第0082撃「カケルのギター!!」の巻
平成4年1992年、7月、高校1年の1学期。
小生は、生まれて初めて手にした初心者向けのエレキギターを、
ほんの一瞬の不注意で壊してしまって以来、
再び手ぶらでカケル(仮名)の家へ通うようになっていました。
そんなある日。
彼の部屋へ上がると、
押し入れの襖がたまたま半開きになっていて、
その奥に一本のフォークギターが立て掛けられているのが見えました。
「これ、どうしたんや?」
気づけば小生は、
刑事さながらの事情聴取を始めていました。
彼の白状したところによると、
粗大ゴミの日に拾って持ち帰ったのだそうです。
なるほど。
しかし近寄って見ると、
弦は錆びて茶色く変色し、
表面はざらざらしています。
いくらチューニングを合わせても、
少し弾いただけで音程は狂ってしまいます。
ネックに添えた左手を滑らせると、
指の腹が切れ、
血が滲むほどでした。
このままでは、
ギターというより凶器です。
小生は泡嶋本町商店街のレコード店『エコーズ』(仮名)へ走り、
アコースティックギター用の弦を一セット買ってきました。
それから汚れをきれいに拭き取り、
一本一本丁寧に弦を張り替えました。
すると、
さっきまで別人のようだったギターが、
澄みきった音を響かせ始めたのです。
それ以来、
カケルの部屋へ行くたびに、
暇さえあれば自分のギターのように弾いていました。
そんなある日。
「これ、おまえにやるわ」
と、カケルがあっさり言いました。
どうやら本人は、
ギターを覚えることが出来なかったようです。
あるいは、
小生に練習させて腕を上げさせ、
女友達を家へ呼んだとき、
BGM代わりに演奏でもさせようと企んでいたのかもしれません。
ところが、
ありがたく頂戴したそのギターにも、
災難が待っていました。
自宅で何度も練習しているうちに、
ネックが折れたというより、
ある日突然、
根元から音もなく外れてしまったのです。
またしても、
残念な結末でした。
後日、
その報告を兼ねてカケルの家へ向かいました。
甲村(仮名)も遊びに来ていて、
二人で何やら大騒ぎしています。
見ると、
脱色液で茶髪にして大喜びしているのでした。
当時、
茶髪といえばヤンキーデビューの定番でした。
その一方で、
お洒落としても少しずつ広まり始めていた頃です。
「簡単に出来るから、
おまえも少しだけ染めてみろや」
ただ同然ですし、
ほんの数本だけならと、
小生も試してみることにしました。
カケルの感性にすべてを任せ、
小生は借りてきた猫のように、
じっと座っていました。
数十分後。
鏡を見ると、
数本どころではありません。
前髪の一角が、
見事な栗色になっていました。
少し洒落たような気もしましたが、
その一方で、
頭にケッタイな染みが出来たようにも見えて、
なんとも複雑な気分でした。
そのあとカケルが、
最近かわいい子を見つけたと打ち明けました。
『チキンデリカみなみかわ』の三人兄妹の次女が、
好みなのだと言います。
彼女は、
小生たちが卒業した芝嶋中学の、
一学年後輩で中学三年生でした。
『チキンデリカみなみかわ』は、
カケルの住む市営住宅から、
小生の住むマンションフォーエバーへ帰る途中、
歩道の片側に並ぶ個人商店の一番右端にある焼き鳥屋でした。
そんな話を聞いているうちに、
無性に焼き鳥が食べたくなってきました。
小生は帰宅すると、
祖母から千円札を一枚もらい、
その足で店へ走りました。
ガラスケースには、
何種類もの焼き鳥が整然と並んでいます。
小生のお気に入りは、
何といっても「若鳥串焼」でした。
一本四十五円。
十本買っても、
まだ財布には余裕があります。
もっとも、
気づけば二十本買う日も珍しくありませんでした。
店員にはさも当然のように、
甘いタレをたっぷり掛けてもらいました。
「ぺる吉っさーん! へーえ〜!」
むかしのテレビCMの掛け声を出しますと。
玄関を開けるより早く、
愛犬ぺるが猛ダッシュで迎えに来ます。
焼き鳥の匂いを漂わせて帰ってきたのですから、
その喜びようは格別でした。
ご飯を茶碗によそい、
焼き鳥の紙袋を開きます。
ぺるが食べやすいように、
小生が一つ噛んで竹串から外し、
そのまま口移しで食べさせました。
ぺるは、
小生の唇を噛まないよう気を遣っているのか、
前歯でそっと受け取ります。
そして、
クチャクチャと嬉しそうに噛みしめ、
ものの数秒で、
ごくんと飲み込んでしまうのでした。
「ぺる、
今夜はご馳走やったな」
ふたりであっという間に平らげると、
小生は紙袋の内側に残ったタレまで舐めました。
その紙袋を床へ置くと、
ぺるは夢中になってタレを舐め始めます。
雫ほどのタレも見逃さず、
紙袋が新品のようにつるつるになるまで舐め続けるのでした。
その姿を見ているだけで、
こちらまで幸せな気持ちになれたのです。
サザンオールスターズ「涙のキッス」(1992年)
YouTubeで視聴する https://youtu.be/X29U83Omgsk?si=4uxR1YbbonshWXQH
続く。果てしなく続く……。
(まだまだ続くよーっ!お楽しみに〜!)
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