表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/69

第60話 降り注ぐ悪意


オニキス ダイニング


空気が凍り付いていた。


テレビでは緊急速報が流れ続けている。


〔龍華共和国が全世界へ向けて核兵器を発射した模様です!〕


〔住民の皆様は直ちに避難して下さい!〕


〔繰り返します!〕


誰も言葉を発しない。


あまりにも現実味がなかった。


だが。


画面に映るアナウンサーの顔は真っ青だった。


冗談ではない。


本当に起きている。


ミツルが携帯を操作しながら呟く。


「……まずいな」


全員の視線が集まる。


ミツルは険しい顔で続けた。


「日輪へ向かってる核だけでも相当な数らしい……」


ナツの顔が引きつる。


「おいおい……」


ジュンも青ざめていた。


「どうするんだ……これ……」


その時、

俺はミツルへ視線を向けた。


「ミツル」


「ん?」


「核の放射能ってどれくらい流れてくるんだ?」


一瞬。


部屋が静まり返る。


ミツルが目を見開いた。


「そんなこと俺に聞く!?」


思わず立ち上がる。


「知るわけないだろ!?」

「一般人だぞ!?」


「お前がわからなかったら誰もわからねーんだよ!」


俺も負けじと返した。


「大体でいいから!」


「無茶言うなよ!」


ミツルは頭を抱える。


そして数秒考え込んだ。


「……多分だぞ?」


全員が耳を傾ける。


「東北の上の方に着弾したら……」

「こっちまで来ると思う……」


静寂。


俺は小さく頷いた。


「わかった」


立ち上がる。


「みんなはとりあえずここで待ってろ」


全員が俺を見る。


俺はベルフェゴールへ視線を向ける。


「ベルフェゴール」


『んー?』


「転移使えるんだろ?」


ベルフェゴールが面倒そうに目を細める。


『送れと?』


「あぁ」


俺は携帯の地図を開いた。


そして。


北の大地南部を指差す。


「ここら辺に頼む」


ベルフェゴールがため息を吐いた。


『めんどうだなぁ……』


「ほら行くぞ」


俺はベルフェゴールの手首を掴んだ。


その瞬間。


アスモデウスが立ち上がる。


『じゃあ私も行こうかなぁ♡』


「お前はここにいろ」


俺は即答した。


アスモデウスが頬を膨らませる。


『え〜♡』

『なんで〜?』


そう言いながら俺へ抱きつこうとする。


だが。


俺は軽く避けた。


「お前がそんなだからレイナが嫌がるだろ」


沈黙。


全員の視線が一斉にレイナへ向いた。


「っ……!?」


レイナの肩が跳ねる。


みるみる顔が赤くなっていく。


俯いて何も言えない。


アスモデウスが楽しそうに笑った。


『あらあら♡』


ナツ達もニヤニヤしている。


「……うるさい」


レイナの声は小さかった。


俺はベルフェゴールに向き直る。


「じゃ、頼むわ」


『はいはい……』


ベルフェゴールが片手を上げる。


直後。


空間が大きく歪み、黒い裂け目が現れた。


俺はそのまま中へ足を踏み入れる。


ベルフェゴールも続く。


そして。


俺たちは北の大地南部へ向かった。






龍華共和国 


日輪着弾まで残り7分。


街はパニック状態だった。


道路は完全に麻痺。


車同士がぶつかり合い。


怒号。


悲鳴。


泣き叫ぶ子供。


誰もが助かろうとしていた。


だが。


逃げ場など存在しない。


〔緊急速報です!〕


街頭モニターから声が響く。


〔龍華共和国全土へ多数の核ミサイルが接近中です!〕


〔繰り返します!〕


〔全土へ多数の核ミサイルが──〕


突然。


映像が途切れた。


停電だった。


街から光が消える。


その瞬間。


人々の顔から希望も消えた。


誰かが呟く。


「嘘だろ……」


老人だった。


手を震わせて空を見上げている。


「なんでだ……」


誰も答えない。


答えられる人間は、

もうこの国に存在しなかった。


大統領は死んだ。


軍も機能していない。


政府も崩壊した。


この国は。


既に死んでいた。


残されたのは。


何も知らない国民達だった。


そして。


空の彼方に光が見えた。


流れ星のような無数の光。


だが。


誰も願い事などしない。


できるはずがなかった。


その光は。


人類が生み出した終末だったのだから。






極東連邦首都 セーヴェルグラード


日輪着弾まで残り5分。


避難警報が鳴り響く中、

避難所へ向かう人間は少ない。


皆理解していた。


間に合わない。


テレビでは。


泣きながら原稿を読む女性アナウンサーが映っている。


〔現在、極東連邦全土へ向けて多数の核ミサイルが飛来しています〕


彼女の声が震える。


〔どうか……〕


言葉が詰まる。


〔どうか家族と一緒に……〕


放送事故だった。


だが。


誰も責めなかった。


それが今、

最も正しい言葉だったから。


街角では。


若い夫婦が幼い娘を抱き締めていた。


少女は状況を理解していない。


「ねぇパパ」


父親を見上げる。


「みんななんで泣いてるの?」


父親は答えられなかった。


代わりに強く抱き締める。


母親も娘を抱き締めた。


誰も何も言わない。


言葉にしたら。


全てが終わってしまう気がした。


やがて。


終末の光が現れる。


一。


十。


百。


数え切れない。


誰かが膝をつき。


誰かが祈り。


誰かが泣き。


誰かが家族を抱き締める。


そして。


誰も逃げなかった。


逃げられないことを知っていたから。


空から降り注ぐ光を見上げながら。


人々はただ。


終わりの時を待っていた。






北の大地南部 沿岸部


日輪着弾まで残り3分。


冷たい海風が吹き付ける。


ベルフェゴールが大きく欠伸をした。


『着いたよ』


「サンキュー」


俺は軽く手を上げる。


龍華の方向から感じる悪意を、

身体でひしひしと感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