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第74話 強欲と憤怒


オニキス 裏門前 昼(ユウ視点)


風が身体を撫でる。


誰も口を開かない。


裏門前に張り詰めた空気だけが、

静かに包んでいた。


「行くぞ」


俺は空を蹴る。


一瞬でマモンの懐へ潜り込み、刀を一閃。


キィンッ――!!


「!?」


斬撃は止められた。


それだけなら驚かった。


俺の視線を奪ったのは、

マモンが握る一振りの刀。


それは…。


「……俺の刀…」


紛れもなく、俺が振るっている刀だった。


マモンは口元を僅かに緩める。


『動揺しているな』


俺は刀を弾き返し、大きく距離を取った。


「その刀……どういう能力だ?」


マモンは肩を竦める。


『原典侵食(オリジン・イーター)』

『対象の所有物の複製を生み出す力だ』


「コピー能力か」


マモンは静かに笑う。


『対象を殺した瞬間、原典は世界から消える』

『残った複製だけが、本物として世界に定着するのさ』


「……なるほど」

「強欲らしい能力だな」


『そう褒められると、悪い気はしないな』


その瞬間だった。


『おい!!』


背後から膨大な魔力。


俺は反射的に振り向く。


アモンの巨大な両手剣が唸りを上げながら振り下ろされる。


ガギィィン!!


刀で受け止める。


「ぐっ……!」


重い。


今まで受けたどの一撃よりも重い。


刀が悲鳴を上げる。


ミシ……ミシッ……


「……ちっ!」


刀が折れる前に力を逃がし、

そのまま身体を捻って攻撃を受け流す。


数歩下がり、右腕を軽く振った。


痺れが抜けない。


「なんだ……この馬鹿力」


アモンはニヤリと笑う。


『当然だろ』

『お前の力も、乗せてるんだからな』


「……どういう意味だ?」


アモンは胸を張る。


『激情共鳴(レイジ・レゾナンス)』

『俺が怒りを向けた相手の強さまで、俺の力が引き上げられる』

『だから、お前がどれだけ強かろうが関係ねぇ』


「……あっそ」


俺は淡々と刀を鞘に納める。


アモンが眉をひそめた。


『なんだ?』

『諦めたのか?』


「んなわけねぇだろ」


俺は小さく息を吐く。


「殺さねぇように、どう加減するか考えてただけだ」


一瞬。


アモンの額に青筋が浮かぶ。


『……てめぇ』

『俺を怒らせるとどうなるか』

『教えてやるよ!!』


轟ッ!!


魔力が爆発的に膨れ上がる。


一直線に突っ込んで来るアモン。


速い。


重い。


だが……単調。


俺は最小限の動きだけで大剣をかわし続ける。


そして。


静かに腰を落とし、

居合の構えに移る。


その瞬間。


マモンの表情が変わる。


『アモン!!』

『距離を取れ!!』


「遅せぇよ」


……一閃。


空気が切り裂かれた。


スパッ……


アモンの右腕が宙を舞う。


『ぐっ……!!』


腕を押さえるアモン。


すぐに左手で回復魔法を発動する。


だが。


何も起こらない。


『な……なんでだ……!?』


「お前、俺の力を利用して強化してんだろ?」

「だからだよ」


俺は再び刀を鞘へ納める。


「残念ながら」

「俺、回復系だけは壊滅的なんだわ」


『……!?』


「ジュン!」

「マサキ!」

「悪い、回復頼む!」


「あいよ!」


「任せろ!」


二人が一歩前に出る。


アモンは不満そうな顔をしながら裏門に降りて行った。


俺は再びマモンへ向き直る。


「さて」

「これで本気を出してもいいな」


マモンは苦笑した。


『意外と頭が回るんだな』

『もっと真正面から押して来る奴かと思っていた』


「まあ……感情が乗るタイプではあるけど…」


『そのお前がそれだけ冷静に…』

『随分と余裕なんだな』


次の瞬間。


マモンが空を蹴る。


ガキィン!!


鍔迫り合いしながら、

俺たちは視線をぶつけ合う。


『強いことは認める』

『だが、アモンは油断しただけだ』


「そうだろうな」

「でも、戦場じゃ油断も慢心も死因だぞ」


マモンは押し返しながら低く笑う。


『……なるほど』

『それをわからせるために戦ったと』


「いや?」


俺も笑う。


「理由なんかねぇよ」

「ただムカついただけだ!」


一瞬の静寂。


そして。


『……そうかい!!』


火花が散る。


斬撃。


斬撃。


お互い一歩も譲らない。


一太刀入れる。


だが押し返される。


技では勝っている。


それでも力負けする。


押しきれない……。


そして…。


時間が経つにつれて。


「……はぁはぁ…」


俺の息が上がり始める。


マモンは淡々と刀を振る。


『勉強になるな』

『ただ一つ思った』

『お前の剣は綺麗すぎる』


「現代の居合も剣道も」

「殺すためだけに磨かれた技術じゃないからな」


『なら』

『このまま決着だ』


「……悪いな」


俺は苦笑した。


「俺、負けず嫌いなんだ」


竜化(中)。


ゴォォォォ……


空気が震え、

闇の魔力が竜の咆哮のように吹き荒れる。


身体から魔力が噴き上がり、

闇竜翼がさらに巨大化する。


皮膚には黒い竜鱗、

額から竜角、

指先には鋭い竜爪が現れる。


《ふぅ」

《第2ラウンドだ」


マモンは思わず顔をしかめた。


『……ちっ』

『ここでそれは反則だろ』


《降参してもいいぞ?」


『断る』

『少しくらい足掻かせてもらう』


俺は一気に踏み込む。


ガギィン!!


今度は違う。


刀を合わせる度に、

マモンの身体を大きく弾く。


さっきまでとは違い、

力ずくで押しこみ続ける。


すると、刀を弾かれマモンの胴ががら空きになった。


《終わりだ」


ドォォォン!!


渾身の蹴りがマモンの腹へ突き刺さる。


マモンは裏門まで吹き飛び、壁へ激突した。


土煙が舞う。


俺はゆっくり高度を落とし近づく。


マモンは身体を起こしながら苦笑した。


『……痛っ』

『もう終わりだ』

『やってられっか』

『まさか、人間相手にここまで追い込まれるとはな』


俺は小さく笑い、竜化を弱まで落とした。


「はぁ……」

「俺も疲れた」


すると。


『おいユウ!!』


治療を終えたアモンが立ち上がる。


『もう一回だ!!』

『今度こそ決着つけるぞ!!』


「いやいや」

「さすがに今日は無理だ」

「天使との決戦が終わって、無事だったら付き合ってやる」


『そりゃねぇだろ!!』


その時。


「はいはい」


アキラが呆れたように前へ出る。


「もう日も暮れてきとる」

「今日は終いや」


レヴィアタンも苦笑する。


『ほら、行くよ』


二人はアモンの両腕を掴み、そのまま屋敷へ引きずっていく。


『離せぇぇぇ!!』

『まだ終わってねぇぇぇ!!』


夕日に照らされたオニキスに、

アモンの叫び声だけがいつまでも響き続けていた。


決戦まで……あと五日。

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