息する魔物への対処には着手しようとしない騎士団。この両者を見比べて、ギルドの方が市民への安全に貢献しているという意見と、騎士団に対する不満が増えつつある。さらに魔物の討伐依頼が増えた事に伴い、冒険者になる者が増えているという背景が重なり、万一騎士団とギルドが武力衝突したらどうなるかという話が、話のネタとして口にされる事が増えてきた。

「しかし、それはあり得ない話ですよ。我々とギルドが戦う理由がない」

 そう言った話を口にするのは、騎士でも冒険者でもない第三者だ。騎士団とギルドは別の組織であり、騎士団に所属する騎士も、ギルドに所属する冒険者も、戦闘の心得がある。よってその両者が武力衝突をすればどうなるかと言った架空の議論は話のネタとしては丁度良いのかもしれない。

とはいえ、当事者となる騎士である立場のミランダからすれば、ギルドと戦うという状況は想像できなかった。

「私もそう思っているが、重要なのはそこではない。何故この話がされるかという事だ」

「それは魔物の活動の活発化と騎士団が魔物への対処をしないという不満があるからでしょう」

 魔物は人を襲う。最悪の場合、魔物による死者が出る。にも関わらず騎士団は魔物の討伐はギルドに任せている。そういった状況で騎士団に対する不満が募るのはミランダとしても理解はしていた。

「その通り。だからこそ我々は市民からの不満を解消するためにも、魔物と戦わなければならない。なぜなら我々騎士団は国営の組織であり、その運営には国民から徴収した税金が使われるからだ」

 国営の組織である以上、その運営に掛かる費用は国が負担する事となる。国が出す予算というのは元をたどれば国民から徴収した税金である。よって、国民の要望に応えるのは、国営の組織に所属する者の義務。ローベルグはそう考えているようだ。

「本当にそれでいいんですか? 騎士団が魔物の討伐を避けていたのは、ギルドに対する配慮もあったはずです」

 ギルドは魔物討伐を斡旋する組織である。言い方を代えれば、魔物がいるからこそ、討伐するという仕事が発生する。それを騎士団が介入して討伐するというのは、ギルドの仕事を奪う行為に等しい。

「魔物の討伐依頼があるという事は、依頼を出す人物がいるという事だ。だが世の中には依頼の対価となる報酬を用意出来ないが為に、魔物に困っていてもギルドに討伐依頼を出せない者もいる。そう言った者も国民である以上は税を納めている。だから我々騎士団は善良な国民を、納税の対価として魔物から守る必要がある。もともと依頼を出せないような者達を守ったところで、ギルドの仕事を奪う事にはならないさ」

 ギルドに討伐依頼を出すには、報酬を提示しなければならない。言い換えるならば、報酬を出す余裕の無い者はギルドに依頼を出す事が出来ない。

「そうだといいのですが・・・」

 魔物の討伐を騎士団がギルドに任せていたのは、人手不足や怠慢だけが理由ではない。ギルドの仕事を奪うことになれば、本当にギルドと騎士団との武力衝突になりかねない。それを避けるための政治的配慮もあったはずである。

 だが先ほどのローベルグの理論であれば、そもそもギルドに依頼を出す事が出来ないような貧困層を助けるのであればギルドの仕事を奪う事にはならない。

 確かに魔物の活動が活発化していて、ギルドだけに魔物を対処をさせ、騎士団は魔物の対処とは無関係の立場を貫くのは、そろそろ限界ではないかという意見が各所から上がっているのはミランダ自身も知っている。

