[3-1] 死骸
ある森の中に一軒の隠れ家があった。そこには主に二人のエルフが住んでいる。そしてその地下には一つの研究室があった。
その薄暗い研究室に二人のエルフがいた。一人は男、もう一人は女である。
女の方のエルフは、目の前の培養液に浸っているホムンクルスを見ながら口を開く。
「本当にこれでいいの?」
そのホムンクルスの姿が、彼女の姉と酷似している事は、二人にとって周知のことである。ホムンクルスは女エルフの声が聞こえないのか、目を閉じたまま、培養液の中で佇んでいる。それを見ながら、横に立っている男のエルフが答える。
「ああ。これで一つ問題はクリアされた」
彼は姉の恋人であった。いや、今も恋人なのかもしれない。
「これで姉さんが喜ぶと思う?」
「彼女が喜ぶかどうかは関係ないよ。これしか手は無いし、約束だからね」
「でもこれだけじゃ、あの方法は使えないわよ。私にそっちの才能は無いし」
彼女が専門に研究しているのは疑似生命の創造を行う魔術であり、その一つが今目の前にあるホムンクルスである。
「他に協力者を探すさ」
「他って、追放されたエルフに手を貸すエルフなんていると思う?」
本来エルフは、同族同士で集まり、里を作って集団で生活している。しかしこの二人は里から追放された身である。
「エルフでなければいいさ」
「まさか、人間を頼るの?」
この世界に存在する種族はエルフだけではない。エルフ以外の種族と言って真っ先に浮かぶのは人間だ。おそらくこの世界に存在する個体数で言えば、エルフより人間の方が圧倒的に数が多いだろう。
「ここまで来たんだ。出来るならやるさ。それに面白い噂を聞いたんだ。」
「噂?」
研究所に籠って俗世とのかかわりを殆ど断っている彼女にとっては、俗世の噂話など与り知らぬ話である。
「そう、追放者は追放者同士協力すればいい」
「まさか人間の追放者と手を組む気?」
「大事なのは魔法の腕前だよ」
「信頼できるの?」
「会ってから決めるさ」
「でも人間でしょ?」
エルフというのは基本的に自然との調和を第一に考えている。そのエルフからすれば、自然との調和より、人間個人もしくは人間種族全体の利益を優先する考え方を持つ人間に悪い印象を持つものが多く、彼女もその内の一人だ。
「それがね、巨大なファイアボールを出した魔術師がいて、しかもお尋ね者の仲間らしいんだよ」
それは彼が人間社会で入手した噂話の一つであった。
「巨大ってどれぐらい?」
「何でも、処刑場を埋め尽くすほどの広さだったとか」
「その処刑場の広さは?」
「数百人は収納できる大きさだって聞いてるよ」
「それだとかなりの大きさね」
女エルフは感心したような声を上げた。
「だろう?」
火の玉を生成するというのは、火属性の下級魔術であり、ほとんどのエルフが使える簡単な魔法という認識であるが、生成する火の玉を大きくするとなると、魔術師本人の技量が要求される。
「じゃあ、その人間に協力を頼むって事?」
「そのつもりだよ」
「引き受けてくれると思う?」
女エルフにすれば、人間が無償でエルフの頼みを聞いてくれるとは思えなかった。
「相手はお尋ね者だよ。大きな町の検問を掻い潜るのに苦労しているはずだ。そこで僕たちの門の魔術で移動が出来るって言えば協力してくれるんじゃないかな」
「門の魔術って、姉さんを助けないと使えないじゃない」
「だから、マリルが助かったら門の魔術をいくらでも使わせるっていう条件を出すつもりだよ」
「それって、仮に姉さんが助かったとしても、その後は、あなたと姉さんがずっとその協力者と行動を共にするって事?」
「そうなるね、でもマリルが助かるなら、安いものだよ」
「姉さんは同意するかしら?」
「マリルには事後承諾になるけど、こっちから出せる条件はこれしかないからね。やってみるしかない」
「もう少し考えたら?」
女エルフは、人間と協力する事に抵抗があるのか、再考するように求めた。
「もしもあのお尋ね者が、僕に出合う前に、自由に町の出入りをする方法を見つけてしまったら、僕には交渉の余地がなくなる。急いだほうが良い」
