第52話 七つの玉座
オニキス ダイニング 夕方
レイナとのことを色々聞かれていると、
一瞬で時間が流れ、
気付くと日が落ちてきていた。
ナツたちが帰ってきて、
自然と真剣な空気になった。
誰もが分かっている。
何もしなければ、
世界の標的が俺たちになりかねない……。
ミツルが腕を組みながら口を開く。
「で?どうするよ」
「七大天使と七大魔王が、
どう動くかは置いといても……」
「…ちょっと待て……」
俺が話を遮る。
「七代?」
「聞いてないんだが…?」
「あぁ…暁闇のやつ、
説明しないで来たって言ってたな」
「星条と極東に出たのミカエルとルシファーらしいぞ?」
「漫画とかで知ってるだろ?」
「…あー…なるほど……」
「理解したわ…」
ミツルが続ける。
「んで、俺たちの浮遊城を呼ぶっていうのはいいとして」
「問題は対応のほうだ……」
ナツが勢いよく立ち上がる。
「俺は、向こうが攻めて来ないなら」
「こっちから攻めることはしなくていい…と思う」
「俺も同意だ」
マサキが即座に返す。
「浮遊城の防御力にもよるだろうが、
ある程度耐えられるならリスクは回避したい…」
サイが天井を見上げながら話し始めた。
「俺たちは守れなかった……」
「だから臆病になってる……」
「正直、正解がわからない……」
みんな言葉が出なくなった。
静寂。
するとジュンが口を開く。
「正解は多分ないんだと思う……」
「でも守りたい物はここに集まってる」
「もし死ぬことになったとしても、
後悔は少ない気がする」
アキラが腕を組み話し出す。
「せやな…」
「後悔が少ない方を取る」
「人間らしくていいかもしれんな…」
全員の視線が俺に集まる。
「俺は……守りたい…」
「お前らも…レイナも…」
「多分…何か一つ失ったら俺は……」
俺の魔力が溢れ出す。
「この世界を滅ぼす……」
ミツルが俺の肩に手をおいた。
「いいんじゃないか?」
「俺たちが臆病になってるのも確かだが、
現状向こうの動き方もわからないしな」
アキラがニヤけながら俺を見てきた。
「まあ遠回しに脅して来とるのがユウらしいって思たわ」
「わいらが死んだら世界を滅ぼす魔王になる宣言やからな」
「そこまで言ってねぇだろ?!」
ミツルが口を開く。
「よし、じゃあやってみるか」
「…スルーされたし……」
俺たちは裏門へ移動した。
オニキス 裏門前
「お前ら頼むぜ」
みんなは相棒たちと念話しながら魔力を飛ばす。
次の瞬間。
空気が震えた。
ゴォォォォ……
床が低く唸る。
みんなの身体から溢れ出す魔力が、
空間を満たしていく。
身体がビリビリと震えた。
「「「「「「来い!」」」」」」
ゴォォォォ……
空が、軋んだ。
周囲に現れた六つの浮遊城。
ナツがニヤける。
「できた……」
アキラが口を開く。
「こう見ると壮観やな!」
ここに七つの浮遊城が揃った。
すべてを飲み込むかのような闇を纏う、
冥闇城オニキス。
暴風を宿すかのように空を揺らす、
旋風城エメラルド。
天へと逆流する水を思わせる、
水魔城ラピスラズリ。
大地すら焼き尽くすかのような熱を宿す、
烈火城ガーネット。
重く揺るがぬ存在として空に君臨する、
岩石城アンバー。
空を裂く雷鳴を思わせる輝きを放つ、
雷鳴城トパーズ。
夜を切り裂く一閃の光の如き、
閃光城ムーンストーン。
それぞれ異なる力を纏いながらも、
七つの城は互いに共鳴し合い、
空に並び立っていた。
日が消えたように、
北の大地が影に覆われた。
世界はこの日、
竜種の脅威を目撃することになった。
龍華共和国 軍用輸送路上
夜の大地を、無数の光が走っていた。
装甲車両の列。
兵員輸送トラック。
そして…。
巨大なコンテナを積載した特殊車両。
それらは一切の乱れなく進軍していた。
「進行速度、予定通り」
「各部隊、損耗なし」
無機質な報告が車内に響く。
その中心にいるのは、
龍華共和国の作戦指揮官。
視線は端末へと落とされたまま、
一切の感情を見せない。
「資源の状態は?」
「積載量、最大値を維持」
「補充の必要なし」
短い沈黙。
「……効率は良好だな」
その言葉に、
誰も反応しない。
この国にとって人間は、
消耗品でしかないのだから。
コンテナの内部。
薄暗い空間の中で、
人影が折り重なっていた。
かすかな呼吸音。
押し殺された呻き声。
その中央で、
一人の兵士が無言で端末を操作する。
「生体反応、安定」
「規定数を維持」
足元で、誰かが弱々しく手を伸ばした。
「たす……け……」
兵士は一瞥もせず、
その手を踏み越える。
「異常なし」
ただ、それだけを報告した。
車列は止まらない。
やがて……。
極東連邦国境付近
吹雪が荒れ狂う大地。
その中で、
車列がゆっくりと停止する。
「目的地到達」
「各部隊、展開準備」
兵士たちが一斉に動き出す。
コンテナが降ろされ、
ロックが外される音が響く。
ガコンッ……
扉が開いた瞬間。
黒い霧が、
ゆっくりと溢れ出した。
「……?」
最前列にいた兵士が、
わずかに眉をひそめる。
次の瞬間。
バサッ……
コンテナの中から、
“何か”が飛び出てきた。
それは紛れもなく。
悪魔だった…。
黒い皮膚に黒い翼、
身体の周りには黒い影がまとわりついている。
「な、なんだこ――」
グチャッ……
言葉は最後まで続かなかった。
悪魔は兵士の顔面を一瞬で握り潰した。
ドサッ……
倒れた身体は、
もう動かない。
「敵襲――!」
叫びが上がる。
だが遅い。
次々と、
コンテナの中から、
悪魔が溢れ出してくる。
その時…。
『……死体を運んで来るとは』
『愚かなものだ…』
兵士たちが見上げると、
宙に浮く一人の女…。
背から伸びる六枚の黒翼。
すべてを見下す瞳。
『だが、供物としては悪くない』
低く嗤う声。
その場にいた全員が、
凍りついた。
「……っ、何者だ……!」
震える声で、
指揮官が問う。
女はゆっくりと視線を向ける。
『我が名はルシファー』
その瞬間。
背後の悪魔が、
一斉に片膝をついて頭を垂れる。
その光景を見て、
兵士たちは身体が震えだす。
『さあ……』
黒翼が、
ゆっくりと広がる。
『どこまで持つか、試してやろう』
吹雪の中。
絶対的な〝死〟が、
微笑んでいた。




