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黒刀と瑠璃眼の少女  作者: あると


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第79話 八尾の神気と、反撃の狼煙

「愛おしい仲間の技で死ねれば、きさまにとっても本望というものだろう……」

クラマの面影を残す八本の白銀の尾をゆらりと不気味に揺らしながら、カミーラは絶望に沈む千鶴を見下ろし、冷酷に嘲笑った。

そして、床に膝をつき絶望にうずくまる千鶴へと、手のひらを突きつける。

「さあ……仲間の技に抱かれて消え去るがいい」

カミーラがニヤリと笑い叫ぶと

「バカ……! 千鶴、早く立つんだ! 諦めるなよっ!!」

封狐(ふうこ)が切迫した焦りを滲ませて必死に叫んだ。

しかし、千鶴はすぐには動くことができなかった。

目の前に立ちはだかるのは、救い出すと心に誓った仲間・クラマの気高い姿と神通力をそのまま身に宿した存在。そのあまりにも重い事実が、千鶴の心と身体を絶望で硬直させていた。

そんな彼女の無防備な姿を見下ろしながら、カミーラは残忍に口元を吊り上げた。

「……死ね。『轟雷(ごうらい)』ッ!!」

ゴロゴロゴロ……バリバリバリッ────!!

天井付近の空気が激しい紫電を孕んで震えた。

次の瞬間――!

千鶴の頭上から、空間を断ち切る凄まじい稲妻の柱が一直線に落雷した!

ドゴォォォォンッ────────────!!!!

大広間全体を激しく揺さぶる極大の爆音。

衝撃波によって床の重厚な石片が粉々に舞い上がり、二人の視界を完全に覆い尽くすほどの濃厚な砂煙が大広間へ広がった。

「千鶴ぅぅぅっ────────────!!!!」

御館が悲痛な叫びを上げ、血を吐きながら叫ぶ。

しかし、カミーラは砂煙の向こうへ冷ややかな殺意の視線を向けただけだった。

「ふん、ずいぶん呆気なかったな……次は貴様の番だ」

そう吐き捨て、御館へと視線を巡らせようとした。

だが――。

「……ん……?」

カミーラの美しい眉が、かすかに不審に跳ね上がった。

舞い上がる砂煙の向こう側。

消滅したはずのその場所に、消え失せるはずのない気配が明確に残っていたのだ。

「……何故だ……?」

カミーラは氷のように冷たい目を細めた。

「何故、稲妻に焼き尽くされたお前が生きているのだ……?」

やがて、滞留していた砂煙が旋風とともにゆっくりと晴れていく。

そこに存在していたのは――。

稲妻の直撃を受けたはずでありながら、傷一つなく無傷のまま床に膝をついている千鶴の姿であった。

「……なっ……!?」

御館が驚愕に目を限界まで見開く。

千鶴のすぐ横には、激しい落雷によって黒く焦げ付き、直径数丈にわたって爆破された床のクレーターが広がっていた。

そう――稲妻は、あろうことか彼女を大きく逸れ、直撃していなかったのだ。

「なんだと……!? 何故当たらんのじゃっ!?」

カミーラは己の神通力が不発に終わったことが信じられないといった様子で、声を荒らげて叫んだ。

まさに、その時――!

『……そうか! そういうことか、千鶴っ!!』

精神の奥から、封狐がハッと確信に満ちた大声を上げた。

「……封狐? どういうことなの……?」

千鶴は顔を上げ、戸惑いながら精神の世界で尋ねた。

『あいつ、クラマの神通力と尾獣の力を完璧に扱えているように見せかけているだけだ!』

「え……?」

千鶴は戸惑いながらも、改めてカミーラの姿を見つめ直した。

『よく見てみなよ! あいつには確かにクラマと同じ八本の尾がある! でも……あいつの尾からは、尾獣達の魂がまったく感じられないんだ!』

『たとえクラマ様の姿や技の形を器用に模倣できたとしても、尾獣のみんなが力を制御して助けなければ、本当の力なんてまともに発動できるわけがないんだよ!』

封狐は力強く、確信を込めて言い切った。

『あいつはクラマの力を奪っただけで、これまでに目撃した技の『見た目』を真似て模倣しているだけなんだよっ!!…尾獣達がいないと意味がないんだ!!』

「……だから、あの『轟雷』も精度を欠いて当たらなかったのね……っ!」

千鶴の瞳に、絶望の影を払うかのように再び力強い不屈の光が宿った。

『そうさ! おそらくあいつは、クラマが過去に使った技を模倣しているだけに過ぎない! 見たこともない未知の技や、高度な制御が必要な術まで自由に扱えるわけじゃないんだ! あいつの力には限界があるっ!!』