一方の男エルフは、これをまたとない好機と考えているようであった。
「本当にそうかしら」
「魔術の腕のある人間がいて、さらにその人間がお尋ね者で、僕の得意とする魔術が彼らの助けになるかもしれない。こんな好条件の相手なんてなかなかいないよ」
「でもあくまで噂でしょ。それにお尋ね者ならもう捕まっているかもしれない」
「だからこそ、捕まる前に僕が接触する必要があるんだよ」
「そう、あなたがそう言うなら止めないけど、気を付けてね」
ギルスはその翌日、その隠れ家を旅立った。オリバーという名の悪魔憑きを探しに。
そして幸運にも、その悪魔憑きと遭遇し、予定通り約束を取り付ける事に成功する。
●
王都には、その名に恥じぬ通り、多くの人が集まる。その内訳は、王都に居住している市民から仕事を求めて移動してきた旅人まで様々である。
まだ日が昇ったばかりだと言うのに、人通りは多く大通りは活気に満ちている。その内の喧騒に紛れて、宿屋の前で一人のお尋ね者を含んだ四人の冒険者が今日の予定について話し合っていた。
四人の冒険者の内の一人の名はオリバー。元騎士であるが、今は追放され冒険者の一人として大型ユニオン「魔女の館」に身を保護されているという立場になる。保護というのは、騎士団に所属していた際に問題を起こし、処刑宣告までされたところを、魔女の館のユニオンメンバーの一人に救助され、そのままユニオンリーダーの意向でユニオンの一員として匿う事となった。
ユニオンというのは、魔物討伐を斡旋する組織であるギルドに所属している冒険者同士が有志を募り、特定のメンバーで設立したグループの事を指す。
ギルドと言っても私営の組織であり、さらにその中で設立されたユニオンに保護されたからと言って刑罰が免除さるわけではない。
現状のオリバーは処刑宣告をされた事に変わりはないため、有体な言い方をすれば現在もお尋ね者であり、騎士団からは追われる身となっているが、それをユニオンが匿っているという構図になっている。
また、騎士団側は、オリバーが魔女の館に匿われているという事実を知らない。
咥えて、魔物の活動が活発化している現状では、ギルドの影響力は大きくなっている。万一オリバーの所在が騎士団に露見したとしても、有力ユニオンで保護されているオリバーに対し、騎士団はそう簡単には手出し出来ない状態である。
「それじゃあ、フィアンセの元に行くのか」
そのオリバーが四人の中でもう一人の男であるギルスに対して話しかける。
「いや、その前に寄っていくところがあるんだ」
ギルスは四人の中で一番の新顔であると同時に、唯一のエルフである。先日ギルスを除いた三人が賞金首を討伐する際に取引を持ち掛け、このメンバーに参加している。その取引の内容は賞金首の討伐を手伝い成功した場合、ギルスのフィアンセを助ける手伝いをする事だ。
賞金首の討伐には成功したため、その取引に従いフィアンセを助ける手伝いをするところで、行先を決めているところである。
「何処に行くのよ?」
続いて口を開いたのはこの三人の中で最初にオリバーと知り合った魔術師、リリア。先に述べたオリバーを救出した魔女の館のユニオンメンバーである。また、魔女の館に所属しているメンバーは全員が魔族であるが、それは一般的には知られていない。さらに成り行き上、この四人の中ではギルスだけがその事実を知らない。言い換えるならば、ギルスはこの中の四人の内三人は人間だと思っているが、この四人の中で人間はオリバー一人だけである。
「彼女を助けるための道具を受取りに行くんだ」
未だリリアの事を人間だと思っているギルスが、リリアの質問に答えると、今まで口を閉ざしていた四人目が口を開く。
「道具ってなに?」
最後に発言したのはリリアの次にこのパーティーに加入したシスター、ヴァネッサ。彼女は外向きはシスターであり、普通のシスター同様、黒をベースにした上で縁に短い白のラインが入ったシスター服を纏い、両手杖を携帯し、治癒魔術を使う。普通のシスターと違うのは、その杖が仕込み杖になっていて剣の腕も一流であり、シスターにしては外見上若いを通り越して幼く見えるような容貌であるが、それには理由がある。その正体が吸血鬼である事である。なお、彼女が吸血鬼であることは四人のなかで成り行き上、ギルスだけが知らない。
