観測外のユウリ
顔が沸騰しそうなほど熱くなる。私は耐えきれず、両手で顔を覆って俯いた。指の間から漏れる吐息さえも熱い。いっそ、このままシーツの海に沈んで消えてしまいたい。そんな風に思ってしまうほど、今の状況は恥ずかしすぎた。
数分間とはいえ、殿下の夢に私が見られていた。それも、前世の姿まで筒抜けだったなんて。
いったいどこを、どの瞬間を覗き見られていたのだろう。それに、そもそも夢に見るというのはどういう現象なのだろうか。この世界には、魔法なんて存在しないはずなのに。
「……っ、ユウリからもっと詳しく聞いとけばよかった……!」
パニックに陥った私の口から、前世でこのゲームを布教してくれた親友の名前が、つい零れ落ちた。
「…………ユウリ?」
その瞬間、ベッドの縁に腰掛けていた殿下の気配が一変した。保健室の空気が、肌を刺すような冷たさを帯びていく。
恐る恐る指の間から顔を上げると、そこには先ほどまでの慈しむような微笑を消し去り、底知れない光を宿した瞳で私を射抜く殿下がいた。
「……誰だ、それは。二年生のユリアン卿のことか? それとも、君の領地の隣にあるカステル家の次男、ユリウスのことか?」
「えっ? いえ、それは……」
否定しようとしたが、殿下の追求は止まらなかった。彼はゆっくりと身を乗り出し、私の逃げ場を塞ぐように、ベッドのシーツに両手をついた。
至近距離で見つめるその瞳は、逃走を一切許さない。
「それとも――俺の『観測』が届かないところで、君が密かに通じている男か? 君がそんな風に、切実に名を呼ぶほどに」
あまりに美しい顔が、さらに近づく。その声はどこまでも穏やかで、だからこそ、その裏に潜む逃げ場のない執着が、私の背筋を震わせた。
まずい状況だった。「ユウリ」という響きだけで、殿下の脳内名簿から次々と候補者がリストアップされていく。
「ち、違います! 二年生のユリアン卿なんて、お話ししたこともありません! 遠くで姿をお見かけしたことさえ一度も……っ」
私は顔を覆っていた手を離し、必死に首を振った。それは嘘偽りのない事実だ。モブとして生きてきた私に、二年生の有力な貴族子弟と知り合う機会なんて万に一つもなかったのだから。
「……ほう。では、カステル家の次男、ユリウスの方か?」
「もっとありえません! 彼はまだ十一歳ですよ!? 子供じゃないですか!」
隣の領地のあの子は、私が最後に見た時はまだ幼さが残る少年だった。恋愛対象になんてなるはずがない。
必死の弁明を試みるが、殿下のシーツを掴む手は緩まなかった。それどころか、彼は私の至近距離で、ふっと皮肉げに目を細めた。
「十一歳か。……ずいぶんと正確に年齢を把握しているんだな。君は、自分の興味のない人間の歳をいちいち覚えているのかい?」
「それは……っ、お隣の領地の方ですから、社交上の知識として……!」
「十一歳なら、あと数年もすれば立派な男だ。そんなに魅力的な男なのか?」
その声は、泣き出しそうなほど切実で、それでいて逃げ出すことを許さない冷徹なまでの執着に満ちていた。




