第59話 漢の教え
「……俺たちは………」
全員の視線が俺へ集まり、
静かに答えを待っていた。
だけど。
俺は迷っていた。
次から次へと現れる問題。
もう放っておいてくれよ。
そう思ってしまう。
みんなと平和に暮らしたい。
ただそれだけなのに。
暁闇の声が頭に響く。
《ユウ……》
俺は目を閉じた。
すると。
ふと昔のことを思い出した。
高校時代
「ちっ……いてぇなぁ……」
公園のベンチ。
俺は切れた唇を指で触った。
また喧嘩。
理由なんて毎回くだらない。
目付きが気に入らない。
態度が気に入らない。
親友を庇った。
そんなんばっかりだった。
「大した理由も無いんだから絡んでくるなよ……」
誰に言うでもなく呟く。
すると。
隣へ誰かが腰を下ろした。
「ユウ坊、また喧嘩したのか?」
橋本さんだった。
「好きだねぇ」
「好きじゃねぇっすよ」
俺はため息を吐く。
「色んな奴が絡んでくるから仕方なく……」
橋本さんは笑った。
「どうせいじめられてる奴でも助けたんだろ?」
図星だった。
「……カツアゲとか、だせぇことする方が悪いんすよ」
「そんなことで因縁付けてきやがって……」
橋本さんは苦笑する。
「はぁ……」
「お前の生き方は敵が増えるぞ〜」
俺は黙った。
橋本さんは続ける。
「大人になっちまった俺からしたらな」
「わざわざ茨の道に行かなくてもいいと思うんだ」
「社会に出たら大変だぞ?」
「………」
「でもまぁ」
橋本さんが笑う。
「ユウ坊がどう成長するか気になるところだな」
そして。
少し真面目な顔になった。
「自分のポリシーを貫くコツを教えてやろうか」
「……?」
「守りたいもんを改めてちゃんと見ることだ」
俺は黙って聞いていた。
橋本さんは空を見上げる。
「男はカッコつけたがる生物だ」
「本当は弱音吐いた方が楽なんだけどな」
「まぁ難しいわな」
「特に俺らみたいな性格は……」
そう言って。
俺の肩に腕を回した。
「だからな」
「心が弱った時こそ」
「大事なもんを見るんだ」
「助けたい」
「守りたい」
「そういう気持ちが原動力になる」
橋本さんの声は静かだった。
「たとえ、自分より強い相手でも戦える」
「〝漢〟ってのはそういうもんだ」
バンッ……。
突然、背中を叩かれた。
思わず前につんのめる。
「いってぇ!」
橋本さんは笑った。
「ユウ坊」
「辛い時こそ自分を奮い立たせろ」
少しだけ寂しそうな顔。
「俺はいつ死ぬか分からねぇ身だ」
「だからずっと隣にいてやるとは言えねぇ」
そして。
橋本さんは立ち上がり、
缶コーヒーをベンチへ置いた。
「守りたいもんを見据えて駆け抜けろ」
「全部終わった時」
「みんなで笑えるようにな」
そう言って。
橋本さんは去っていった。
その背中は。
やけに大きく見えた。
オニキス ダイニング
俺は目を開いた。
守りたいもの。
親友たちとレイナ。
「俺たちはここから離れるわけにはいかない」
ベルフェゴールが俯く。
『……そうか』
「だが…」
全員が俺を見る。
「共闘には応じる」
『……』
「他の魔王も」
「眷属も」
「全員でここに逃げてこい」
『『!?』』
ベルフェゴールとアスモデウスが目を見開く。
「ここで総力戦をする」
「その条件で良ければ共闘しよう」
静寂。
ベルフェゴールは数秒考えた。
そして。
小さく笑った。
『……なるほどね』
ゆっくり立ち上がる。
『よろしくお願いするよ』
「これからよろしく」
俺たちは握手した。
部屋の空気が少し和んだ。
その瞬間だった。
ビービービービーッ!!
突然。
全員の携帯電話が鳴り響く。
聞いたことのないレベルの警報音。
「なんだ!?」
「緊急速報……?」
ジュンが顔を青ざめさせる。
焦ってミツルがテレビの電源をつけた。
画面に映ったのは。
…龍華共和国大統領だった。
誰も言葉を失う。
そして。
大統領がゆっくり口を開く。
〔この放送を全世界の人間が見ているということは〕
〔私は死んだのだろう〕
冷たい声。
〔予期せぬ事態により私が死亡し〕
〔一定時間、生存信号を送れなかった場合〕
〔この映像が自動で世界に流れるよう設定していた〕
嫌な予感。
全員が同じことを感じた。
大統領は笑った。
〔龍華に敗北は許されない〕
〔負けるくらいなら〕
〔世界の生物と共に退場させてもらおう〕
凍り付く空気。
〔では〕
〔地獄で会おう〕
映像が切れた。
直後。
ニュース番組へ切り替わる。
アナウンサーの顔色は真っ青だった。
〔緊急速報です!〕
〔たった今入った情報です!〕
〔龍華共和国が……〕
言葉が震える。
〔龍華共和国が全世界へ向けて核兵器を発射した模様です!!〕
〔皆さん一刻も早く地下に避難して下さい〕
全員が息を呑んだ。
その時。
ナツが画面を見ながら固まっている。
「……最悪だ」
レイナの顔から血の気が引く。
「冗談でしょ……」
俺はゆっくり立ち上がり、
窓の外を見る。
空の向こう。
まだ見えない。
だが……、
確実に終末は近付いていた。
人類が自ら引き起こした終末が。




