第41話 連鎖する怒り
オニキス ダイニング(マサキ視点)
部屋は静まり返っていた。
テレビもつけず。
誰も口を開かない。
ただ、重い空気だけがそこにあった。
俺たちは、椅子に座ったまま動けずにいた。
ユウとナツは、部屋にレイナとカナを、
ベッドに寝かせにいった。
……何も出来ない。
その現実が、胸に重くのしかかっていた。
やがて。
アキラがぽつりと呟いた。
「……あいつら、大丈夫やろか…」
ミツルが小さく息を吐く。
「どうだろうな……」
俺は視線を落としたまま言う。
「……俺たちには何も出来ない」
ジュンが静かに続ける。
「俺たちは無力だ…」
その言葉に。
サイの肩が、わずかに震えた。
俯いたまま、顔を上げない。
異変に気付いたアキラが、
そっと肩に腕を回す。
「お前のせいちゃう言うたやろ…」
サイは、低く言った。
「……俺が暴走したせいで、時間が押したんだ」
ミツルが首を振る。
「恐竜を倒したあと、
すぐ戻ってきたとは限らないだろ」
アキラが歯を食いしばる。
「……これは、わいらの怠慢や…」
「燐火たちの力借りて……油断しとった…」
俺も、同意するしかなかった。
「……確かにな…」
「俺たちの半分を、防衛に回すべきだった…」
ミツルが目を伏せる。
「最悪のシナリオを描けなかった俺の責任だ…」
重い。
空気が、沈む。
その時だった。
ギィ……
ドアが開く。
全員が顔を上げる。
そこに立っていたのは、
ユウとナツだった。
ふらついている。
まるで、魂が抜けかけているみたいに。
二人はゆっくりと歩いてきて、
席に着いた。
そして。
ナツが、いきなり頭を下げた。
「……みんな、ごめん…」
声が、震えていた。
「俺のわがままに付き合わせた…」
「挙句……あんな奴らを助けて……」
「大事なものを……助けられなかった…」
言葉が、詰まる。
誰も何も言えない。
その時。
ユウが、静かに口を開いた。
……少し、間があった。
呼びかけても、反応が遅れるような。
視線も、どこか定まっていない。
「……この件に関しては、全部俺の責任だ」
空気が、凍る。
「俺がうまくやらなかった」
「だから……お前らが気に病む必要はない」
次の瞬間。
ガタンッ!!
アキラが立ち上がった。
そのままユウの胸ぐらを掴む。
「おい、ユウ」
低い声。
ユウの視線は、合っていなかった。
まるで、言葉が届いていないように。
「お前……わいらの上司やと思っとるんか?」
全員の視線が集まる。
「わいらはなぁ!!」
「自分で考えて動いとるんや!!」
強く、引き寄せる。
「お前の命令で動いたんとちゃう!!」
そして、手を離した。
荒い呼吸。
「……辛いのは分かる…」
「でもな……」
アキラが、真っ直ぐユウを見る。
「お前の周りにおるんは……親友や」
一拍。
「辛い時は、頼れや」
その言葉が、刺さる。
ユウの目に光が戻った気がした。
アキラはナツを見る。
「お前もやナツ!!」
「何が〝付き合わせた〟や!!」
「お前の言い分がおかしかったらなぁ!!」
拳を握る。
「わいらは動かん!!」
「殴り飛ばしてでも止めたる!!」
叫ぶ。
「せやから……これは、わいら全員の失敗や!!」
静寂。
荒い息だけが響く。
やがて。
ナツが、震えながら口を開いた。
「……でも俺……」
顔を歪める。
「我慢出来ないんだよ……」
涙が落ちる。
「みんなに肯定されたら……」
拳が震える。
「この国の奴らに対しての憎悪が……」
「抑えられないんだよ!!」
心の叫びだった。
俺たち全員が、あの光景を思い出す。
西京都で浴びせられた言葉。
あの理不尽。
あの怒り。
ミツルが、ゆっくりと口を開いた。
「……ユウ、一つ確認させろ」
「今回の襲撃……石田の暴走か?」
ユウは、首を横に振る。
「……違う」
静かに言った。
「日輪政府の意向だ」
空気が変わる。
「鷹宮が……死に際に教えてくれた」
静寂…。
「俺たちを揺さぶるために……石田を送り込んだらしい」
「……実験みたいなもんだ」
「どこまで壊せば、俺たちが従うか試してる」
沈黙。
そして。
サイが、低く言った。
「……つまり、言うこと聞かないなら」
魔力が漏れる。
「周りの大事なやつから消すってか?」
アキラが歯を剥く。
「神崎と藤堂は何してたんや!」
ユウが、淡々と答える。
「……殺されたよ」
一瞬の間。
「日輪政府に」
空気が、完全に変わった。
アキラが笑う。
「……ほう、そういうことかい」
魔力が滲み出る。
ミツルがナツを見る。
「ナツ……お前、先に聞いてたんだな」
ナツは、俯いたまま頷いた。
「……あぁ」
小さく息を吸う。
「カナは……彼女とかじゃなかったけど…」
顔を歪める。
「……好きだったんだよ」
沈黙。
そして。
ナツが顔を上げた。
目は、もう揺れていない。
「……俺、もう我慢しなくていいかな」
その一言で俺たちは本当の殺意を実感した。
全員の身体から。
魔力が、溢れ出す。
誰も止めない。
誰も否定しない。
それが、答えだった。




