第45話 戻る日常、壊れる日輪
オニキス ユウの部屋
薄い光が、
カーテンの隙間から差し込んでいた。
ゆっくりと目を開けると、
隣でレイナが静かに眠っている。
昨日のことを思い出しながら、
俺はそっと上体を起こし、
頭を抱えた。
(……やっちまった…)
罪悪感が押し寄せる。
(…俺はなんてことを……)
暁闇が低く囁く。
《後悔してるのか?》
《麗奈も同意だったろ?》
(後悔は…してない…)
(でも弱ってる女を…)
俺はレイナの顔見た。
見慣れた顔…。
でも…。
俺はレイナの頭を撫でる。
すると、レイナはゆっくりと目を開け、
ぼんやりと俺の顔を見つめた。
「…ん、…おはよ……ユウ……」
「おはよ…起こしちゃったな…」
レイナは俺の頬に手を当て、
存在を確かめるように擦りながら、
目を腫らした顔で微笑んだ。
俺はその手を握り、
自分の気持ちに気づいた。
俺はレイナが好きだったんだ…。
レイナは俺の目を見て、口を開く。
「ユウ…大丈夫?」
ぎゅっ…。
気づいた時には、
俺はレイナを抱きしめていた。
「…後悔してないか?」
「するわけないじゃん…」
「あたし中学生の時から、ユウ一筋だよ?」
ぎゅっ…。
レイナが抱きしめ返してくる。
「……そうか…」
我ながら自分の鈍さに嫌気が差した。
「………ユウは?」
俺の背中に置かれた、
レイナの手が少し震えてる。
「…好きだよ……」
「さっき気づいた……」
「…バカ……遅いよ…」
俺達は優しく唇を重ねた。
余韻を噛み締めながら、
俺達は服を着て、
ダイニングに移動した。
オニキス ダイニング
ギィ……
扉を開けると、
パンの焼ける匂いと、
スープの湯気。
ナツとサイの姿はないが、
テーブルにマサキとジュン、
ミツルが座りアキラが皿を運んでいた。
アキラが俺を見てニッと笑った。
「おっ、ユウ、黒瀬、起きたか」
「腹減っとるやろ?」
ミツルがコーヒーをすすりながら軽く手を上げる。
「おはよー。麗奈ちゃんもう大丈夫なの?」
マサキは静かに片手を上げ、
ジュンは柔らかく微笑んだ。
「黒瀬さん、無理しないでくださいね」
レイナは俯きつつ、小さく呟いた。
「……ありがとう」
この何気ない会話が、
どれほど大切で尊いものなのか……、
今は痛いほど分かる。
少しだけ、息が楽になった。
アキラが、俺とレイナの顔を見て笑った。
「にしてもお前らひどい顔しとんな」
「めっちゃ瞼腫れとるで?」
レイナは頬を赤らめながら、
こっちを見た。
「…洗面所どこ」
「…あっ、あぁ、出て右の突きあた…」
ギィ……バタンッ
俺が言い切る前にレイナは部屋を出ていった。
ジュンがアキラを見てため息をつく。
「はぁ…、デリカシーとかないの?」
「ユウならまだしも…」
「昨日あんなことあったばかりなのに…」
「んなもん顔見たらわかるやろ?」
「大泣きしてスッキリした顔しとるやん」
ミツルがアキラの方に手を乗せる。
「だとしても普通は気を使うところだぞ?」
「傷をえぐったらどうすんだよ」
「大丈夫や!」
「ユウに丸投げするだけやから!」
「おい!」
俺は思わず突っ込むと、
みんなが笑った。
でも、アキラのこういうところが、
こいつのすごいところで、
いつも救われる…。
ギィ……
「ふぅ…スッキリした!」
レイナが顔を洗って帰ってきた。
「おっ、じゃあ二人とも座れや」
「わいが持って来たるわ」
「ありがとー、お腹空いちゃった」
レイナは吹っ切ったようにお腹をさすりながら、
空いてる席についた。
吹っ切っれてはないだろうが、
少しは元気が出たみたいでよかった…。
俺も座ってテーブルのリモコンを手に取り、
テレビをつけた。
画面が光り、
ニュースキャスターの緊張した声が流れる。
〔西京都近郊で恐竜型の大型魔物が発生〕
〔覚醒者と思われるものによって、討伐され……〕
竜化した俺とサイが画面に映し出された。
〔その後、仲間割れをして、空に姿を消しました〕
すると、次に映し出されたのは薄野だった。
崩れた建物。
煙。
救護に走る消防隊。
泣き叫ぶ人。
〔覚醒者と思われる人物が複数の民家を破壊……〕
レイナの肩が、ビクリと震えた。
やっちまった…。
親友たちの視線が痛い…。
レイナは目を伏せ、拳を握りしめた。
俺は言葉を探したが……、
何も言えなかった。
〔そしてここにも、大型魔物を討伐した覚醒者と思われる一団が出現し……〕
〔薄野で暴れていた覚醒者を殺害したあと、
浮遊城に姿を消したとのことです〕
俺たちの動きが予定より把握されている。
〔そして、この七人の覚醒者は再び西京都に出現し……〕
〔都民を魔物に変異させました…〕
ガタッ…
レイナが立ち上がり俺たちを見る。
「えっ、あんたたち何したの?!」
俺たちは少し俯きながら、画面を指差す。
〔敵対行為を確認した、日輪政府は自衛隊を派遣〕
〔戦闘機と戦車による迎撃が行われました〕
すると俺の姿が拡大されて、
俺の黒淵が自衛隊の武装を、
飲み込む映像が映し出された。
言葉を失うレイナ。
〔この行為により、日輪政府はこの七人を国家転覆の容疑で……〕
「ユウ!!」
レイナが俺を睨みつける。
「大丈夫だ…むしろ好都合…」
「俺等の平穏を脅かす者はすべて滅ぼす」
「今は選別作業なんだよ」
「だからってこんな……」
〔また、市内では新たな覚醒者が多数出現しており……〕
別の映像。
夜の街。
SNSの動画。
カメラが揺れ、
逃げ惑う人々。
力を行使し魔物を倒す若者たち。
レイナが画面を見ながら呟く。
「……これ……全部……覚醒者……?」
「あぁ……俺たちの魔力を浴びせたからな」
「ここから先は、もっと増える」
唇が震えるレイナ。
ゆっくりと俺の袖を掴む。
「……どうなるの……ユウ」
「この街……日輪は……」
俺は静かにテレビの画面を見つめた。
崩れつつある街。
怯えた人たち。
どこかでまた爆発音が響く。
世界は……もう、元には戻らない。
「……日輪の住民がどう動くか次第だな」
レイナが小さく息を呑む。
俺は続けた。
「現状、人を助けるために戦う覚醒者たち」
「兵器として扱うのか……」
「脅威として扱うのか……」
「はたまた英雄か……」
少しだけ目を閉じる。
「それで……日輪の運命が決まる」
レイナの手が、俺の服を掴む指に力をこめた。
日常へ戻ろうとする俺たち……、
世界は静かに崩れ続けていた。
その頃、精神世界では……。
「お前、絶望的にセンスねぇな」
「うるせぇぇえ!!」
ナツの叫び声が響いていた……。