「…………」

カミーラは二人の密かなやり取りを察したのか、苦虫を噛み潰したように黙り込んでいた。

その美しい高慢な表情からは、先ほどまでの絶対的な余裕が少しずつ削ぎ落とされていく。

一方、絶望の呪縛から解き放たれた千鶴は、純銀の『封印の剣』を支えにしながら、ゆっくりと凛とした立ち姿を取り戻した。

「……ふふふっ」

可憐な口元から、自嘲と気合いの混ざった小さな笑い声が漏れる。

「私らしくなかったわね……。敵のハッタリに惑わされて、こんなところで諦めかけてしまうなんて……!」

千鶴は禍々しい光を放つ『封印の剣』を強く握り直した。

神聖な瑠璃色の瞳が、明確な殺気をもって真っ直ぐにカミーラを射抜く。

「私は……みんなの想いを背負って、まだ戦えるわっ!!」

「……小癪な小娘がっ!!」

カミーラの冷酷な顔が苛立ちに歪んだ。

「ならば……この真の力を見ても同じことが言えるかぁっ!!」

ゴォォォォ……ッ────────!!

カミーラの変貌した身体から、ドロリとした濃密な黒い妖気が爆発的に噴き出した。

それは狂乱の渦を巻きながら全身を覆い尽くし、瞬く間にクラマの黒狐の力『黒の妖甲』を形作っていく。

黒い霧が鎧の表面を蠢き、大広間全体を圧迫するほどの不気味な重圧感を放っていた。

「黒い妖気の鎧……っ!」

千鶴は気を引き締め直し、激しい警戒をもって身構える。

だが、封狐は焦るどころか、確信に満ちた声で笑い飛ばした。

『千鶴、大丈夫だ! 惑わされるなっ!!』

「えっ……?」

次の瞬間――!

ボタッ……ボタボタッ……ゲチャッ!!

カミーラの全身を覆っていた漆黒の妖気の鎧が、突如としてその構造を保てなくなった。

まるで重すぎる湿った泥のように、黒い妖気が鎧の表面からボロボロと剥がれ落ちていく。

床に落ちた黒い塊は、ジュウウウ……と音を立てて惨めに蒸発し、かき消えていった。

やがて、カミーラが自信満々に纏ったはずの黒い鎧は、何一つ攻撃を受けることなく跡形もなく崩壊して消え去ったのだった。

「なっ……何故だ!? なにが起きたというのだ!?」

カミーラは己の濡れた手を見下ろし、信じられないものを見るように愕然とした。

「どうなっておる……!? 何故、この術が発動せんのだ!!」

その醜態を目の当たりにし、封狐がトドメの確信を込めて叫んだ!

『やっぱりだ! 尾獣の力なしで黒狐の鎧なんて、扱えるわけがないんだよっ!!』

「……今よっ!!」

千鶴は『封印の剣』を構え直し、鋭利な刃先を動揺するカミーラへと突きつけた。

勝機は、確かにある。

敵は九尾の王の圧倒的な神通力を得たかのように見せかけているが、その内実は不完全な模倣に過ぎず、全てを完璧に使いこなすことなど出来はしないのだ。

カミーラはしばらく己の身体を怒りに震えながら見つめていたが、やがて屈辱と激怒に顔を狂暴に歪ませた。

「……ええい、戯れ言はもうよいわっ!!」

背後の八本の尾が、空間を狂暴に叩きながら激しくうねる。

「使えん術など使わずとも、貴様らを八つ裂きにすれば、済むことだぁっ!!」

カミーラの両手から、真祖の長大な鋭い黒爪がギギギと音を立てて伸びた。

ギギギギギッ……────!!

爪の先端が石畳の床を容赦なく擦り、凄まじい火花を散らす。

「千鶴……ここからが本当の正念場だぞっ!!」

封狐が叫ぶ。

千鶴は瑠璃色の瞳をみなぎらせ、力強く頷いた。

「分かってるわ……っ!!」

そして――。

千鶴は石畳を鋭く蹴り砕き、決死の覚悟でカミーラへと一直線に突進した!

「はあああああっ────────────!!!!」

『封印の剣』が、暗黒と神聖の混ざり合う狂暴な光を放つ。

カミーラもまた、殺意に満ちた異形の黒爪を構えて真っ正面から迎え撃つ。

二つの殺気と魂が交錯し、壊れかけた大広間の空気が激しく破裂した。

真の決着を懸けた最終決戦が、今まさに火蓋を切った――!

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