第58話 神の真意
『その目的は……、〝世界を消滅させる〟ためだね……』
ベルフェゴールの言葉に。
誰も声を出せなかった。
世界を消滅させる。
その言葉が重すぎた。
神が?
なぜ?
何のために?
理解が追いつかない。
すると。
頭の奥で声が響いた。
《ユウ……少し代わってくれるか?》
暁闇だった。
俺は小さく息を吐く。
「……じゃあ任せるわ」
みんなには聞こえない声で呟く。
「頼んだぞ、相棒」
《あぁ》
暁闇が静かに答える。
《だが最終的に決めるのはお前達だ》
《ちゃんと聞いておけよ》
その瞬間。
視界が揺れる。
ドクン……。
心臓が鳴る。
俺は身体の主導権を入れ替えた。
『悪いが』
暁闇が俺の口で喋り出す。
『ここからは俺が話させてもらう』
ベルフェゴールが目を細めた。
『……闇竜か?』
アスモデウスが興味深そうに身を乗り出す。
『へぇ〜』
『そういうこともできるんだ〜』
何も言わずに入れ替わった。
だが、
ナツたちは動揺していなかった。
むしろ、
少しだけ安心したような顔をしている。
暁闇はベルフェゴールを見据えた。
『神がなぜ世界を消滅させる必要がある?』
ベルフェゴールは少し考え込む。
そして答えた。
『人間達が原因らしい…』
空気が止まった。
『自分が作った人間という生物が……不完全すぎると』
『不完全?』
暁闇の声が低くなる。
ベルフェゴールは肩をすくめた。
『人間の醜い部分だろうね』
『自分勝手に命を狩り』
『愛を履き違え』
『同種でも差別し合う』
『醜い種族』
『そういうところじゃないかな』
暁闇の拳が僅かに握られる。
『だからと言って』
黒い魔力が漏れ出す。
『全ての生物を消すというのか!』
『……世界を作り直したいんだろ』
ベルフェゴールは淡々と言った。
『1からね』
誰も言葉を発せない。
ナツが苦しそうに呟く。
「1からって……」
ジュンが拳を握る。
「そんなの……」
ベルフェゴールは続けた。
『神の動きを察知した俺達は』
『向こうの世界で神の刺客と戦っていた』
『だけど……』
『天使達が突然いなくなった』
『イレギュラーの排除命令を受けてね』
アスモデウスが笑う。
『そのイレギュラーが』
『竜種の君達ってわけ』
暁闇は静かに目を閉じた。
『……なるほどな』
全てが繋がった。
『それで共闘か』
『そういうこと』
ベルフェゴールが頷く。
暁闇が疑問を投げかける。
『しかしだ…、お前らはなぜ気づけたんだ?』
『…それは、向こうの世界で突然、生物が消え始めたからだ……』
『……、こっちのやつが死ぬとそっちのやつも死ぬと……』
『…恐らくね、気付いた頃にはすでに天使の進行が始まってた……』
暁闇はふと思い出したように言った。
『その割には龍華の人間を随分殺していたな』
アスモデウスが苦笑する。
『あぁ、それね〜』
ベルフェゴールが頭を抱えた。
『……あれはルシファーの暴走』
『龍華が攻めてきたからキレたみたい』
暁闇が鼻を鳴らす。
『傲慢らしいな』
ベルフェゴールは遠い目をした。
『否定できない……』
そして。
真剣な顔になる。
『でも、今のところは』
『こちらに敵対する意思はない』
『考えてみてくれないか?』
静寂。
暁闇は立ち上がる。
『決めるのは俺じゃない』
そして。
目を閉じた。
《ユウ》
《あとは任せた》
再び。
視界が揺れる。
ドクン……。
「ふぅ……」
身体の感覚が戻る。
「話は聞いてた」
俺はみんなを見る。
「みんなはどう思う?」
ミツルが最初に口を開く。
「……敵は同じだ」
腕を組む。
「なら選択肢としてはありだと思う」
アキラも頷く。
「わいも賛成や」
アキラはミツルの肩に手を置いた。
「天使が来るならどのみち戦うことになるしな」
マサキは少し考えてから答えた。
「共闘自体はいいと思う」
「でも守りを固めた今」
「攻勢に出るのはリスクが大きい気がする」
ジュンが不安そうに言う。
「最後の最後に裏切られる可能性もあるし……」
ナツが即座に続けた。
「俺は……浮遊城から離れたくない……」
「もちろん守れる保証なんてないけど…」
「それで死んでも俺は…後悔はない」
サイも静かに頷く。
「……ナツに同感だ」
「俺も同じ失敗は繰り返したくない」
そして。
レイナだけが黙っていた。
全員の視線が俺へ集まる。
みんなも。
ベルフェゴールも。
アスモデウスも。
静かに俺の答えを待っている。
「…俺たちは……」




