第39話 公開処刑は予鈴と共に
午後の講義、その開始十分前を告げる予鈴が、無慈悲に学園中へ鳴り響いた。
――それと、同時だった。
バァン!
特別保健室の重厚な扉が、無許可で、かつ勢いよく左右に撥ね飛ばされる。
「あら、あらあ……! お邪魔でしたかしら? まさか、これほど熱烈な最中とは思いませんでしたわ」
予鈴の音を突き破って響いたのは、鈴を転がすようなロシュフォール様の声。
至近距離で私の唇をなぞり、逃げ場を塞いでいた殿下の大きな背中は、扉の外からは深く重なり合っているようにしか見えなかったに違いない。
「……っ!!」
私は心臓を射抜かれたような衝撃に、弾かれたように殿下の手を振り払おうとする。
けれど、殿下は私の唇に触れていた指をわざとゆっくりと離すと、勝ち誇ったような笑みを浮かべたまま顔を上げた。
扉の先に立ち尽くすのは、ロシュフォール様の婚約者ヴィクトール様。そして、冷ややかな美貌を湛えた第二王子殿下。
「……兄上。予鈴が鳴りましたが。いつまでここに居座るおつもりですか」
第二王子の声は、剃刀のように鋭く冷たい。けれど、殿下の手が離れ、露わになった私の顔を正面から捉えた瞬間、彼の瞳が大きく見開かれた。
「……へぇ。本当に、いたんだ」
その呟きは、長年の謎が解けたような呆れと、深い納得が混じったものだった。兄が幼い頃から語り続けていた「夢の少女」。
お伽話だと思っていた存在が、今、目の前で怯えている。
そこへ、不意に訪れたのは、静寂。
鳴り響いていた予鈴が、止まったのだ。
その一瞬の空白を逃さず、殿下は私の指を恋人繋ぎでさらに強く絡め取ると、ゆっくりと立ち上がった。
「ちょうどいい。皆に紹介しよう」
静まり返った廊下まで届く、凛として圧倒的な響きを持つ声。
「彼女は、俺の最愛だ。二度と、見失うつもりはない」
――モブ令嬢としての私の人生が、完全に、完膚なきまでに死んだ音がした。




