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第0089撃「女と、相手にされない男」の巻


平成4年1992年、10月、高校1年の2学期。


平日は高校へ通学せず、日曜になると教会へ遊びに行く。

そんな生活をしていると、

いつまでも気楽な夏休みが続いているような気分にもなりました。


初秋の、風が少し涼しくなった日曜のことです。


その年の四月から教会へ来るようになった女子たちがいました。

縞谷(仮名)の後輩にあたる一年生で、何人かいたなかに、

木藤ゆか(仮名)や下岡恭子(仮名)がいました。


安西牧師(仮名)は、その下岡のことを、

当時女優として活躍し始めていた小田茜に似ていると、

太鼓判を押して賞賛していました。


礼拝が終わると、礼拝堂では昼食会が始まります。

彼女たちも、その昼食会に参加したことがありました。


料理が運ばれてくるまでの、ちょっとした待ち時間。

彼女たちは何やら楽しそうに談笑しています。


そのとき小生は、同じ礼拝堂のなかにあるピアノへ向かいました。

一人で椅子に座り、ピアノの蓋を開けます。


そして、習い事のドリマトーンで練習曲にしていた「さよなら人類」を弾き始めました。


しかも、ただ弾いたのではありません。

彼女たちに聞かせることを意識して、

これ見よがしに、鍵盤を打ち鳴らしたのです。


もしかすると、

「え〜! すご〜い!」

などという反応を、心のどこかで期待していたのかもしれません。

いえ、はっきりと言います。

期待していました。


ところが、現実というものは、

なかなか小生の思惑どおりにはいきません。

賛美どころか、お世辞のひと言さえありません。


下岡のお嬢様風情の外見からして、

きっと幼少期からピアノを習っていたのだろうと思います。

小生の演奏レベルなど稚拙で、耳ざわりのわるいものだったことでしょう。


彼女たちは何事もなかったかのように談笑を続け、

小生のピアノなど、そこに存在していないもののように扱われました。


まったく相手にされていません。


鍵盤を叩けば叩くほど、

ピアノはガチャガチャと音を立てるばかりで、誰も振り向きません。


思えば、うるさいだけのピアノ演奏に、

まわりの信徒の大人たちも、少々迷惑していたのかもしれません。

それでも、静かにするよう注意して小生のテンションを下げては悪いと思ったのでしょう。


あるいは、せっかくの日曜なのだから、

好きにさせておこうと思ってくれたのかもしれません。

大人たちは何も言いませんでした。

それは注意されるよりも、

ある意味ではずっとやさしい「放置」だったのだと思います。


やがて昼食会も、何事もなかったかのように終わりました。

その日の教会行事も、これでおしまいです。


一週間に一度の集いです。

さっきまで同じ場所にいた信徒のみんなが、

一人、また一人と挨拶をして帰っていきます。


「また来週」

そんな別れを繰り返しているうちに、なんとなく寂しくなってきます。

来週の日曜が、もう待ち遠しくてたまりません。


けれども、この日は少しばかり救いがありました。


小生には、その一時間後に予定があったのです。

電車で一駅ほど先まで行き、友人に会うことになっていました。

その予定があるおかげで、教会を去る寂しさも幾分まぎれました。


安西先生たちにも別れを告げ、小生は最寄り駅へ向かいました。

そして、阪急電車に乗りこみます。


車内を何気なく見まわしていると、

同じ車両に見覚えのある姿がありました。

例の、小田茜似の下岡です。

思わぬところで知り合いに出会ったのですから、

普通なら嬉しいところでしょう。


小生は彼女のほうへ寄っていき、声をかけました。

ところが。

あからさまに嫌そうな顔をされました。

まるで、こんな男と知り合いだと思われでもしたら、恥以外の何者でもない、

と顔に書いてあるようでした。


教会では何も反応してもらえなかったピアノ。

そして今度は、電車のなかで声をかけても、歓迎されない。


小生は、生まれも育ちも大阪市であるにも関わらず、

上手く切り返して笑いをとれるような器用な技能を持ち合わせていません。

そのため、彼女のそのような対応を前にすると、どうしていいのかわかりません。

生き地獄とは、こういうことをいうのかもしれません。


やがて次の駅に着きました。

小生は、

「じゃあね」

と、ひと言だけ伝えました。


しかし彼女は、小生のほうを見ようともせず、他所のほうを向いていました。

まったく相手にされていませんでした。


それでも小生は、また次の日曜になれば教会へ行くのでした。


大黒摩季「DA・KA・RA」(1992年)

YouTubeで視聴する https://youtu.be/sKKNBpW4eUQ?si=GbVdEBS-QlCxI7ow


続く。果てしなく続く……。

(まだまだ続くよーっ!お楽しみに〜!)



いつもお読みくださり、

無限の無限のありがとうございまする☆

ブックマーク(フォロー)していただけますと嬉しいです。

では、ご氣元よう‼️

( ⸝⸝•ᴗ•⸝⸝ )੭⁾⁾


↓過去の自叙伝も、

読んでいただけますと幸いです。


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