第0090撃「友人がテキ屋のバイトでお給料を得る!」の巻
平成4年1992年、10月、高校1年の2学期。
夏休みからテキ屋のバイトに日夜励んでいた、
中学時代からの友人でもある甲村(仮名)が、
数日前にバイトの最終日を迎えたと、電話で報告してきました。
同じく友人のカケル(七菱翔・仮名)も一緒に働いていて、
二人そろって無事に仕事を終えたとのことでした。
それで、おつかれ会をやるから一緒にカラオケにでも行こうや、
と誘われたのでした。
遊びにかかるお金は、すべて彼らが払ってくれるらしいです。
二ヶ月ほどテキ屋のバイトに汗を流した二人は、
それぞれ二十万円ほどの給料を手にしたからか、
幾分気が大きくなっているようでした。
まずは、彼らに好きなだけ歌わせます。
甲村がチャゲアスを歌い、続いてカケルがB’z。
ひと息つくと、再び甲村が飛鳥涼を歌い、カケルがGAOを歌います。
ひとしきり熱唱して、ようやく彼らが休憩に入ると、
今度は小生にも歌えよと声がかかります。
そこで小生は、
浜田省吾のバラード「悲しみは雪のように」を歌い上げました。
先ほどまで熱唱していた彼らは、
モニターに目をやりながら、
今度は静かに小生の歌声に聴き入ってくれています。
彼らと普段カラオケへ行くときも、大概こういう調子でした。
あまり歌い続けると疲れてしまう小生にとっては、ちょうどいい具合です。
それに、奢ってもらっている立場でもあるので、
彼らが満足するまで歌ってくれるのは、
こちらとしてもありがたいのでした。
翌日の夕方、甲村の家に呼ばれました。
部屋に入ると、買ったばかりの服がずらりと並んでいました。
全部、メルキューラ(仮名)で買ったとのことです。
〈ぼくの知らない間にメルキューラのお得意様になりおって!〉
羨ましくなりました。
小生が日々の暮らしのなかで、
服を一着買うにもあれこれ考えている間に、
彼は二ヶ月間働いたお金で、
好きな服を次々と買える身分になっていたのです。
「ちょっと高槻行こうや」
甲村に誘われ、阪急電車で高槻まで行きました。
駅を降りて、線路沿いにしばらく歩きます。
踏切のそばに、イカ焼きの露店がありました。
「茜ちゃん!(仮名) よっ! 来たで!」
甲村が声をかけると、イカを焼いていた女性がこちらを向いて微笑みました。
二、三歳年上で、十九歳くらいといった感じです。
外見はいかにもヤンキーなのですが、どこか優しそうな雰囲気がありました。
小生たちは、彼女から焼き上がったイカを奢ってもらいました。
それから、世間話を少ししました。
甲村は、どことなく照れくさそうにしていました。
帰る途中、彼と東泡嶋商店街(仮名)のお好み焼き屋へ寄りました。
そこで甲村が、ふと思い出したように口を開きました。
「実はな……、バイトの最終日な、茜ちゃんにラブホ誘われてん」
「さっきの人にか!」小生は、思わず声を上げました。
ヤンキーには特に興味がありませんでした。
しかし、あの女性と甲村がセックスしていたと聞くと、
なんともいえない気持ちになりました。
自分だけが、どんどん取り残されていくような感じがしたのです。
湯気を立てるお好み焼きを口に放り込み、濃いソースの味を噛みしめます。
その味が、胸の内に生じた複雑な気分を、ひとまず誤魔化してくれました。
それにしても、甲村の話には続きがありました。
バイトの最終日、茜ちゃんと並んでホテルへ向かう甲村のあとを、
コソコソと尾けていた者がいたというのです。
甲村が何気なく振り返ると、
路上駐車している車の陰から、こちらを窺う顔が見えたそうです。
その人物とは、カケルでした。
そして、甲村が茜ちゃんとホテルから出てくると、
今度は植え込みの茂みにカケルがまだ潜んでいたそうです。
いったい、いつからそこにいたのでしょう。
カケルはさぞかし、指を咥えて待っていたのでしょう。
小生はお好み焼きをほおばりながら、カケルのことを考えました。
別に、彼の肩を持つつもりではありません。
しかし、カケルの気持ちがわからなくもないのでした。
目の前で友人が、自分には縁のない世界へと進んでいく。
その後ろ姿を、ただ黙って見送るしかない。
そんな気持ちが、少しはあったのかもしれません。
その頃、毎週金曜の深夜に、
豊川悦司と武田真治が主演する、
『NIGHT HEAD』(ナイトヘッド)の放送が始まりました。
超能力を持つ兄弟の物語です。
〈自分も、こんなサイコキネシスパワーがありさえすれば、
とくに彼女などいなくても構わないのにな……〉
そんなことを考えながら、小生は妄想の世界に耽りました。
友人たちはバイトで稼いだお金を手に入れ、
好きな服を買い、女性との関係まで経験していました。
それに比べて、小生には何があるのだろう。
せめて、念じるだけで物を動かせるような力があれば。——
そうすれば、彼女がいないことくらい、
どうということもないはずです。
現実の世界では何ひとつ思いどおりにならなくても、
妄想の世界なら、どんな力だって手に入れられるのでした。
大橋純子「愛は時を越えて」(1992年)
YouTubeで視聴する https://youtu.be/VpySG4Uk-0M?si=7x-DZrx_hJMUN32S
続く。果てしなく続く……。
(まだまだ続くよーっ!お楽しみに〜!)
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