第63話 滅亡の選択
時は少し遡る……。
星条連合首都 リバティア
二つの軍勢が激突し、
空が黒と白に割れていた。
悪魔と天使。
数万を超える軍勢が首都上空を埋め尽くしている。
爆音が鳴り響き、
魔法が飛び交い、
悲鳴が上がる。
戦場は既に地獄だった。
その中心で、
漆黒の翼を広げた魔王。
ルシファー。
対するは、
純白の翼を持つ大天使。
ミカエル。
轟音。
空気が弾け、
闇槍と光剣がぶつかる度に衝撃波が街を揺らした。
ルシファーが笑う。
『そんなものかミカエル』
『神の右腕の名が泣いているぞ』
『悪魔に落ちたあなたには言われたくありませんね』
ミカエルが冷静に返す。
再び激突する二人。
空中で幾度も斬撃が交差する。
互角。
どちらも決定打を与えられない。
一方その頃、
別の戦場では。
『邪魔よ!』
レヴィアタンが空に津波を起こし、
天使を呑み込み。
『消えろォォ!!』
アモンの炎が数百の天使を焼き払い。
『金にならねぇ戦いは嫌いなんだが…』
マモンが天使の武器を奪い使いこなし。
『やっぱり天使は美味いねぇ』
ベルゼブブが天使を捕まえて生きたまま喰らう。
下級悪魔も次々と倒れていく。
だが。
天使の減少速度の方が遥かに速かった。
魔王達が強すぎる。
ミカエルは苦い顔をした。
このままでは押し切られる。
七大天使が揃えば勝機はある。
だが。
依代が見つからない。
ミカエルはルシファーを弾き飛ばす。
『っ!』
ルシファーが後退させられ、
その隙に、
ミカエルは天高く飛翔した。
膨大な光が収束する。
『ジャッチメント・レイン』
無数の光槍。
空を覆う光の大群が、
降り注いだ。
ドドドドドドドドドドッ!!!
下級悪魔が吹き飛ぶ。
悲鳴。
爆発。
レヴィアタンの肩を光槍が貫き、
アモンの腹が裂け、
ベルゼブブも吹き飛ばされた。
『チッ』
ルシファーが舌打ちする。
ミカエルは探知を広げた。
街全域。
数百万人。
その全てを探る。
七大天使の依代となる人間を。
しかし。
いない。
誰一人として。
『馬鹿な……』
焦りが浮かぶ。
時間が足りない。
ルシファーが戻ってくる。
その後ろには。
レヴィアタン。
アモン。
マモン。
ベルゼブブ。
五人の魔王が並ぶ。
圧倒的威圧感。
ミカエルは歯を食いしばった。
その時だった。
ゴォォォォォ……
不気味な音が響く。
全員が空を見る。
『……?』
アモンが眉をひそめた。
そこには、
夜空に無数の光があった。
流星群。
そう錯覚するほどの数。
だが、
それはリバティアに飛んでくる。
魔王たちですら引いていた。
すると、ベルゼブブが呟く。
『なんだ……あれは』
『気持ち悪い……』
膨大な悪意。
呪い。
憎悪。
殺意。
人類史が生み出した負の感情。
魔王たちは、
それら全てを凝縮したような存在に感じていた。
ルシファーがミカエルを睨む。
『貴様の仕業か』
ミカエルは静かに首を横に振った。
『いえ』
そして。
小さく目を閉じる。
『人間達が自ら選択したのです』
静寂。
『滅亡する未来を』
ルシファーの目が細まる。
ミカエルの身体が浮上する。
生き残った天使達も次々と上昇していく。
ルシファーが低く呟く。
『待て』
『どこへ行く』
アモンも叫んだ。
『ミカエル!!』
『逃げるのか!!』
ミカエルは振り返る。
その表情に迷いは無かった。
『神の意向です』
『あの兵器が使われた場合』
『我々が手を下す必要はない』
『撤退するようにと…』
天使達がさらに上昇する。
『では』
次の瞬間。
天使達は天へ消えた。
静寂。
残されたのは悪魔達と地上の人間たち。
そして、
近付いてくる核。
ルシファーが空を見上げる。
『……来るぞ』
約四百発。
数え切れない光。
『迎撃しろ!!』
ルシファーが叫んだ。
悪魔達が一斉に動く。
火、水、風、土、雷、闇
無数の魔法が放たれる。
空が爆発で埋め尽くされた。
核が次々と破壊される。
だが。
ベルゼブブは違った。
『あーん』
巨大化した口で核を丸呑みする。
一発。
二発。
喰らう。
そして。
顔をしかめた。
『……?』
違和感。
妙な味。
『これ不味すぎる……』
ベルゼブブが呟く。
『毒かな?』
ルシファーが目を見開いた。
ミカエルの言葉。
天使の撤退。
滅亡の選択。
『……そういうことか』
顔色が変わる。
ルシファーは夜空を見上げた。
降り注ぐ終末。
そして。
迎撃され続ける核。
『愚かな……』
ルシファーの声は低かった。
『自ら…この世を終わらせる気なのか……』
その時。
「シェルターに逃げろぉぉお」
「もう…終わりだ……」
人々が空を見上げ逃げ惑う。
他国を脅すために使っていた兵器に、
今、自分たちが滅ぼされる絶望を感じながら。




