第0076撃「メタ氏、初めての飲酒!!」の巻
平成4年1992年、5月、高校1年の1学期。
コンビニというものが、
まだ街のあちこちに当然のようにある、という時代ではありませんでした。
小生は、自宅マンションの階段を下り、
坂道をくだった向かいにある、
近所で唯一のコンビニ――「ローソン」へ、
ちょっとした軽食を求めて、しばしば足を運んでいました。
新商品はないものかと、
店内の棚をぐるりと一巡するのが、
ささやかな楽しみでもありました。
ふと視線の先の冷蔵コーナーに、
「牛丼」の文字が飛び込んできました。
値札を見ると、そこには—— 250円。
思わず二度見をしてしまいました。
この分量で、この価格。
満腹と財布の平穏が、同時に約束されているかのようで、
小生はしばし、その奇跡めいた数字を見つめていたのでした。
これは見過ごせないと、
さっそくレジへ持っていくと、
店長の奥さんが手際よく電子レンジで温めてくれました。
持ち帰って食べてみると、
これがなかなかに旨い。
愛犬のぺるにも分けてみると、
夢中になってバクバクと平らげました。
それ以来、
このローソンの牛丼は小生の生活に、
やや大げさに言えば、欠かせない存在となりました。
ある日の昼下がり。
小生は高校を休み、
自宅でのんびりと過ごしていましたが、
ふと空腹を覚え、
いつものようにローソンへ向かいました。
すると、雑誌コーナーの窓ガラス越しに、
見覚えのある姿が目に入りました。
かつて片思いをして、
ラブレター代わりに自作の漫画を手渡したところ、
見事に振ってくれた白鳥美子さん(仮名)です。
白鳥さんも、どうやらこちらに気づいたようで、
驚いたような顔つきで、
ちらちらと小生のほうを窺っています。
小生が店の奥へと進むと、
その隙をついて、彼女は雑誌コーナーからすっと離れ、
店のドアを抜けて外へ出ました。
そして、
警戒しているのか、何度も振り返りながら、
坂道を上っていきました。
「ぼくに見向きもしなかった白鳥さん、
ぼくはもう君に気はないんだぜ」
心の中で、
少しだけ芝居がかった台詞をつぶやきながら、
小生は牛丼を手に店を出ました。
その帰り道。
マンション地下のショッピングセンター街にある酒屋へ立ち寄り、
ふと、ひとつの缶に目が留まりました。
チューハイ。
生まれてはじめて、
その缶に手を伸ばしました。
「イチゴ味」と書かれていることが、
妙に気を惹いたのです。
帰宅すると、祖母は留守でした。
何気なく、
普段あまり足を踏み入れない祖母の部屋へ入ってみました。
すると、三段の木製カラーボックスの上に、
赤くて丈夫そうな箱に収められた「養命酒」があることに、
そのとき初めて気づきました。
〈おばあちゃん……〉
テレビのCMでしか見たことのなかった、養命酒。
祖母は、
いつのまにかそれを口にするようになっていたのだなと、
ぼんやり思いました。
いま祖母は、
どんな気持ちで、この家で日々を過ごしているのだろう。
体調の優れない日が増え、
寿命というものが、
静かに、しかし確かに近づいているのを、
感じているのではないだろうか。
気力の出ない日もあるなかで、
それでも老いた身体に鞭を打ち、
料理や家事をこなしてくれているのではないか。
そんな祖母に、
ぼくはいつも、
無理ばかり言っている。
〈ぼくの、おばあちゃん……〉
初めて口にしたイチゴ味のチューハイは、
甘酸っぱく、
春だというのに、
どこか心にひっかかるような、
せつない口あたりでした。
テレビのCMでは、
南佳孝の「スローなブギにしてくれ」が流れていました。
「I want you」というその一節が、
なぜか小生には、
「愛、恩寵〜」と歌われているように聴こえて、
しばらく耳の奥に残り続けました。
南佳孝の「スローなブギにしてくれ」
YouTubeで視聴する https://youtu.be/C8b-s4keVU0?si=Y0wMs-5Uh3CX39iK
続く。果てしなく続く……。
(まだまだ続くよーっ!お楽しみに〜!)
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