第53話 傲慢の恐怖
極東連邦 国境付近
吹雪の大地に、
龍華共和国軍が進軍。
装甲車両。
魔力供給コンテナ。
そして、
四聖獣兵器を装備した四人の兵士。
その前方。
黒い軍勢が、
静かに蠢く。
下級悪魔の群れ。
そして……。
その中心で宙に浮かび、
六枚の黒翼を揺らす魔王。
ルシファー。
指揮官が鋭く叫ぶ。
「戦闘態勢!!」
「朱雀、前へ出ろ!」
「はっ!」
朱雀槍の兵士が飛び出す。
背後では、
資源として詰め込まれた住民たちが、
箱の中で泣き叫んでいる。
槍が赤熱する。
「朱雀炎槍!!」
ゴォォォォッ!!
巨大な炎の奔流が、
下級悪魔の群れへ放たれた。
爆炎。
黒い肉片が吹き飛び、
悪魔たちが次々と焼き潰されていく。
兵士たちの表情が変わる。
「いけるぞ!!」
「神の力を見たか!!」
士気が上がる。
だが…。
ルシファーは、
ただ黙って見下ろしているだけ。
まるで、
道端の虫を見るように。
指揮官の額を汗が流れた。
(……まずい)
理解していた。
死体の数が増え続ければ、
悪魔も増え、物量で押し潰される。
短期決戦しかない。
「白虎、青龍!!」
「ルシファーを叩け!!」
二人の兵士が飛び出した。
白虎爪。
青龍刀。
膨大な魔力を喰らい、
二つの兵装が肥大化する。
箱の中では、
住民たちが絶叫していた。
「いやあああああ!!」
「助けてくれぇぇぇ!!」
命が燃やされる。
白銀の爪撃。
暴風の斬撃。
二つの一撃が、
ルシファーへ到達…する直前。
下級悪魔たちが、
自らその前へ割り込んだ。
グシャグシャ、グシャァッ!!
肉が裂け、
黒い血が吹き飛ぶ。
大量の悪魔が、
一瞬で消し飛んだ。
ルシファーには、
傷一つない。
六枚の黒翼を揺らしながら、
死骸を見下ろす。
『……こんなものか』
その声に、
温度はなかった。
ただ、
興味がない。
ルシファーが、
ゆっくりと掌を向ける。
指揮官が叫ぶ。
「玄武!!前へ出ろ!!」
「資源補充急げ!!」
「はっ!!」
玄武盾の兵士が前へ出る。
背後では、
新たな住民が箱へ押し込まれていく。
泣き声。
悲鳴。
怒号。
それらを無視して、
巨大な盾が展開された。
「玄武甲壁!!」
直後。
ルシファーが、
静かに口を開く。
『……死ね』
グチャッ…
「……?」
誰も、
一瞬理解できなかった。
前衛の四人。
指揮官。
彼らは無意識に振り返る。
そして、
絶句した。
後方部隊が……潰れていた。
兵士たちも。
資源として扱われていた住民たちも。
まるで、
見えない何かに押し潰されたように。
肉と骨が、
地面に貼り付いている。
「な……」
言葉にならない。
ルシファーは、
その光景を一瞥し。
『……つまらん』
とだけ呟いた。
その瞬間。
潰れた死体を、
地面に現れた黒い影が、
死体を飲み込んでいく。
ドロドロと。
まるで沼のように。
影は蠢き、
ゆっくりと形を成していく。
兵士たちの顔が引きつる。
そして…。
巨大な蝿の羽音が響いた。
ブゥゥゥゥン……
『へへ……』
低く粘つく声。
『感謝スルゾ、ルシファー』
影の中から現れたのは、
人の形に似せた蝿。
その身体から放たれる腐臭。
無数の蝿。
膨れ上がった肉体。
その眼が、
兵士たちを見つめる。
『ルシファー』
『腹ガ減ッタ』
ルシファーは、
興味なさげに答える。
『ベルゼブブ…、またか…』
『そこにいるのは、
我に歯向かったゴミだ』
『好きに食え』
ベルゼブブの口が、
醜く歪んだ。
『クク……アリガタイ…』
絶望が広がる。
兵士たちが後退る。
だが遅かった。
ベルゼブブが、
ゆっくりと腕を広げた。
次の瞬間。
黒い影が、
生きている人間へと襲いかかる。
響き渡るのは、
断末魔だけだった……。
数分後…。
『ハァ…、美味カッタ…』
『腹モ膨レタシ、姿変エヨウカナ〜』
そういうと、
ベルゼブブの身体が蠢き始めた。
ゴキッゴキッ…、メキメキメキ……
醜かったその容姿が変異していく。
『うーん、こんな感じ?』
ベルゼブブの容姿が、人の女になった。
『わざわざ容姿を変えなくてもいいだろ』
『そんなこと言っても』
『あのままだったら、
姿を見ただけで人間が逃げちゃうから……』
『……まあいい…』
ベルゼブブが落ちてる青龍刀を手に取る。
『この武器どうする?』
『そんなもの捨てておけ』
『なんの価値もない』
『ふーん、ポイッ』
この行動が世界を震撼させることを、
誰一人知る由もなかった。




