↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢で出会ったモブ令嬢を王太子は絶対に手放さない  作者: 侑


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/68

理性を溶かす至福の毒

 翡翠の瞳に射抜かれ、顎を固定されたまま、私の思考は完全にショートしていた。


 至近距離で放たれた「奪いたくなる」という独占欲の塊のような言葉。かつサンドのソースの香りと、殿下が纏う清潔な白檀の香りが混ざり合い、脳を麻痺させていく。


 どうにかして、この空気を変えないと……!


 心臓の音がうるさすぎて、このままでは胸が弾け飛んでしまいそうだ。

 私は震える手で、スプーンを掴んだ。視界の端に映ったのは、殿下が私のために用意してくれた、まだ温かなスープの器。


「あ、あの……! 殿下こそ、お疲れではありませんか? 専属の方が腕を振るったスープ、冷めないうちに……殿下も、どうぞ!」


 自分でも何を言っているのか分からない。けれど、私はパニックの勢いのまま、スープを一口掬うと、殿下の唇の前に突き出した。


 いわゆる、逆「あーん」である。


 殿下の動きが、ぴたりと止まった。

 私を捕らえていた指先から、僅かに力が抜ける。完璧な美貌に、一瞬だけ「想定外だ」と言わんばかりの驚きが走ったのを、私は見逃さなかった。


 やった、隙ができた……!


 そう思ったのも束の間。

 殿下はフッと、喉を鳴らして低く笑った。


「…………ふむ。病人から給仕を受けるなど、王太子としてはいかがなものかと思うが」


 殿下は避けるどころか、むしろさらに顔を寄せると、私が差し出したスプーンを躊躇いもなく口に含んだ。

 翡翠の瞳が、じっと私を見つめたまま離れない。咀嚼するその喉の動きすら、酷く艶っぽく見えて、私はスプーンを握る手が震えるのを必死に抑えた。


「……悪くない。甘く感じるな」


「それは……野菜の甘み、ですから……っ」


「いいや、お前からの給仕だからだろう。……セレナ、お前からの誘いなら、たとえこれが毒であっても、俺は喜んで食らおう」


 殿下は空になったスプーンを私の手から取り上げると、それを戻した。

 そして、自由になった私の両手を包み込み、指先に深く、重い口づけを落とす。


「お返しだ。……このスープを飲み干すまで、俺がこうして手を握っていてやろう。それとも、またかつサンドがいいか?」


 余裕を取り戻した殿下の、逃がさないという意志を宿した微笑み。

 結局、私が必死に繰り出した反撃も、彼の深い愛の海に飲み込まれてしまうだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。