第72話 ノヴァ
オニキス ダイニング 朝(ユウ視点)
ルシファーが静かにベルフェゴールを見る。
『……なぜお前が知っている』
ベルフェゴールは頭を掻いた。
『昔……ちょっとな……』
俺は首を傾げルシファーを見る。
「逆になんでお前が知らないんだよ、元天使だろ?」
ルシファーは静かに目を閉じた。
『我は……そのことを話せない』
「……?」
『創世神によって封じられている』
ダイニングが静まり返る。
「そういうことか……」
俺は小さく息を吐いた。
「悪かった」
『気にするな』
再び沈黙が流れる。
ミツルが静かにベルフェゴールを見た。
「聞かせてくれ」
ベルフェゴールは面倒そうに欠伸をする。
『はぁ……』
『まずは、名前を知った経緯から話そうかぁ……』
過去編(ベルフェゴール視点)
昔。
暇だった俺は、
転移門をあちこちへ繋げて遊んでいた。
行ったことのない場所。
見たことのない景色。
それを探すのが、
数少ない暇潰しだった。
そして、その日。
開いた転移門の先は……。
真っ白だった。
『……おいおい』
俺は思わず立ち止まる。
『ここって……天界じゃねぇか……』
慌てて帰ろうと転移門を開こうとする。
だが。
『……あれ?』
……発動しない。
何度試しても同じだった。
『閉じ込められた……?』
しばらく考えたが、
どうせ帰れないなら仕方ない。
俺は好奇心のまま歩き始めた。
地面は雲。
建物も。
壁も。
柱も。
扉までもが純白。
『目がチカチカするなぁ……』
どれだけ歩いただろう。
俺は一つの大広間へ辿り着いた。
何もない。
広い空間。
そこには……。
小さな光の球だけが、
静かに浮かんでいた。
『……なんだ?』
不思議と足が動く。
吸い寄せられるように近付いていく。
その時だった。
《珍しい訪問者ですね》
『!?』
俺は反射的に身構える。
『誰だ!?』
光は静かに揺れた。
《私はノヴァ》
《この世界を創った者です》
『へ?』
『……創世神!?』
思わず声が漏れる。
《そうです》
優しい声だった。
責める様子も。
怒る様子もない。
少しの沈黙。
やがてノヴァが尋ねる。
《……この世界は、どうですか?》
『急に言われてもなぁ……』
頭を掻く。
『悪魔からしたら普通かな』
ノヴァは静かに頷いた。
《……では》
《人間については、どう思いますか?》
『人間?』
少し考える。
『いい奴もいる』
『でもさ』
『同じくらい醜い奴もいる』
『同族同士で争って』
『弱い奴を奴隷にして』
『理由もなく痛めつけて』
『そのくせ、自分たちは正義だって顔してる』
俺は苦笑した。
『悪魔の俺が言うことじゃないけどさ』
『あいつら、結構どうしようもないよ』
しばらく返事は無かった。
やがて。
ノヴァが小さく呟く。
《……やはりそうですか…》
《私は…》
《愛で溢れる世界を…》
《作りたかった……》
《ただ…それだけだったのですが……》
光が小さく揺れた。
一粒。
また一粒。
淡い光が床へ零れ落ちる。
『……泣いてるのか?』
《……》
返事は無かった。
その時。
『侵入者です!!』
遠くで天使達の声が響く。
『やべっ』
俺は振り返る。
すると。
目の前に光の転移門が開いた。
《話をしてくださり》
《ありがとうございました》
《門は開きました》
《あの子達に見つかる前に、お帰りください》
俺は転移門へ向かう。
その時。
《最後に》
《あなたの名前を教えていただけますか?》
俺は少し笑った。
『ベルフェゴール』
『ありがとう、ノヴァ』
『またいつか話そう』
光の門へ飛び込む。
振り返ると。
ノヴァは静かに揺れていた。
《えぇ》
《楽しみにしています》
《……ベルフェゴール》
あの日。
俺はもう一度、
ノヴァと会う日が来ると思っていた。
まさか、敵になる日が来るなんて。
夢にも思わなかった。