 それでもなお、騎士団が魔物の討伐に乗り出すという行為が正しいのかどうかは、今のミランダには判断できなかった。

 ここまで話して、ミランダはふと思いなおす。先ほど今日の要件は騎士団の中に魔物用の部隊を作る話なのかと聞いたところ、少し違うと返された。

 しかし今のローベルグの話ぶりは、騎士団が魔物を討伐する事に賛成のようだ。

「失礼ですが、今どこに向かっているのですか?」

 この行先にローベルグの今日の要件があるのだろうと思い、ミランダは行先を尋ねる。

「見せたいものがあると言っただろう? 言うよりも見た方がいい」

 あるいは、言葉では説明できない物があるのだろうか。そんな疑問を持ちながら、ミランダはローベルグの後に続いた。


 ●


 彼を見送ってから一体どれだけの時間が経っただろうか。

 エルフは人間と比べて長寿である。年長者ともなれば六百歳を超える者もおり、人間に比べれば、時の流れにはあまり頓着しないタチではある。

 しかし姉のフィアンセが人里に行くと言ってから、数日が経つ。彼を帰りを待つ立場としては、いつもより時の流れが気になってしまうものである。

 一般的なエルフからすれば人間というのは自然を破壊する事が多く、敵視されがちではあるが、姉のフィアンセはエルフの里を追放された立場にある。同族からの協力が得られない以上は、人間の手を借りるという選択肢になったのだろう。

 とはいっても人間がエルフに協力的な態度をとるかどうかは、疑問が残る。最悪の場合、囚われたりしてしまうかもしれない。その場合、あの研究は全くの無駄という事になってしまう。

 そういう事情から最近ルーベルは人間の集落へと旅立ったギルスの心配をしていたのだが、新たな心配の種が発生した。

 彼女は里から追放されたはぐれエルフであり、外界からの関係を断っている。

 率先して外界の生き物を殺傷しようという考えは無いが、それでも身の安全は守る必要がある。例えば彼女の居住区域に侵入してくる者がいたとしたら、それとなく追い払う事にしている。彼女はそれに自らが作成したゴーレムを使っていた。

 ある日は人間が、ある日は魔物が侵入してきた。長年同じ場所に居住していればそういう事は一定間隔で起きる事は把握できていた。

 特に人間には知能がある。下手に殺傷すれば報復に出る事は予想できたため追い払うとはいってもあまり過激な事はしなかった。

 そういった考えから、直接的な攻撃はせずに、威嚇をすることにより追い払う事としていた。それが功を奏したのか、長時間同じ場所に留まっていたにも関わらず、あまり大きな争いは起きなかった。

 残念ながら、最近は魔物の侵入が多くなってきた。

 侵入してくる魔物はいつも同じ種族である、外見は狼の形状をしており、毛並みは黒であった。

 魔物にも知能を持つ種族が居るというのはルーベルも知っているが、何度かこの魔物を追い払った事から、恐らく相手には知能は無いだろうと判断していた。

 何度追い払っても定期的に侵入してくる事から、一度直接的な攻撃を試みて、こちらの力を示した方が良いのではないかと考え、実力行使にでた。

 その時の相手はいつもの黒い毛並みの狼に似た魔物であり数は一匹だった。彼女はゴーレム一体でそれに直接攻撃を仕掛けた。

 相手の戦力はさほど高く無かった。そのまま倒してしまう事も出来た。しかしゴーレムは動きが鈍く、逃げ回る相手を追跡するのには不向きである。

 土で出来たその巨大な体は攻防ともに優れている一方で、機動性においては人間にも劣る。逃げる狼型の魔物を追い回す事は、到底不可能であった。

 よって彼女のゴーレムは相手を殺すことなく、負傷した相手を逃がすという結果に終わった。それに凝りて相手が襲ってこなければそれでいいと彼女は考えていた。

 彼女の予想に反して、その魔物は後日再度彼女の居住区域に侵入してきた。

 いくら知能が低いとはいえ、普通の生き物にすら縄張りの概念は存在し、一度痛い目を見ればもう侵入してこないだろうというルーベルの予想は外れてしまった。

 放っておけば自分の家にまでやってくるか可能性がある以上、対処するしかなかった。

 相手を負傷させるだけでは再度襲ってくると分かった彼女は、今度は相手の殺害を試みた。そして彼女の興味をそそられる事件が起きた。

 結果から言えば、またしても彼女は失敗し、相手を生きたまま逃がしてしまうのだが、その事象の再現性を確かめるべく、再度魔物との交戦を目論んでいた。

 本来研究者気質である彼女としては不可解な事象が起きたからには、その原因を確かめようという気になっていた。

 奇しくもそれは、姉のフィアンセが人里に言っている間の出来事。できれば彼が戻ってくるのを待ちたいという気持ちもあったが、魔物はこちらの都合など考慮してくれない。姉のフィアンセがいつ戻ってくるかは分からない。彼女は姉のフィアンセが戻ってくるのを待つことなく、行動を起こすことにした。


 ●


王都には騎士団の本部があり、第一から第九の九つの騎士団がそれぞれ拠点を構えている。同じ騎士団とは言っても、縦割りの組織になっており、度々騎士団同士で順位をつけるような催し物も開催される事から、同一の騎士団内の騎士団員の結束は固いが、別の番号の騎士団員はライバル視されてしまう事も多い。

互いに切磋琢磨し、腕を磨くようにという方針からこのような組織体系となっているが、度々所属の異なる騎士団員でいざこざがおきる事もあり、その運営方針は一長一短といったところだ。

現在ミランダは第五騎士団に所属しており、第九騎士団というのは他所の騎士団の敷地に立ち入っていることになる。それほど珍しい事ではなく、ミランダは第九騎士団長ローベルグからの召喚状により呼び出されたために第九騎士団の建屋に立ち入ったという正当な理由がある。よって特段悪い事をしている訳ではないのだが、やはり別の騎士団の敷地にはいるといのは落ち着かないところがある。

「団長、失礼ですがお連れの方はどなたでしょうか」

 ローベルグに連れられ、第九騎士団の領地内のある建物に入ろうとしたところ、見張りの兵士がミランダの顔を見て扉の前に立ちはだかった。第九騎士団に所属していない他所の騎士団員だと気が付いたのだろう.。

「彼女はこの前グールを撃退した功績がある。もしかしたら今後の魔物に関する作戦の中核を担うかもしれない。何かあれば私が責任を取る。通してやってくれ」

「はっ」

 団長の言葉に応じて、見張りの騎士が道を開ける。

 ローベルグが扉を開け、中に入り、ミランダもそれに続く。

 廊下を少し歩き、いくつ目かの扉の前に行くローベルグが立ち止まる。

「ここだ」

 そういってローベルグは扉を開ける。

 部屋の中には机があったが、その上には布が被せられており、何があるかは分からない。だが布に不自然な膨らみがある。机の上に何かが置かれ、それを隠すために上から布が被せられている事はミランダにも直ぐに分かった。

 ローベルグはその布に手を掛けると、一度ミランダの方を振り返った。

「先に断っておくが、ここで見た事は他言無用だ。もちろん、君の父上にもだ」

 ミランダの父は第一騎士団、通称近衛騎士団の団長ではあるが、ミランダは父の下で働く事を良しとせずにあえて他の騎士団に所属する事を自ら志願した。彼女の父は第一騎士団への入団を勧めたが、彼女自身は親の力だけで第一騎士団に入団したという目でみられたくないという思いが強く、まずは他の騎士団に入団し、実績を立ててから第一騎士団への移籍をする事を希望したためである。

ローベルグは第九騎士団の団長だ。当然ではあるがミランダの父が第一騎士団の団長である事を知っている。

 言われなくてもここで見た事を他言するつもりは無かったが、念押しするほど危険なものが置いてあるというのだろうか。

また、騎士団間で競う事が多いという事情から、他の騎士団への情報共有がなされない事は多々ある。しかしながらミランダは現在第五騎士団所属であり、まだ第九騎士団への転属が決まったわけではない。そんな中で他言無用の情報を見てもいいのかという疑念と、この先に弟の悪魔憑き疑惑に関する重要な情報があるのではないかという期待が入り混じっていたが、ミランダはこの先の情報を目にする事を選んだ。

「はい。秘密は守ります」

 ミランダの返事を確認するとローベルグは布を取り去る。机の上に置いてあったのは、四本足の動物のような形状をしていた。一見すると動物の死骸にもみえるが、その材質は金属でできているように見える。

 正確にいえば、表皮の一部が剝がれており内部が露出している。普通の生き物であれば体を構成する骨や臓器が見えるはずであるが、この死骸は内部が金属の様に見える。

「これが何に見える?」

 取り去った布を机の上に置きながらローベルグが尋ねる。

「狼の形状を真似て作った祭具…ですか?」

 ミランダの目には、その見た目は狼に近いように見えた。しかしそれは形状の話であり材質が金属のように見える事から生き物ではない。動物の形を模した物といえば、銅像や石像が連想さる。動物の形をした像というのは、儀式的な使われ方をされる事が多く、主にその動物を祀る目的で作られる事が一般的である。

