第0074撃「メタ氏、カンツォーネ歌手荒井基裕先生にアポ無し電話をかけてみる!!」の巻
平成4年1992年、4月、高校1年の1学期。
入部したての吹奏楽部にて、ある日、妙に重々しい空気を伴った重大発表がありました。
曰く、部員一同で駅頭に立ち、募金活動のボランティアに参加するとのこと。
女子の和賀先輩(仮名)も参加すると聞き、
万年暇人を自認する小生としては、これはもはや運命と受け取るほかなく、
ただひとつ、薬の副作用である眼球上転だけは勘弁願いたいと、密やかに祈りつつ、
皆とともに阪急電車へと乗り込み、石馬駅(仮名)へ向かいました。
現地では、五名ほどの部員が横一列に並び、
和賀先輩たち女子が募金箱を胸元に抱え、
小生はといえば、なぜか旗を持たされ、風もないのに微動だにせず立っていました。
やがて、部長の一声。
「さあ、死ぬつもりで大声だせよ!」
死ぬつもり、というのが比喩なのか本気なのか判然としないまま、
「どうか募金をお願いしま〜す〜ッ!」と声を張り上げます。
ところが、張り上げすぎたのがいけなかった。
一時間も経たぬうちに喉にじわりと痛みが走り、
声は見るも無惨にガラガラへと変貌を遂げました。
小生、もともと地声がやたらと大きく、
友人たちとヒソヒソ話を試みても、なぜか全体会議のような音量になるのですが、
どうやら声帯そのものは繊細なつくりであったようです。
やむなく、以降は虚無僧のごとく、ただ静かに佇み、
ときおり口パクを織り交ぜては、
あたかも精力的に活動しているかのような風情を装いました。
こうして、なんとか最後まで参加しきり、
参加記念として飲み物とお菓子を頂戴しましたが、
その甘味の裏側に、なにやら言い知れぬ疲労が残ったのは否めません。
どうにもこの日の体験が、心のどこかに小さな棘のように刺さってしまい、
「吹奏楽部とは、こういうものなのか」と思い至った小生は、
以降、部室という場所に足を運ぶ頻度が、見事なまでに減少していきました。
さて、自宅にて『KATO&KENテレビバスターズ』を観ていた折のこと。
アシスタント、いわゆるバスターズガールとして、
スーパーモンキーズなる女の子の一団が登場しました。
ドッジボールのコーナーでは、黄色いユニフォームに身を包み、
実に闊達に、そして躍動的に動き回っております。
その中に、ひときわ目を惹く少女がいました。
数年後には歌姫として大ブレイクし、
日本中でその名を知らぬ者はいない、とまで言われる存在——
安室奈美恵という名を、小生が初めて認識した瞬間でした。
一方で、その頃の小生はといえば、
相変わらずカンツォーネ全集のCDに心を預ける日々で、
その熱は一向に冷める気配を見せませんでした。
ある日、本屋にて「カンツォーネ」と銘打たれた本を見つけ、
ほとんど反射的に購入しました。
『カンツォーネとともに歩いた道: 王様の涙 lacrima di Reuccio 一名歌手クラウディオ・ビルラに捧ぐ』。
著者は荒井基裕さんという歌手で、
執筆当時すでに七十代とのことでしたが、
巻末近くには、レッスン教室も兼ねたカンツォーネ研究所の電話番号が記されていました。
思い立ったが吉日、と申します。
小生は、荒井先生のご都合などという高尚な配慮を一時棚上げし、
しかしながら心臓だけは律儀に高鳴らせつつ、
その番号を一桁ずつ、慎重に押していきました。
幸いなことに。
荒井先生はご在宅でした。
そして小生は、
クラウディオ・ビルラの大ヒット曲、
『Amor mon amour my love』が大好きであること、
いつかはカンツォーネも歌う歌手になりたいという夢を、
拙いながらも精一杯に伝えました。
すると先生は、
「きみは良い声をしてるね。とても良い声を持ってるよ」と、
やわらかく言葉を添えてくださいました。
その一言は、
静かでありながらも不思議な力を帯びていて、
小生の胸の奥に、じんわりと灯をともすように沁み込みました。
おそらくあの瞬間、
小生は自分でも気づかぬうちに、
ずいぶん遠くまで背中を押されていたのだと思います。
見ず知らずの少年からの突然の電話に、
貴重な時間を割いて付き合ってくださったこと、
ただただ感謝の念に堪えません。
けれどもそのひとときは、
どこか、仲の良い祖父と孫が他愛もない話に花を咲かせるような、
ぬくもりに満ちた、やさしい時間でもありました。
後日。
小生のもとへ、一通の封書が届きました。
差出人の名を見て、思わず背筋が伸びます。
荒井先生からでした。
丁寧に封を切り、そっと中身を取り出すと、
そこには先生ご自身のCDが収められていました。
あのとき、受話器越しに言葉を交わしただけの小生に、
このような心尽くしをしてくださるとは。
しばし、現実感が追いつかず、
ただ静かに、その円盤を見つめておりました。
やがて再生ボタンを押すと、
部屋いっぱいに広がる歌声は、
電話口で感じたあの温もりを、そのまま音にしたようで、
どこか懐かしく、そして不思議に胸に沁みてきます。
気がつけば小生、
姿勢を正して聴き入っておりました。
こうして。
愛聴する宝物が、またひとつ、静かに増えたのでした。
クラウディオ・ビルラ「アモール・モナムール・マイ・ラヴ」
YouTubeで視聴する https://youtu.be/zisMzqQXPec?si=uw4kFeD_KiUronCF
続く。果てしなく続く……。
(まだまだ続くよーっ!お楽しみに〜!)
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