第49話 光の依代
星条連合首都 リバティア
世界最大級の都市国家リバティアは、
今まさに崩れ落ちようとしていた。
摩天楼はへし折られ、
高架道路は引き裂かれ、
燃え上がる車列の間を人々が逃げ惑う。
その中心で咆哮するのは、
全長六十メートルを優に超える巨獣……、
ギガノトサウルス。
白亜紀の恐竜など比較にもならない、
異形の災厄だった。
翠鱗に覆われた巨体が一歩踏み出すたび、
地面が揺れ、
ビルの窓ガラスが一斉に砕け散る。
「うわあああああ!!」
「早くシェルターへ!!」
戦車部隊が一斉砲撃を放つ。
ドドドドドドッ――!!
着弾。
爆炎。
だが次の瞬間、
煙を突き破って現れた巨体は、
傷一つ負っていなかった。
ギガノトサウルスは口を開き、
戦車ごと兵士を噛み砕く。
バキンッ……!
悲鳴すら一瞬だった。
上空では戦闘機部隊が旋回し、
対地ミサイルを投下する。
ブウンッ…!
しかし尾の一撃で二機が空中分解し、
残る機体も衝撃波に煽られ墜落していった。
もはや通常戦力では止められない。
リバティア 政府中枢シェルター司令部
巨大モニターには、
壊滅していく首都の映像が映し出されていた。
「第五防衛線、突破されました!」
「市民避難率三十七%!」
「戦略司令部到達予測、二十三分!」
怒号と悲鳴が飛び交う中、
大統領は蒼白な顔で立ち尽くしていた。
軍服姿の将軍が机を叩く。
「核の使用許可を!
市街地ごと焼き払えば討伐可能です!」
「まだ市民が残っている!」
官僚の一人が叫ぶ。
「このままでは全員死ぬ!」
さらに別の男が低く言い放った。
「……いや、もう遅い」
全員の視線が集まる。
「我が国が終わるなら、
敵対国家も道連れにすべきだ」
空気が凍った。
「極東連邦国、龍華共和国、日輪へ先制核攻撃を提案する」
「貴様、正気か!?」
「世界覇権を失うくらいなら、
灰の世界の王でいい」
狂気だった。
だが誰も即座に否定できないほど、
この国は追い詰められていた。
大統領の手が震える。
「……発射準備を……」
その瞬間だった。
ゴォォォォォォ――……
街全体が白い光に包まれた。
警報が鳴り響き、
モニターが一斉にノイズを走らせる。
「な、何だ!?」
「上空に高エネルギー反応!!」
誰かが叫ぶ。
メインモニターに映ったのは、
雲を裂いて降り注ぐ巨大な光柱だった。
リバティア中央区
ギガノトサウルスが咆哮し、
避難民へと首を向ける。
その頭上…。
光が落ちる。
轟音と共に地面が爆ぜ、
衝撃波が瓦礫を吹き飛ばす。
やがて収まる閃光の中心に、
一人の女が立っていた。
純白の甲冑。
背から広がる六枚の光翼。
右手には、
炎を纏う黄金の大剣。
その姿を見た誰もが言葉を失う。
女は静かに巨獣を見上げた。
『下等生命体による蹂躙行為を確認』
機械のように冷たい声。
『戦闘権限を執行する』
ギガノトサウルスが怒り狂い突進する。
だが女は一歩も動かない。
GYOOOOOOO!!
振り下ろされた顎が届く寸前……。
女の姿が消えた。
次の瞬間。
ズバァァァッ――!!
巨大な尾が宙を舞った。
『眷属よ、民を依代に顕現せよ』
女がそういうと天から光が降り注ぎ、
十人の住民を包み込む。
光に包まれた人は翼を生やし、
天使へと姿を変えた。
『……救済を開始しなさい』
体勢を崩した巨獣へ、
天使たちが一斉に襲いかかる。
光刃が鱗を裂き、
肉を抉り、数秒後、
巨体は崩れ落ちた。
地面が揺れ、
街に沈黙が訪れた。
助かった住民たちは膝から崩れ落ち、
涙を流しながら空を仰ぐ。
『我はミカエル…、光を司る守護者なり』
「ミカエル様……!?」
「本物の天使様……」
「どうか次は私をお使いください!」
歓声と祈りが広がっていく。
その一方でシェルター司令部では、
誰も口を開けなかった。
核すら不要にした存在。
それが今、
この国の上に立っている。
天使……ミカエル、
感情の無い瞳で街を見下ろす。
『次段階へ移行する』
オニキス ユウの部屋
俺は暁闇に言われるまま、自室に戻った。
「暁闇のやつ、サイ達のところに行ったみたいだな…」
「探知は任せろとか言ってたくせに、大丈夫なのか?」
カチッ、ボッ…
机の上に置いてあった煙草を一本取り、
火をつけた。
「フー…、休めって言われてもなぁ」
「考えることが多すぎる…」
俺は煙草を吸いながら、
天使と悪魔のことを考えていた。
「俺たちには部下はいない…」
「あの数…どうしたもんかな……」
「……嫌な予感しかしねぇ」
暁闇の気持ちはわかっていた、
それでも、俺の思考は止まらなかった……。