「残念ながらそれは違う。こいつは数日前に街道の近くの草原で発見された。祭具を使うような場所ではない。こいつの存在を知っている者は便宜上『遺物』と呼んでいるが、これが魔物の死骸なのか、そもそも生き物なのかも分かっていない」

「発見した者から何か証言はあったのですか?」

 祭具ではないとなると、次の可能性として考えられるのは生き物であるという事だ。しかし、みたところ材質が金属のように見えるという点から、ミランダにはこれが生き物である可能性はほぼないだろうと考えていた。

 そうなると発見者から何か発見時の詳しい情報があったのであれば、この物体の正体が分かるのではないかと考えた。

「発見者と直接連絡は取れていない」

「どういう事ですか?」

 発見者と連絡が取れないと言うのはどうにも腑に落ちない。

「発見者から騎士団に街道の近くに魔物の死体があるから処理してほしいと連絡があって、騎士の一人が様子を見に行った。見に行った騎士は最初は狼型の魔物の死骸かと思ったそうだが、体の材質が金属である事に気が付き、ここに運び込まれた。発見者はいつの間にか姿を消していて、詳しい話は聞けなかったらしい。」

「その状況はおかしいのでは?」

「ほう、どこかだ?」

 ローベルグの声はどこか嬉しそうだであり、その質問を期待していたかのようであったが、ミランダはそれに応えるよう話を続けた。

「普通の国民が、魔物の死骸があるからといって一々通報しますか? 通報があったというのは通報者が直接来たんですか?」

 普通の動物の死骸は放置すれば肉食の野生生物や魔物が現れたり、腐臭が漂ったりして近くを通る者に迷惑をかける事になる。それが街中であるならば通報するのもわかるが町の外である街道の近くにある動物の死骸。それを普通の一般人がわざわざ騎士団に通報するというのは疑問が残る。

「直接騎士団の詰め所に来たそうだ」

「それでこれがあった場所だけ伝えて消えたんですか? 外見は何も分かっていないんですか?」

 本人が直接来たのであれば、顔をみているはずだ。

「それがな、冒険者のような外見で、ローブを羽織っていたために顔は良く見えなかったそうだ。死骸の場所までは案内されたが、いつのまにか姿を消していたそうだ」

 姿を消したと言う事は何か後ろめたい事でもしたのだろうか。

「発見した場所に何か戦闘した形跡はありましたか?」

 もしもこの死骸の正体が魔物であるならば、冒険者が戦って倒したという可能性がある。だとしたら死体の発見場所に戦闘を行った形跡が残っていたはずだ。

「いや、なかったと聞いている」

「これは見た限り外部から破壊されたような形跡があります。つまり何かと戦ってこうなった可能性がある。にも関わらず発見場所には戦った形跡が無かった。という事は何者かがこれとどこかで戦って、わざわざ街道沿いに置いたという事では?」

 この遺物は狼のような形状をしているが、腹部に大きな損傷があり、内部が露出している。もしもこれが生き物であり、何者かの攻撃によってこの傷がついたのであれば致命傷となり命を落としたのだろう。

 しかし、そういった戦闘の形跡が現場に無いという事は、どこか別の場所で何者かがこの魔物と戦闘を行い、さらに街道近くまで輸送して投棄したという事になる。

「これが生き物だと仮定して、さらにだれかがこれと戦った結果このような姿になったと仮定して、これと戦ったのは誰だ?」

 ローベルグはミランダの考えに興味を引かれたのか、考えを聞こうとしている。

「通報者本人ではないかと」

 ミランダは正直に自分の考えを口にした。

「何のために?」

「騎士団にこれを引渡すために」

 わざわざ騎士団に連絡をするということは、騎士団以外にこれを回収されては困る事情があったのだろう。

「それをして通報者に何の得がある?」

「そこまでは分かりませんが、これを見せる事が目的なのでは?」

 体が金属でできているという事は、路上に放置したところで、他の生き物に食べられてしまうことは無い。それでも騎士団に回収させたという事は、騎士団にこれを見せる事に何らかの目的があるのだろう。

「つまり、この存在を騎士団に知らせる事が目的か?」

 ローベルグもまた、ミランダと同じ考えに至ったようだ。

「そうなります。団長はどう考えますか?」

「私も大体同じ考えだが、君はこれが何だと思う?」

 これが発見されたのが数日前という事は、ローベルグも遺物の正体について考える時間は充分にあったのだろう。また、ローベルグはミランダの予想を聞いても特に驚きや否定の感情を見せることはなかった。本当にミランダと同じ予想を事前にしていたのだろう。