「口で説明するより、見た方が早いと思うけど、治療用の道具だと思ってくれればいい」
「ふーん、何か怪しいけど、場所は?」
ヴァネッサは後から加入してきたギルスの事をかなり怪しんでおり、彼に対する風当りが強い。
「ここから南に行く事になるね。目的地はミベラの森になるけど、直接行くのは遠いから、一度ガヌラスの村に寄った方がいいかな」
王都は四方に町に囲まれている、その南にはガヌラスという村があり、ミベラの森はその近くにある。
「随分と詳しいね」
言われてみれば、エルフという種族は森に籠っているため、人間社会の都市や町に詳しいというのは、何か理由があるのだろうか。
「里から追放されて長いからね。王都の周りの地形ぐらいは知ってるよ」
エルフの里から追放された者として、ある程度人間社会には関わってきたという事なのだろう。
「じゃあ、王都の東にある都市は?」
ギルスの言葉を信じられないのか、ヴァネッサがギルスを試すような質問をした。
「海運都市アムーザスだよ。海に面しているから、港が栄えている」
これにもギルスは直ぐに答えた。どうやら本当に王都周りの地形には詳しいようだ。
「森の中っていうのは、エルフに会いに行くのか?」
お尋ね者のオリバーとしてはあまり王都の中で立ち話はしたくない。脱線し相違なった会話を元に戻すべく、これからの行先についての話をする。
道具を取りに行くと言いつつ、森に行くとギルスは言った。普通の人間は森には住まない上に、ギルス自身がエルフである。森の中に居るエルフに会いに行くと言うのは妥当な予想で会った。
「そうだよ。ルーベルっていう名前で、僕のフィアンセの妹だ」
どうやらヴァネッサの予想は当たっていたようだが、ヴァネッサは怪訝な顔をしたままだ。それには理由がある。エルフは一般的にエルフだけの里を作って森の中で生活している。しかしそれはミベラの森とは全く違う場所に位置している。エルフの里とは違う場所にエルフが一人でいる。しかもギルスはエルフの里から追放されたと聞いている。
「ひょっとして、そのルーベルっていうエルフも追放されたはぐれエルフ?」
「そうだよ」
追放されたエルフと交流を持つエルフが、まともとは思えないというヴァネッサの予想は、あっけなく肯定された。
それを聞いたリリアが口を挟む。
「まともに話のできる相手なんでしょうね」
リリアの警戒心を隠そうとしない質問を聞いたギルスは苦笑いをしながらもこう答えた。
「そういう心配はしなくていいよ。普通に会話のできる子だから」
まともに会話が成立するというのであれば、今度は如何なる理由でエルフの里を追われたのかという疑問が湧いて来る。
「そろそろフィアンセの名前ぐらい教えてくれてもいいんじゃない?」
ヴァネッサにそう言われて、オリバーは思い出した。ギルスからはフィアンセを助けたいとは聞いていたが、その名前を未だに聞いていない。何か言えない理由でもあるのかと予想していたところ、ギルスは隠す事なくその名前を教えてくれた。
「彼女の名前はマリルだよ」
●
正確にはユニオンというのは、ギルド公認の組織ではなく、冒険者の間で自発的にできたローカルルールである。魔物討伐には危険が付きものであり、仲間選びが重要になる。一度パーティーを組んだ相手は、その経験から信用できるかどうか判断が可能になる。相手が信用できる相手ならば、あるいは相手の戦闘能力が高い相手であれば、再度危険なクエストに挑む際にはもう一度パーティーを組みたくなるものだ。そうして常に同じメンバーで行動する者が一定数になり、自分達のグループに名を付ける者が出てきた。いつしか固定メンバーを囲い、名前を付けた集団の事をユニオンと呼ぶようになった。ユニオンを組んだからといってギルドから何か優遇されるという事は無いが、危険なクエストをこなす上で、信頼できるメンバーを集める手段として、ユニオンを作る冒険者は多い。そのユニオンのなかでも屈指の巨大ユニオンの一つが魔女の館であり、その拠点は王都にある。
