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第75話 目覚め


オニキス 中庭 深夜(ユウ視点)


夜風が静かに頬を撫でる。


俺はベンチに腰掛け、

一本のタバコへ火をつけた。


煙が夜空へ溶けていく。


「……ここ数日で、タバコの本数増えてるな……」


苦笑しながら空を見上げる。


昨日の戦いが頭をよぎる。


マモンとアモン…。


強かった…。


流れで戦うことになったが、

あいつらは本気じゃなかった。


もちろん俺も…。


殺すつもりで戦えば、

結果は変わっていたかもしれない。


「……大天使も、あいつらくらい強いんだよな…」


数日後には、

命の奪い合いが始まる。


俺たちは…。


全員、生き残れるのか。


「……いや」


小さく首を振る。


「犠牲を出した時点で……負けか」


短くなったタバコを地面へ落とし、

火種を踏み消す。


その時だった。


コツ……


コツ……


静かな足音が近付いて来る。


振り向くと、

そこにはマモンが立っていた。


『ユウ』

『一人で何をしている?』


「……お前たちと戦ってさ」

「天使に勝てるか分からなくなって、考え込んでた」


マモンは少し意外そうな顔をする。


『お前が勝ったのにか?』


俺は苦笑した。


「お前、本気出してなかったろ?」


『まあな』

『殺せる可能性のある技は使わなかった』

『だが、それはお前も同じだろ?』


「……あぁ」


俺は頷く。


「お互いに殺せる手段があった」

「つまり、本気で殺し合えば結果が変わる可能性があるってことだ」


マモンは腕を組み、

静かに夜空を見上げた。


『……否定は出来んな』


「それは魔王と同格の七大天使にも言える話だ」

「もし一撃で殺せる力を持ってるなら……」

「戦闘が始まった瞬間、誰かが死ぬかもしれねぇ…」


夜風だけが流れる。


しばらくして、

マモンが口を開いた。


『……ユウ』

『お前は』

『犠牲を出さずに勝つつもりなのか?』


俺は迷わず答えた。


「当たり前だ」

「俺が誰一人死なせねぇ」

「絶対にだ」


マモンは小さく笑った。


『……お前は甘い…』


一瞬だけ間が空く。


そして。


『だが』

『その甘さは嫌いじゃない』


思わず笑ってしまう。


「褒めてんのか、それ」


『さぁな』


俺は新しいタバコを一本取り出し、

火をつけた。


「……ラファエルの奴」

「迷ってると思うか?」


マモンは少し考え込む。


『神の意向に背くなど、本来ありえない』

『だが……』

『奴は癒しを司る天使だ』

『生命が死ぬことを望まない』

『その葛藤があるんだと思う…』


「……やっぱ、それしかねぇか」


『ルシファーも言っていた』

『奴は策を弄するような性格ではない』

『罠を張るタイプではないって』


俺は煙を吐き出す。


「戦闘が始まったら様子を見るか」

「……いや」

「真っ先に狙うべきかもしれねぇな」


マモンは何も答えなかった。


ただ静かに頷くだけだった。


しばらくして、

俺は大きな欠伸をする。


「……悪い」

「眠くなってきた」

「付き合ってくれてありがとな」


マモンも立ち上がる。


『いや』

『俺も話せてよかった』

『おやすみ、ユウ』


「おう」

「おやすみ、マモン」


タバコの火を消し、

俺は自分の部屋へ戻る。


残された煙だけが、

静かな夜空へ溶けていった。






オニキス ナツの部屋 早朝(ナツ視点)


朝日がカーテンの隙間から差し込む。


俺は椅子に座ったままベッド横で目を覚ました。


気付けば、

また寝落ちしていたらしい。


カナが眠り続けるようになってから

毎晩こうして手を握り続けていた。


少しでも。


一人じゃないって伝えたかった。


俺は優しく微笑む。


「……おはよう、カナ」


もちろん返事はない。


今日も。


昨日と同じ朝。


そう思っていた……その時。


ピクッ……


「……?」


指先に違和感が走る。


今。


動いた……?


気のせいかと思った、その瞬間。


ぎゅっ……


握っていた手が、

ほんの少しだけ握り返された。


「……っ!!」


俺は椅子から立ち上がる。


「カナ!」


まぶたが震える。


呼吸が少し深くなる。


ゆっくり。


本当にゆっくりと。


閉じられていた瞳が開いた。


ぼんやりとした視線が、

俺を映す。


カナはかすれた声で呟いた。


「……ナツ……くん……?」


その一言を聞いた瞬間。


張り詰めていた糸が切れた。


「……っ」


声にならない。


気付けば、

大粒の涙が頬を伝っていた。


何度も。


何度も。


「……よかった…」


震える声で、

それだけを繰り返した。


カナはぼんやりと俺を見つめる。


「なんで…泣いてるの…?」


まだ何が起きているのかわからないみたいだ。


「いろいろ…あったんだよ…」


それでも俺の顔を見ると、

安心したように小さく笑った。


その笑顔を見た瞬間。


俺はもう一度、

涙をこぼした……。

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