「それは分かりません」

 魔物の生態については不明な点も多いが、死んだ状態で原形を留める、体が金属で構成される魔物というのは聞いたことが無い。そうなるとこれは魔物ではないだろうが、だからといってこれが何かはミランダには見当が付かなかった。

「では、聞き方を変えよう。最近国民に対する魔物の被害が増えているのは、騎士団としても届け出の統計から分っている。その理由は何だと思う?」

 魔物の活動が活発になっているのは皆が知っているが、その原因は分かっていない。とはいえ、このタイミングでその質問をするという事は、ローベルグが何を言おうとしているのかは、ミランダには察する事ができた。

「まさか、これですか?」

「これは一見すれば魔物と変らない。ただこれは今動かない状態で、内部が見える状態だからこそ、普通の魔物ではないと判断できる。もしもこれが普通に動いていたら、それが魔物と判断できるか?」

 ミランダはもう一度遺物を見る。確かに破壊され内部が見えているが、破壊されていない箇所はまるで普通の生き物のように毛皮で覆われており、かなり精巧にできている。剥製といっても良いかもしれない。これが動いていたら、それは普通の魔物と区別できるかと聞かれたらそれは無理だろう。

「それは難しいでしょう。つまり団長はこれが最近魔物からの被害が増えている原因だと考えているのですか?」

 ローベルグの言う通り、今目の前にあるこの遺物は中身が見えているからこそ普通の魔物とは異なると分かる。完全な状態で動いていたら、これは普通の魔物にしか見えない。ミランダもまたそう考えていた。

「そうだ。これこそが魔物の被害を増やしている原因だと私は考えている」

 魔物の活動を活発にする何かが存在する。それは昨日までのミランダが聞けば、ただの妄想として取り合わなかっただろう。しかし今は、遺物と呼ばれる正体不明の物体を目の前にしている。これこそが魔物の活動を活発化させている原因だと言われれば、無下にする事は出来なかった。

「この事はギルドに?」

 魔物に関する情報はギルドに集まる。この仮説が正しければ、それはギルドに伝えた方が良いのではないかとミランダは考えた。

「いや、伝えていない」

「いいのですか?」

 魔物が絡んだ事件となればギルドは何か情報を持っている可能性があり、この魔物の詳細を知っているかもしれない。だがローベルグの意見は違うようだ。

「上の方針だ。私も伝えるべきではないと考えている」

 ローベルグははっきりと、ギルドには伝える事を否定した。

「何故ですか?」

「ギルドの仕事は魔物の討伐斡旋である事は知っているな?」

「それは知っています。だからこそ魔物に詳しいのでは?」

 魔物に詳しいギルドにこそ、この魔物に関係する情報を教えた方が良い。ミランダはそう考えていたが、ローベルグの考えは全く異なる物であった。

「言い換えるのならば、魔物が居なければ仕事として成り立たない」

 そこまで言われて、ミランダはローベルグの真意を察した。

「まさか、ギルドがこれを作った?」

 ギルドが魔物を作り、ギルドに所属する冒険者がそれを討伐する。ギルドによる自作自演。あり得ない話ではない。なぜなら冒険者に報酬を払うのは冒険者ではなく魔物の被害にあった国民だ。国民がギルドに魔物の討伐依頼をだし、ギルドとは斡旋料としてその報酬の一部を徴収する。ギルドが自作自演をする理由は十分にある。

「そう考えている者もいる。私自身はその可能性は低いと考えているが」

 その仮説は、ローベルグ自身が考えた内容では無いようだ。とはいえ、その仮説について考えると、一つおかしな点が出て来る。

「しかし、これの通報をしたのは冒険者では?」

 冒険者はギルドに所属している。もしもギルドが裏で魔物を使った工作をしているのであれば、それを騎士団に伝えると言うのはギルドに対する裏切り行為と言ってもいい。果たして冒険者がそのような行為をするだろうか。

「通報者は、あくまで冒険者のような外見をしていたと言うだけで、裏は取っていない。通報者が冒険者で無い可能性もある。それにただの冒険者がギルドの真意を知っているとは思えない」

