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第56話 顕現する魔王達


昇龍京跡地 上空


もうそこに都市はない。


残っているのは、

巨大なクレーター。


押し潰された瓦礫。


肉片。


血。


そして、死臭。


黒雲の空を背に、

二つの影が浮かんでいた。


六枚の黒翼を揺らす、

ルシファー。


その後ろでは、

ベルゼブブが不満そうに頬を膨らませている。


『ルシファー!』

『さっきの扱いは酷すぎない?』


『……何の話だ』


『何の話って、

ボクを盾にしたことだよ!?』

『普通あんな使い方する!?』


ルシファーは、

興味なさげに視線を向ける。


『お前が近くにいたから使ったまでだ』


『雑!!』

『それに、こっちに来る前に、

あんまり殺しをしないってみんなで決めたのに……』


ベルゼブブが抗議する。


だが、

ルシファーは気にしていない。


ただ、

昇龍京跡地を静かに見下ろしていた。


潰れた死体。


消えた文明。


溢れ出る膨大な死の魔力。


『……だが、

これで奴らの供物はできた』


ルシファーが、

ゆっくりと片腕を前に突き出す。


黒い魔力が、

掌の前で渦巻き、

小さな黒い球体を作り出した。


空間が歪む。


掌を離れた球体は、

人間だったものを引き寄せ吸収していき、

大きくなっていく。


すると、黒い球体は一気に小さくなり姿を消す。


ベルゼブブが嬉しそうに笑った。


『来るねぇ』


次の瞬間。


ビキィッ…。


空間が割れる。


裂け目の奥から、

異質な感情と欲望が混ざった魔力が吹き出す。


嫉妬。


憤怒。


怠惰。


強欲。


色欲。


醜い魔力が空間を埋め尽くしていく。


最初に現れたのは、

深海のような蒼い瞳を持つ女。


長い青髪を揺らし、

冷たい目で世界を見下ろす。


嫉妬の魔王…レヴィアタン。


『……遅い』


不機嫌そうな低い声。


続いて、

紅蓮の魔力を纏う男が姿を現す。


巨大な角。


燃えるような赤眼。


憤怒の魔王…アモン。


『クク……』

『派手にやったな、ルシファー』


その後ろでは、

気だるそうな青年が現れる。


頭を掻きやる気のないオーラを纏う。


怠惰の魔王…ベルフェゴール。


『はぁ〜……』

『めんどくさいなぁ……』


さらに。


金色の装飾を纏った男。


強欲の魔王…マモン。


『これだけの魂……』

『相談する意味がないな…』


最後に。


妖艶な笑みを浮かべた女が姿を表した。


色欲の魔王…アスモデウス。


『あらぁ……』

『相変わらず乱暴ねぇ』


五体の魔王。


その瞬間。


世界全体の魔力が、

悲鳴を上げた。


ベルゼブブが嬉しそうに笑う。


『これで全員揃ったねぇ』


だが、

ルシファーは表情を変えない。


『ベルフェゴール』


『ん〜?』


『ここからはお前の仕事だ』


ベルフェゴールが露骨に顔をしかめる。


『えぇ〜……』

『面倒なんだけど』


『行け』


短い命令。


ベルフェゴールは大きくため息を吐いた。


『はいはい……』


その瞬間。


空間が歪み、黒い裂け目が現れる。


ベルフェゴールの姿が裂け目に消えた。


すると、アスモデウスが笑った。


『ふふっ』

『面白そうだから私も行こうかしら』


ルシファーは興味なさげに答える。


『好きにしろ』


『やった!』

『ベル待って〜』


空間の歪みにアスモデウスも姿を消した。


ルシファーは、

眼下のクレーターへ視線を落とした。


『起きろ』


その一言で。


地面が蠢いた。


グチャ……。


ドロドロと、

押し潰された死体が溶け始める。


骨。


肉。


血。


それら全てが、

黒い泥へ変わっていく。


そして。


無数の影が立ち上がった。


数千。


数万の下級悪魔が召喚される。


レヴィアタンが小さく笑う。


『にしても殺し過ぎじゃない?』


『我に歯向かった報いだ』


アモンが巨大な剣を肩へ担ぐ。


『で?』

『このあとは予定通りに進めるのか?』


マモンが腕を組んだ。


『予定なんかもうないだろ』

『早速、アスモデウスもいなくなったしな』


ルシファーの六枚翼が広がる。


『眷属よ、天使を根絶やしにしろ』


黒い魔力が、

空を染める。


『行け』


次の瞬間。


大量の下級悪魔が、

一斉に空へ飛び立つ。


その進行方向。


星条連合。


ミカエルのいる国へ。






オニキス ダイニング


誰も喋らない。


テレビ画面では、

昇龍京跡地が映し出されていた。


世界中のニュースが、

同じ映像を流していた。


悪魔。


魔王。


崩壊した国家。


そして、

星条連合へ向かう黒い軍勢。


ジュンの顔が青ざめている。


「…七大魔王揃っちゃったね……」


「せやな……」


アキラですら、

笑っていなかった。


マサキが静かに呟く。


「もしあれが日本へ来たら……」


だが。


俺は違和感を感じていた。


「……来てるな…」


全員が俺を見る。


俺は、

ゆっくりと目を瞑る。


悪意はない。


だが……。


異常な存在感。


その瞬間。


オニキス全体が、

小さく軋んだ。


そして俺たちは理解した。


魔王たちがもうオニキスの外にいる。


「……はぁ、平穏はいつ来るんだよ……」


俺たちは正門に向かうのだった。

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