第0081撃「メタ氏、初めての◯◯を経験する!!」の巻
平成4年1992年、7月、高校1年の1学期。
中学生のころから、
小生はテレビのCMにひどく心惹かれる子供でした。
CMの制作現場などの裏話も盛り込んだ雑誌『CM NOW』を買い始めていました。
『明星』とそれを毎号揃えることが、
小生のささやかな年中行事となってゆきました。
小生もまわりの連中同様、思春期真っ盛りというもので、
紙面の中で微笑む一色紗英たち、好みの異性の姿を、
ただじっと見つめているだけで、
どうしたわけか、
片手が自然と股間へと伸びてゆくのでした。
もちろん、身にまとったトランクスは、
天までとどけ! と言わんばかりに不格好なテントを張っていました。
性器の皮の剥きかたは知っていましたが、
それ以上何をどうすればいいかわかりませんでした。
湧き上がる名状しがたい衝動は、一向に収まる気配を見せません。
やむなく、己の陰茎を上下にまさぐってみますと、
えも言われぬ快美な感覚が、
じわじわと持続することを知ったのでした。
何度も手を動かしているうちに、
寄せては返す波のような高まりを覚えました。
その流れに身を任せていると、
突如として、
脳天を激しい稲妻が貫いたのです。
次の刹那、
そこから溢れ出たのは、
小便でもただの水でもない、白く濁った未知の液体でした。
それも、驚くほどの量で、
次から次へと噴き出したのです。
小生は、この身に起きたあまりの「大事件」に、
ただ狼狽するばかりでした。
それは一メートルほどの高さまで放物線を描き、
やがて、ぼとぼとと重みを持って、敷き布団の上へと落下しました。
いったい何が起きたのか、小生には少しも理解できません。
白濁しているものの、どこか緑色を帯びているようにも見えました。
これまで体内に蓄積されていた、
悪い膿のようなものが、
あるいは内臓に必要な分泌物が、
すべて枯れ果ててしまうのではないかと、
ひどく恐ろしくなったものです。
拭い去るには、ティッシュペーパーの二、三枚では到底足りません。
十枚どころか、一箱すべてを使い切るほどの勢いでした。
それ以来、
小生はその禁断の快感の虜となり、
毎日のように夢中になって耽溺しました。
体液を拭い、丸めたティッシュの塊は、
深い考えもなしにぽいぽいとゴミ箱へ捨てていました。
降って湧いたように、
我が家の紙の消費量が増えたことについて、
いま思えば、母も祖母も訝しんでいたに違いありません。
けれど、誰もが気づかない振りを、
通してくれていたのでしょう。
ある日のこと、留守から戻ると、
ゴミ箱が無惨にひっくり返っていました。
まるで微塵切りにでもされたかのように、
あたり一面に白い紙片が散らばっているのです。
その傍らで、愛犬のぺるが、
なんとも申し訳なさそうな顔をして座っていました。
小生の留守を狙って、
ぺるがそれを食べ散らかしていたのです。
ぺるは女の子でした。
人間ならざる身とはいえ、
異性の匂いに、狂おしく狂わされてしまったのでしょうか。
ちょうどその頃、
同じように愛読していた『週刊少年ジャンプ』の裏表紙に、
漆黒のエレキギターのセットを見つけ、
小生の目は釘付けになりました。
初心者向けの、ストラトキャスターと呼ばれるデザインの代物です。
手頃な価格のわりに、
小さなアンプやソフトケースまで付いてくるという。
教則本も同封されているため、
届いたその日から、憧れのミュージシャンになれる予感がします。
母にどのようにしてねだったのか、
今ではもう判然としません。
しかし、思いのほかあっさりと、
購入の許しが出たことだけは記憶しています。
ギターは、三角形の奇妙な段ボール箱に収められて届きました。
はじめは弦の張り方さえ分からず、
ずいぶんと難儀したものです。
小生は一刻も早く、
これを誰かに見せびらかしたくて堪りませんでした。
そのため、
届いた段ボール箱にそのまま楽器を突っ込み、
友人のカケル(仮名)の家へと、
いそいそと向かったのです。
その道中、
中学時代の同級生である囲見(仮名)に見つかり、
指を指されて笑われてしまいました。
ああ、またしても囲見か、と。
彼はどうして、
小生の人生の不格好な瞬間ばかりを、
こうも正確に目撃してしまうのでしょう。
付属のソフトケースは、
お世辞にも立派とは言えない、
ぺらぺらとした薄い布切れでした。
小生は祖母から裁縫箱と、
下ろしたての雑巾をいくつか借り受けました。
そして、一心不乱になって、
ケースの内側に雑巾を何枚も縫い付け、
頑丈な鎧のように仕立て上げたのです。
ところが、それから一ヶ月も経たないうちのことでした。
カケルの家へ持ち出すため、
エレキギターをベッドの上に横たえ、
小生は靴下を履こうと、少し腰を浮かせたのです。
そのとき、
背後に大切な楽器があることを、完全に失念していました。
そのまま腰を下ろした瞬間、
「ベキィッ」とも「ベシィッ」ともつかぬ、
忌まわしい音が部屋に響き渡りました。
慌てて振り返ったときには、
見事にネックが真っ二つに折れていました。
後悔、先に立たず。
買ったばかりの宝物を前に、
小生はただ、途方に暮れるばかりでした。
まだ手に入れてまもないというのに…。
マンションの地下にあるショッピングセンター街の一角に、
『ドムドムバーガー』が店を構えていました。
小生はギターを損壊した精神的打撃から逃れるようにして、
テリヤキバーガーを買いに走りました。
カウンターに立つ若い店員は、
小生と同い年くらいに見えましたが、
嫉妬を覚えるほどの美男子でした。
その上、憎らしいほどに接客が丁寧で、
朗らかな笑みを湛えており、
小生は己の完敗を悟ったのです。
帰り際、
泡嶋駅(仮名)の前に新しくできた、
大型電器店へと立ち寄りました。
きらびやかな照明の下、
巨大なブラウン管テレビが幾台も並ぶ売り場では、
すべての画面の中で、
映画『ターミネーター2』の液体金属のTー1000が、
ニュルニュルと、
銀色の腕を虚空へ伸ばし続けていたのでした。
森高千里「私がオバさんになっても」(1992年)
YouTubeで視聴する https://youtu.be/GewWg-T29Js?si=jBUJxM7MECIKEwZM
続く。果てしなく続く……。
(まだまだ続くよーっ!お楽しみに〜!)
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