第62話 滅びの種
オニキス ダイニング
黒い裂け目が開き、
俺とベルフェゴールが姿を現す。
「お疲れ〜」
俺がそう言った瞬間だった。
「ユウ!」
レイナが立ち上がり、
勢いよく駆け寄ってきた。
「大丈夫?」
「怪我はない?」
レイナは勢いよく聞いてくるが、
俺は軽く笑いながら答える。
「大丈夫に決まってるだろ?」
レイナは安心したように胸を撫で下ろした。
だが、他の連中はほとんど反応しなかった。
全員の視線がテレビへ向いていたから。
「ん?」
俺も画面を見る。
北の大地のニュース番組だった。
アナウンサーが険しい顔で原稿を読んでいる。
〔続報です〕
〔龍華共和国より世界に発射された核ミサイルは千発と推定されています〕
〔そのうち五十発が日輪へ向けて発射されたものと思われます〕
ナツが顔をしかめた。
「千発って……」
アキラが腕を組む。
「本気で道連れにしようとしとるな…」
ニュースは続く。
〔現在、本州との通信は完全に途絶…〕
〔原因は核爆発による電磁パルスの影響と考えられており、詳細な被害状況は確認できていません〕
ジュンが俯く。
「現実に起きてることなんだな……」
ミツルも苦い顔をしていた。
「まあ当然だろうな」
画面が切り替わり、
画質の悪い、
素人が撮ったような画像が映し出される。
〔一方、北の大地及び東北地方へ向かっていた核ミサイルの大半は消失〕
〔複数の目撃証言によれば、上空に黒竜が出現していたとのことで〕
〔現在、この黒竜と核消失の関連性について調査が進められています〕
ダイニングは静かだった。
ナツが俺を見る。
「お前だな…」
「俺だな…」
ベルフェゴールが頬杖をしながら言う。
『まぁ隠す必要もないけどね』
ニュースは続く。
〔なお、本州各地では複数の閃光が確認されており…〕
〔被害規模は不明ですが、極めて深刻な状況であると予想されます…〕
アナウンサーは泣き崩れた。
誰も喋らない。
予想ができるからこそ。
誰も口にしなかった。
するとベルフェゴールが疑問を呟く。
『人間もすごい物作ったよね…』
『でも、意思が無いものにあんな悪意を感じるなんて』
『呪いでもかかってるのかな?』
ミツルがふと眉をひそめた。
「……ん?」
何かに気付いたような顔。
「どうした?」
俺が聞く。
ミツルは二人の魔王を見る。
ベルフェゴール。
アスモデウス。
数秒の沈黙。
やがてミツルが口を開く。
「……俺たちにとっては常識過ぎて気付かなかった…」
ナツが聞く。
「何がだ?」
ミツルは真顔だった。
「こいつら……、核のこと知らないんじゃね?」
沈黙。
全員の視線が二人へ向く。
ベルフェゴールが首を傾げた。
『ん?』
アスモデウスも不思議そうな顔をする。
『何か問題あるの?』
ナツも首を傾げ、腕を組んだ。
「魔王なんだから、核攻撃くらい…」
「そういう問題じゃない…」
「説明するべきだったんだ……」
ミツルが嫌な予感を覚えながら聞いた。
「ベルフェゴール…」
「核についての認識を聞かせてくれ……」
ベルフェゴールは即答する。
『爆発魔法みたいなものじゃ?』
「他は……?」
『……』
「……」
空気が止まる。
アスモデウスがゆっくり口を開く。
『なにかあるの…?』
ミツルが顔を覆う。
ナツも理解した。
「放射能とかって……」
アスモデウスが首を傾げる。
『何?』
『それ?』
ジュンも青ざめる。
「なるほどな…」
ミツルがゆっくり顔を上げる。
「放射能って言うのは、要は毒だ……」
静かに呟いた。
「もし星条のルシファー達が……」
全員が息を呑む中、
ミツルは続ける。
「核を迎撃して空中で爆発させたら……」
ベルフェゴールの顔が真剣になる。
『させたら?』
ミツルは真顔のまま答えた。
「星条が死の大地になる……」
『は……?』
ベルフェゴールの表情から気怠さが消えた。
『まさか……』
「嘘だと思うなら、今の日輪を見てくればいい」
ミツルが西京都の方を指さした。
絶句し二人が固まった。
ダイニングを重苦しい沈黙が支配した。
静まり返る中、アキラがジュンに問いかける。
「ちなみに、回復魔法でどうにかならんのか?」
「……回復魔法は体の傷とかに使えるけど」
「イメージが大事なんだ……」
「イメージって?」
「…血管と血管、肉と肉をつなぎ合わせるみたいにね…」
「ユウが石田との戦闘で怪我した時は、
瑞光にイメージを完全に預けて回復速度を上げたんだ」
アキラが腕を組み考える。
「つまり…」
「核の放射能汚染を治すイメージはできない……」
「俺も、もちろん瑞光もね……」
「少なくともこの時代で治せないものは治せない……」
「なるほどな…」
「わいらみたいに覚醒してればまだしも…」
「魔力のない人間は……」
「助けられないだろうね……」
俺たちは二人の話を聞きながら、
それぞれが思考を巡らせていた。
俺はベルフェゴールを見た。
「ちなみに…蘇生魔法って?」
『…あるよ……』
『使えるのは天使だけだけど……』
「……はぁ」
「星条も終わったかもしれないな……」
誰も言葉を発しなかった。
もしミツルの予想が正しいなら。
今この瞬間。
星条では地獄が始まっている。