 確かに冒険者風の外見をしていた通報者はいつの間にか姿を消している。本当に冒険者だったかどうかは分からない。

「ギルドに問い合わせをしないのですか?」

 例え通報者が冒険者ではなかったとしても、これをギルドが作っているというのであれば、由々しき事態である。まずは疑惑の真偽を確認するためにも、ギルドに直接問い合わせるべきだとミランダは考えたが、ローベルグは異なる考えを持っていた。

「仮にそうだったとしても、正直に認める訳がないだろう。ここにあるのはこの遺物だけだ。ギルドがこれを作ったという証拠はない。これを作っている製造現場を押さえたというなら話は別だが」

 決定的な証拠がある訳ではない。そのような状況で問い合わせをしたところで真実を話す訳が無いというのがローベルグの予想だ。

 確かに下手に突いて警戒されるよりも泳がせて決定的な証拠をつかむというのは大規模な犯罪を捜査する上ではよくとられる方法だ。

「ではギルドに立ち入り捜査をしては?」

 とはいえ、本当にギルドがこの遺物を作っているのであれば、泳がせるまでもなく、製造現場を押さえてしまえば良い。ミランダはそう考えた、

 つまり、ギルド内部で魔物の制作が行われているのであれば、立ち入り捜査を行えば何かしらの証拠が見つかるはずである。

「この遺物だけでか? 無理に決まっている。それに仮に立ち入り捜査をして何の証拠も出てこなかったらどうする? ギルドに大きな借りを作る事になる。ただでさえ魔物の討伐実績から、市民の中には騎士団よりもギルドの方が頼りになると言い出す者もいる現状でそんなことになってみろ。騎士団は笑いものになり権威は地に落ちる」

 今の情勢下で、騎士団とギルドの力関係は微妙になっている。そこで一方的に騎士団がギルドに嫌疑をかけて強制捜査を行い、さらに何の証拠もでてこなかったとなれば、ギルドがどのような対応に出るかは分かったものではない。

「しかし疑いがあるのであれば、まずは問い合わせをするべきでは?」

 証拠も無しにギルドに操作の手を入れるのが無理であったとしても、遺物と呼ばれる不可思議な物体があるのは事実だ。これについてギルドが何かしらの情報を持っているかどうかの問い合わせぐらいはしても良いのではないか。

「問い合わせをするという事は、これを持っている事を知らせる事だ。最悪取り返しに来る事も考えられる。そう考えると止めた方がいい」

 万が一、本当にギルドがこの遺物を作っていたとして、さらにそれを外部に漏れる事を嫌ったとしたら。さらに騎士団が遺物を保管していると知れたら、武力を使ってでも取り返しに来るのではないか。ローベルグはそう考えているようだ。

「騎士団とギルドの武力衝突ですか」

 ミランダとしては騎士団とギルドが戦う事には理由が無いと考えていたが、今のローベルグの予想が当たっているのであれば、騎士団とギルドが事を構える事になってもおかしくはない。

「考えたくはないが、あり得ない話ではない」

 今のギルドは魔物の討伐が依頼のほとんどである。その中に、騎士団を襲撃するという依頼が出されたとしたら、冒険者はその依頼を受けるだろうか。

「直ぐに起きると考えているのですか?」

 そう考え始めるとミランダの中では不安が大きくなっていった。冒険者は金で動く。法律を犯すような依頼が出たとしても、それを受ける者は一定数居るだろう。

「それほど切迫した事態だとは私も考えてはいないが、今の状況が長期化すればありえるだろう。そうならないためにも、我々も魔物討伐に乗り出し、市民からの信頼を得ておく必要があるという事だ」

 魔物による被害が増えれば、ギルドからの依頼も増える。結果として冒険者も増える。今でこそ騎士団の人数は冒険者よりも上だが、いつか冒険者の人数が騎士団の人数を超える日が来るのかもしれない。

 そうなってしまえば、ギルドが総力戦を挑めば騎士団を打倒する事ができるという力関係になってしまう。そうなれば、違いは国営の組織か、私営の組織かという事だけだ。国よりも力を持った組織が現れたら何をするか。いよいよギルドと騎士団の武力衝突は現実味を帯びて来るのかもしれない。

次話は7/8に投稿予定です。

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