表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢で出会ったモブ令嬢を王太子は絶対に手放さない  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/68

第47話 王太子の悔恨

 すう、すう、と。

 薬が効いてきたのか、セレナの呼吸がようやく安定し始めた。

 あれほど赤かった頬も、今は少しずつ熱が引き、穏やかな微睡みの中に沈んでいる。


 その枕元で、俺――レオナルトは、己の掌を見つめたまま動けずにいた。

 この掌には、先ほどまで抱き上げていた彼女の、壊れそうなほど華奢で、けれど確かな熱を帯びた体の感触が残っている。


「……すまない、セレナ」


 誰にも聞こえないほど低い声が、静かな部屋に落ちた。


 今朝、週に一度の逢瀬を約束させた時までは、まだ冷静だったはずだ。

 けれど、彼女が体調を崩して保健室へ向かったと聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。


 心底心配で、居ても立ってもいられず駆けつけたのは事実だ。だが、いざ彼女を目の前にすると、心配という名目の裏側で、どろりとした別の感情が鎌首をもたげた。



 誰にも邪魔されず、彼女の傍にいたかった。

 「最愛」だと叫んで、既成事実を作って、一刻も早く俺の婚約者にしたかった。

 夢の向こうで観測し続けてきた日々が長すぎたせいか、ようやくこの手に触れられる現実の存在として現れた彼女を前に、俺はあまりにも焦りすぎてしまった。


 誰にも邪魔されず、彼女の傍にいたかった。


 俺が彼女を抱き上げ、人目に晒し、寮まで強引に上がり込んだ結果が、この熱だ。


 道中、彼女が必死に俺の胸に顔を隠し続け、正体が暴かれるのを防いだのは、彼女なりの平穏への最後の抵抗だったのだろう。俺の独占欲が、彼女の体を、そして彼女が大切にしていた「平穏」をここまで追い詰めてしまった。


 ふと、セレナが苦しげに眉を寄せ、寝言のように小さく吐息を漏らした。

 俺は反射的に、その白く細い指先に触れようとして――、思い止まって手を引いた。


 今の俺に、彼女を慈しむ資格などない。

 この重すぎる情愛は、彼女にとっては救いではなく、ただの「逃げ場のない熱」でしかないのではないか。


 俺は立ち上がろうとして、結局そのまま椅子に深く腰を下ろした。

 せめて今夜だけは、彼女の眠りを守る盾になろう。


 明日、彼女が目を覚ましたら、どんなに冷たくあしらわれても構わない。

 ただ、この熱が引き、彼女が再び健やかに笑えるようになるまで。

 俺は、この場所を動かないと決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