第44話 喪失と温もり
時は自室に入るところまで遡る…。
オニキス 自室前(ユウ視点)
ギィ……
扉を開ける。
ベッドの上。
レイナが眠っていた。
静かに。
まるで、何もなかったかのように。
俺は、ゆっくりと近づき、
ベッドの横に腰を下ろす。
そして。
そっと、レイナの手を取った。
温かい。
確かに…ここにいる。
「……ただいま……レイナ……」
声が震える。
視界が滲む。
気付けば、
涙が零れていた。
ぽた……ぽた……
レイナの手の上に落ちる。
その時。
「……ユウ……?」
小さな声。
顔を上げる。
レイナが、ゆっくりと目を開けていた。
ぼんやりとした視線が、俺を捉える。
「…ユウ……大丈夫…?」
「あぁ……」
声が、うまく出ない。
レイナは、ゆっくりと手を伸ばしてきた。
指先が頬に触れる。
そして。
涙を、拭った。
「……泣いてるの……?」
「……いや……」
否定になっていない。
レイナが微かに笑う。
「……あたし……助かったんだ……」
その言葉に。
胸の奥が、締め付けられる。
「あぁ……」
レイナの瞳が揺れる。
「……みんなは……?」
俺は、言葉を選べなかった。
選べるはずがなかった。
「……カナは……眠ったまま……」
一拍。
「……橋本さんたちは……」
続きは、言えない。
レイナの表情が、固まる。
そして。
ゆっくりと、歪んだ。
ぽろ……ぽろ……
涙が、零れ落ちる。
「……そっか……」
かすれた声。
「……そっかぁ……」
「ごめん……」
気付けば、俺は謝っていた。
「俺が遅くなったせいで……」
レイナが、首を振る。
ゆっくりと、上体を起こす。
「……違うよ……」
弱い声。
でも、はっきりと。
「ユウは……悪くない……」
唇が、震える。
「あたしが……」
言葉が、途切れる。
「みんな……」
呼吸が、乱れる。
「橋本さん……」
肩が、震える。
「……パパ……」
次の瞬間。
「うわあぁぁぁぁぁぁん……!!」
堰を切ったように、泣き出した。
子供みたいに。
何も抑えず。
全部、吐き出すように。
俺は…。
ただ、手を握ることしか出来なかった。
「ユウ……」
名前を呼ばれる。
顔を上げる間もなく。
レイナが、飛び込んできた。
胸に、顔を埋める。
「あたし……あたし……」
言葉にならない声。
震えが、伝わる。
…守れなかった。
その現実が、胸に突き刺さる。
俺は、レイナを抱きしめた。
強く。
壊れないように。
離さないように。
「……ごめん……」
その言葉しか、出てこない。
気付けば。
俺も、泣いていた。
声を殺して。
ただ、零れ続ける。
しばらく。
どれくらいだったか、分からない。
二人で、泣き続けた。
やがて。
遠くから、声が聞こえる。
「ユウ!俺たち修行いってくるわー!!」
ナツの声。
その後。
また、静寂が戻る。
レイナが、ゆっくりと顔を上げた。
赤くなった目で、俺を見る。
じっと。
何かを確かめるように。
次の瞬間。
唇が、触れた。
「……っ」
一瞬、思考が止まる。
「な、なんだよ……こんなときに……」
かすれた声。
レイナは離れない。
ただ、見つめてくる。
「……あたし……」
息が、震える。
「あたし、一人になっちゃった……」
その言葉に。
胸が、締め付けられる。
「……違う」
俺はすぐに否定した。
「……まだ、俺たちがいる」
レイナの瞳が、揺れる。
「……ユウ……」
ゆっくりと、俺の胸を押し、
そのまま、ベッドに押し倒された。
「……忘れさせてなんて言わない……」
かすれた声。
「……でも……」
視線が絡む。
「……安心させてよ……」
その言葉に。
俺は、息を飲んだ。
(……離したくない)
胸の奥で、何かが軋む。
(これ以上……失いたくない)
(レイナだけは……)
そっと、抱き寄せる。
震えているのは…どっちなのか。
確かめるように、唇を重ねる。
強くはない。
ただ、離れないように。
「今は…優しくしてやれないぞ…」
レイナの指が、服を掴む。
「……いいよ……ユウなら……」
小さく、零れる声。
俺は、目を閉じた。
抱きしめる腕に、力を込める。
言葉はいらなかった。
ただ……。
失わないように。
ここにいると、確かめるように。
俺たちは、そのまま互いに身を寄せあった。
夜は、静かに更けていった。
失ったものは、戻らない。
それでも……。
この温もりだけは、もう離さない…。




