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第48話 旅立つ想い、世界の異変


オニキス ナツの部屋


橋本さんとの思い出を語り終えたあと、

部屋には静かな時間が流れていた。


窓から差し込む薄い光が、

眠ったままのカナの頬を照らしている。


レイナはベッド脇に座ったまま、

しばらく俯いていた。


やがて、小さく息を吐く。


「あたし……決めた」


その声には、さっきまでの弱さが無い。


俺は黙ってレイナを見る。


レイナはカナの手をそっと握り、

それからゆっくり立ち上がる。


「橋本さんが命を懸けて守ってくれた命……」

「あたしも、もう守られるだけじゃ嫌」


真っ直ぐな瞳をしていた。


迷いも、

涙も、

そこにはもう残っていない。


「みんなも強くなるために頑張ってる……、

だったらあたしも……」


「……修行か?」


「うん」


短く頷く。


「今度はあたしが守る!」


その言葉に、

胸の奥で何かが熱くなった。


悲しみの中で立ち止まらず、

前へ進もうとしている。


「なら俺も一緒に…」


言いかけた俺を、

レイナは小さく首を振って止めた。


「ううん…、ユウは残って」


「……どうしてだ?」


「あたしは大丈夫、幽月にお願いするから」


一歩近づき、優しく微笑む。


「それに……〝今〟」

「何かあった時にここを守れるの、

ユウだけだし…」


その信頼の重さが、俺の肩を重くする…。


俺はしばらく黙ったあと、ゆっくり頷いた。


「……あぁ。わかった」

「幽月によろしくな」


「ありがと♡」


レイナはそう言うと、

椅子に座る俺に顔を寄せ……。


ちゅっ……。


柔らかな感触が、一瞬だけ唇に触れた。


「……っ」


固まる俺を見て、

レイナは少しだけ悪戯っぽく笑う。


「じゃ、行ってくるね♡」


シュゥゥゥ、ブンッ……


レイナは振り返らず、

精神世界へ消えていった。


部屋には、再び静寂だけが残る。


「……無理しないでくれよ…」


ベッドの上では、カナが静かに眠っている。


規則正しい寝息だけが部屋に響く。


誰もいない…。


俺は自分の唇に触れ、

顔が熱くなった。


さっきまで感じていた温もりだけが、

やけに鮮明に残っていた。


『随分と腑抜けた顔をしているな』


頭の中に暁闇の声が響く。


「しゃーねぇだろ!」


暁闇は俺をいじるように話しかけてくる。


『ドキドキしたのか?』

『キュンとしたのか?』

『どうなんだよ?』


「うるせぇな…」


俺は更に赤くなった。


《そんだけ惚れてりゃ、気合いも入るだろ?》


「……そりゃな…」


《まあ……大事だからこそ》

《重圧も増えるんだけどな…》


「油断はしねーよ…」

「もう腹は括ってる…、

俺たちの平穏を守るためなら」

「手段は選ばねぇ」


橋本さんが残してくれたもの…。


漢としての生き様…。


今度こそ……。


「……今度こそ、全部守ってやる」


《…ユウ……、一回外の空気吸いに行くぞ》


「?…、まあいいけど?」


俺は立ち上がり、静かな部屋をあとにした。






オニキス 正門前


外へ出ると、冷たい風が頬を撫でた。


空に浮かぶオニキスからは、

遠くまで景色が見えた。


だがそこに広がっていたのは、

平和な街並みじゃない。


各地から黒煙が立ち上っている。


崩れた建物、燃え続ける街。


日輪はまだ、何一つ取り戻していない。


「……地獄絵図だな…」


《まあ、これを見せたかったわけじゃなかったんだがな……》


「?……何だよ?」


《お前、ずっと張り詰めてるだろ》

《このままだと倒れるぞ?》


暁闇の意外な一言に俺は動揺した。


「そんなことねぇよ…」


《境界が崩壊してからずっと》

《足りない頭で常に考えてる…、

すり減ってるんだよ、精神が…》


「……」


《このままじゃ…守る前に倒れるぞ?》


暁闇の言う通りだった。


でも、どうすればいいかわからない……。


一週間前までこんな事になるなんて、

俺は想像もしてなかった。


変異、

戦闘、

交渉、

大切な人の死。


初めてのことだらけ……。


《一度、頭を空っぽにしてもいいんじゃないか?》


「……そうかもな…」


《少しナツを見習ったらどうだ?》


暁闇が笑った気がした。


俺は空を見上げる。


雲が流れていく。


しかし、妙に速い…。


胸騒ぎがした…。


俺は本能的に探知を広げた。


魔力操作が雑な俺でも分かる。


世界のどこかで、

とてつもなく強い魔力を放つ覚醒者が戦ってる。


日輪だけじゃない。


世界が変わろうとしている…。


「暁闇……」


《はぁ…問題が次から次へと……》

《俺たち竜種ほどではないが、上位の魔力だな》


「単体ならだろ?」

「この数は……」


《この数、この魔力、これは天使と悪魔だな…》


俺は腕を組み地面を見つめる。


「また考えることが増えた……」


《……まぁあの魔力が動けばすぐ分かる》

《探知も切れ、俺が見ててやるからさ》


暁闇の言葉はありがたかった。


だが、守りを固める必要がある。


襲われた時、後手には回れない。


「あいつらが戻ったら、

浮遊城を呼んでもらうか……、

竜化(強)を使えれば呼べるんだろ?」


《…まあな……》


暁闇の圧を感じた…。


「…わかったよ……」

「休ましてもらうよ……」


《…それでいいんだよ》


世界の変革を感じながら、

俺は自室に戻った…。


天使と悪魔…。


その脅威は、今後…俺たちにも牙を剥くのだろうか……。

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