先ほどオリバー、リリア、ヴァネッサが出発したのを見送ったユニオンリーダーのアンと、サブリーダーのサラは、団長室にて空賊に関連する話をしていた。
「例の死骸は無事に騎士団に回収されました」
状況の説明をしたのはサブリーダーのサラの方であった。彼女は何か書類を手にしており、それを見ている。恐らく彼女自身が実行したのではなく、部下からの報告を読み上げているのだろう。
「予定通だね」
その説明を団長用の椅子に座ったまま、アンは聞いていた。目標を達成したにも関わらず、彼女の顔には喜びや安堵と言った感情は現れなかった。アンにとってこの結果は当然の事なのかもしれない。
「はい。しかし、良いのですか。あれを人間に渡してしまって」
「いいんだよ。そろそろ人間側にも空賊の存在を知っておいてもらわないと、空賊が本腰を上げて侵攻して来た時に困るからね。少なくとも魔族と空賊は別物っていう見解は持っておいてもらわないと」
三百年前に魔族が空賊を退けた防衛戦争において、人間は魔族と空賊の区別がついていなかった。人間から見れば、魔族と空賊は人間とは異なる異形の者でしかなかったからだ。よって、人間達は魔族と空賊の戦いを仲間割れだと思い込み、それを神が人間を助けるために起こした現象だとして『神の奇跡』と呼んでいる。
魔族であるアンとサラは、あの時何が起きたかについては正確に把握しており、アンはそろそろ人間側にも空賊の存在を知らせる時が来たと考えていた。
「人間に空賊の正体が分かると思いますか?」
サラが先ほど言った例の死骸とは、空賊の死骸の事である。それを手にした人間達が、果たして空賊が何かを突き止められるかどうか、サラは疑問視しているようだ。
「無理だろうね。でも魔族とは違う何かが居るっていう認識ぐらいはできるだろう。あれは生き物かどうかすら分からない。少なくとも、野生生物や魔物の死骸とは思わないだろう」
それはアンも同じであり、人間に正体を突き止める事を期待しているのではなく、あくまで存在を認識させればよいと考えているようだ。
「我々でも正体が掴めていない空賊の死骸を渡すというのはやはり不安要素が残るかと思います」
既に事は終えており、死骸は人間の手に渡っているが、それでもサラはその状況について疑問を持っていた。
「だからこそ渡して良いんだよ。悪用できるほどあれの正体を解析できるとは思えない。まずはそういう存在がこの世界にいるっていう事実を伝えるところから始める必要がある。それには証拠となる死骸を渡すのが一番確実だ」
「未だに魔族の存在を認識していない人間でも、証拠となる死骸があれば空賊の存在を信じざるを得ないという事ですか?」
魔族は人間社会に溶け込み、その正体を隠して生活している。アンやサラがその最たる例だろう。魔族でありながら人間としてギルドに所属し、活動する。彼女たちの正体を知るのはユニオンメンバーを除けばごく一部だ。彼女たち以外にも多くの魔族がその正体を隠し、人間として暮らしているが、その状態を正しく認識できている人間はごく一部であり、ほとんどの人間は魔族の存在を知らず、空想上の生き物程度の認識である。
「そういう事だ。少なくとも、血と肉と骨で構成された普通の生き物とは違う。それぐらいは死骸を見ればすぐに分かるだろう」
「リーダーはアレが何だと思いますか?」
魔族にとっても、空賊が何かというのは実の所あまりよく分かっていない。
「さあね。体が金属でできているから、ゴーレムのような何かだろうとは予想しているが、ゴーレムとは違って魔導霊魂を埋め込んで動かしているのとは明らかに違う。体の内部構造も複雑だ」
ゴーレムの体の構成素材は土である。ゴーレムの多くは人型の形をしているが、体の内側が骨や肉といった素材で別れる事はなく、同一素材で構成されており、間接部などの可動部も魔術で制御されている。
一方であの魔物の死骸は、体の内部を少し見ただけで分かるが、細かい構成部品が多数存在している。
