第76話 望んだ再会
オニキス ユウの部屋 早朝(ユウ視点)
ドタドタドタッ。
廊下を駆け回る騒がしい足音で、
俺はゆっくりと目を開けた。
「……ちっ、うるせぇなぁ」
「なんだよ朝から……」
眠気を振り払う気にもなれず、
再び布団へ潜り込む。
念のため探知範囲だけを広げる。
……天使の襲撃じゃない。
異常事態ではないことを確認し、
俺は安心して再び目を閉じた。
その時だった。
バタンッ!!
勢いよく扉が開かれる。
「ユウ!! 起きろ!!」
「……なんだよ……」
布団に包まれたまま返事をすると、
次の瞬間、身体を思い切り揺さぶられた。
「ふざけてる場合か!!」
「カナちゃんが目を覚ましたんだよ!!」
「……は?」
頭の中が真っ白になる。
言葉の意味を理解するまで、
一瞬時間が止まったようだった。
「……ホントか!!」
俺は勢いよく飛び起き、
そのまま部屋を飛び出した。
オニキス ナツの部屋
部屋の前には、みんなが集まっていた。
「遅いねん! 何しとったんや!」
アキラの声も耳に入らない。
「悪い、どいてくれ!」
みんなをかき分け、俺は部屋へ飛び込んだ。
そこには…。
ベッドの上で上体を起こしたカナ。
その身体にレイナが泣きながら抱きついている。
ナツは少し離れた場所で、
そんな二人を静かに見守っていた。
「……カナ」
自然と声が漏れる。
「良かった……」
カナはこちらを見ると、小さく微笑んだ。
「ユウ兄……おはよう……」
その笑顔はいつも通りなのに、
どこか戸惑いが混じっていた。
「状況が……全然わからないんだけど……」
「……そうだよな」
俺は振り返り、入口に立つみんなを見る。
「悪い。少しだけ席を外してくれないか」
「あいよ」
マサキを先頭に、
みんなは静かに部屋を出ていった。
扉が閉まり、
部屋には俺、レイナ、ナツ、
そしてカナだけが残った。
俺はゆっくりとカナへ向き直る。
「カナ…」
「最後の記憶……思い出せるか?」
カナは目を閉じ、小さく頷いた。
「……みんなでニュースを見てて……」
少しずつ、記憶を辿るように言葉を紡ぐ。
「石田さんが……鳥になって……」
「レイ姉に抱えられて……」
「橋本さんとレイ姉が……石田さんと戦って……」
そこで言葉が止まった。
部屋に静寂が流れる。
やがてカナはゆっくり顔を上げた。
「……みんなは?」
その問いに、胸が締めつけられる。
「……生き残ったのは、レイナとカナだけだ」
カナは何も言わなかった。
ただ、ゆっくりと俯く。
その横で、ナツが突然深く頭を下げた。
「カナ……ごめん」
震えた声だった。
「俺が……俺が西京都へ行こうなんて言わなければ……」
「俺たちが事務所に残っていれば、みんなは……」
「ナツくん」
カナが静かに声をかける。
頬には涙が流れていた。
「ナツくんのせいじゃないよ」
「いや……俺の判断が…」
「違う!」
カナは涙を流しながら首を横に振った。
「悪いのは……あんなひどいことを考えて、
みんなを殺した人たち……」
「だから……そんなこと……もう言わないで……」
ナツは何も返せなかった。
ただ唇を噛み締め、肩を震わせる。
「……カナ」
小さく名前を呼ぶことしかできない。
しばらく誰も口を開かなかった。
やがてカナが静かに尋ねる。
「私……どれくらい寝てたの?」
「一週間くらいだ」
「……寝てる間に、何があったの?」
「長くなるぞ」
俺は椅子を引き寄せ、ゆっくりと話し始めた。
西京都を襲撃したこと。
突如現れた天使と悪魔。
龍華による世界への核攻撃。
壊滅した世界。
政府機能を失った日輪。
そして、悪魔との共闘。
最後に…五日後、
天使との決戦が待っていること。
俺が話し終える頃には、
部屋は静まり返っていた。
カナは情報を整理するように俯き、
小さく息を吐く。
「……いろんなことがあったんだね……」
「頭が……パンクしそう……」
「……いろいろありすぎた…」
俺は苦笑しながら頷く。
隣を見ると、レイナと目が合った。
俺が小さく視線を送ると、レイナも静かに頷く。
言葉はいらなかった。
俺たちはそっと立ち上がる。
部屋を出ようとした時、振り返る。
ナツはまだ俯いたままだった。
その前で、カナは静かにナツを見つめている。
……ここから先は、二人だけで話した方がいい。
俺は静かに扉を閉めた。
そしてレイナと共に、
みんなが待つダイニングへ向かった。