「あの死骸を見た所で、人間達は、魔族が作り出した産物という解釈をするかもしれません」
多くの人間は魔族を空想上の生き物だと思っている一方で、理解できない事象、とりわけ悪い出来事の原因を魔族が起こした事象だと考える傾向がある。
疫病の流行や天変地異といった人間に死者を出すような現象から、精神に異常をきたした人間の奇行まで、様々な現象を魔族の仕業で片づけようとする。
そういった現象の正体は、ただの自然現象であったり、人間が人間自身の罪の意識を逃れるために自らの行いを魔族の所為にしていたりしていたりしている事がほとんどであり、本当に魔族が原因である事の方が稀である。。
「可能性はあるだろうね。でも大部分の人間は魔族の存在すら認知していない。お陰でアタシ達魔族が3百年前に防衛戦争で空賊と戦った事はほとんどの人間は仲間割れによる戦いだと思ってるし、作り話だと思っている奴すらいる。そこに実際におかしな死体が出てきたら、それを魔族が作った存在なんて発想はしないと思うけどね。」
多くの人間にとって、魔族とは人間にとって不都合のある現象の原因をなすりつける都合の良い存在ではある一方で、魔族が実在すると考える人間は少数だ。例えば落雷で人が死んだ場合、それを悪魔の仕業として恐れることはあっても、悪魔に対して敵討ちを考えるような事は無い。
つまりは不条理な事象を受け入れるために、責任を擦り付けるために考え出された空想上の存在。それがほとんどの人間の考える魔族であった。
「あれを渡したからといって人間達が魔族に対して行動を起こす事はないという事ですか?」
魔族としても、人間が魔族は実在すると気が付く事は避けたいと考えている。そのような事態になれば、さらに魔族を人間の敵と認識し討伐を試みる事は容易に想像できるからだ。
「アレを渡しただけで、魔族が実在するって発想にはならないだろう。誰が作ったのかって疑問は持つだろうけどね。アタシとしては、既に人間界に移住してる魔族と人間との間で全面的な対立が起きなければ、あとは些細な問題だよ。人間が空賊の正体について探ってくれるなら、こっちとしても好都合だしね」
サラとアンはサキュバスであるが、サキュバス以外にも複数の魔族がこの世界に、魔族である事を隠しながら生活している。そう言った者達が今後も生活していける環境が維持する事こそがサラの行動理念であり、魔族全体の意向でもある。
なぜなら人間は魔族にとって食料だからだ。例えばサキュバスは人間の精を吸って生きているし、吸血鬼は人間の血を吸って生きている。
だからこそ魔族にとっては、人間の滅亡というのは、食料の消失を意味する。よって人間を滅ぼす可能性のある空賊については、人間側に危険性を認識してもらい、有事の際には人間に空賊と戦ってもらう必要がある。なすすべも無く人間に滅亡されては魔族にとっても死活問題になるからだ。だからこそ、空賊が存在する証拠として、空賊の死骸を人間に引き渡す事にしたのだ。
「確かにあの死骸を渡せば、空賊が実在するという事実は人間にも伝わりますが、その後に人間が他の空賊と遭遇した場合、参考資料として生け捕りにしようとするのではないですか?」
ギルドが掴んでいる情報では、あの死体の空賊は一定数が確認されている。つまりは生存する同種の空賊が現存するのだ。人間が空賊に対する情報をどこまで持っているかは不明だが、未知の死骸を入手し、その死体と同一種族で、なおかつ生きた状態の空賊と遭遇したら、研究のために生け捕りを試みるというのはそれほどおかしな事ではない。
「それは人間達に直接経験してもらうしかないよ。さすがにそこまで教えるのは不自然だろ」
既に空賊の存在を認知している魔族は、研究目的で、遭遇した空賊の生け捕りを試みているが、その際に大体同じ問題に直面する。人間もまた同じ問題に直面するだろう。それは今後空賊と戦う上で必要な知識であり、避けては通れない道だ。
それは人間自身が経験して知るべきだとアンは考えていた。
次話は7/1に投稿予定です。




