第31話 揺れる心
北幌駅 地下政府施設(ナツ視点)
モニターの光が、部屋を青く照らしていた。
映し出されているのは…、
炎に包まれた西京都。
巨大な影が、街を踏み潰している。
自衛隊の戦車が並び、砲撃を続ける。
だが。
まるで効いていない。
砲撃の煙の中から、巨大な尾が現れた。
次の瞬間。
戦車が弾き飛ばされ。
モニターの向こうで爆発が起こる。
部屋に沈黙が落ちた。
サイが小さく鼻で笑う。
「……もう時間の問題だな」
ミツルが腕を組む。
「首都壊滅コースだな、これは…」
アキラがモニターを睨む。
「えげつないな……」
ユウは黙って画面を見ていた。
炎の中で暴れ続ける恐竜。
逃げ惑う人々。
しばらくして、ユウが口を開いた。
「……とりあえず戻るか…」
俺が顔を上げる。
「戻る?」
「事務所に…」
ユウは椅子から立ち上がった。
「レイナたちにも状況説明しないといけない」
ジュンが天井を眺める。
「黒瀬さんか…、心配するんだろうな…」
マサキも立ち上がる。
「覚醒者と鷹宮も、とりあえず連れて行くか」
俺はもう一度モニターを見る。
燃える西京都。
胸の奥がざわつく。
だが何も言えなかった。
米澤組 事務所
扉を開けると、
テレビの音が聞こえてきた。
組員たちがニュースを見ている。
カナと黒瀬さんもそこにいた。
「戻ったか」
橋本さんが言う。
アナウンサーの声が響いた。
〔西京都で出現したティラノサウルスは……〕
画面には炎の街。
逃げ惑う人々。
〔現在も自衛隊が対応を続けていますが、状況は依然として深刻です〕
画面が切り替わる。
〔さらに海外でも同時刻、
巨大生物の出現が確認されました〕
別の都市。
〔星条連合では、ギガノトサウルス〕
高速道路を踏み潰す巨大な恐竜。
〔極東連邦では、アルゼンチノサウルス〕
歩くだけで街が崩れていく巨大な影。
〔龍華共和国では、スピノサウルス〕
川から現れた巨大な背びれ。
俺はテレビを見つめた。
世界中で。
同時に。
恐竜の魔物が暴れている。
だが頭の中に浮かぶのは。
地下施設での会話。
サイの声。
「感情で動くなバカが」
ミツルの声。
「関わらないだけ」
そして…。
ユウ。
「助けには行く。ただし、今すぐじゃない」
俺は拳を握る。
わかっている。
ユウの判断は合理的だ。
間違っているとは思えない。
でも。
胸の奥が苦しかった。
俺はその場を離れた。
廊下を歩き、
そのまま寝室の扉を開けた。
ベッドに座り、顔を手で覆う。
「……くそ」
その時。
扉がそっと開いた。
「……ナツくん」
カナだった。
俺の少し離れた場所に座る。
静かな空気。
俺がぽつりと言う。
「助けられるかもしれないのに」
カナは何も言わない。
俺は立ち上がった。
「なんで待つんだよ……!」
声が震える。
「今行けば…助かる人いるかもしれないだろ!」
壁を拳で叩く。
「わかんねぇよ……!」
叫び声が部屋に響く。
「ユウが間違ってるとは思わない!」
「でも……でも!!」
言葉が詰まる。
カナは静かに俺を見ていた。
そして小さく言った。
「ナツくんは……優しいね」
俺は首を振る。
「違う」
「優しくなんかねぇ」
カナは近づいてきた。
そっと俺の手を握る。
俺は驚いてカナを見た。
カナは小さく微笑む。
「ナツくんがしたいこと」
「やった方がいいと思う」
俺はカナの目を見る。
「……いいのかよ」
カナは頷いた。
「でも」
少しだけ手を握る力が強くなった。
「約束して」
「必ず帰ってくるって」
俺は少し黙ってから言った。
「……ああ」
「約束する」
カナは小さく頷く。
そして言った。
「……待ってるから」
俺はみんなのところに戻った。
西京都の被害はさらに広がっていた。
俺はテレビの前に立つ。
周りには組員たち。
黒瀬さんもいる。
そして親友たち。
俺はゆっくり言った。
「……俺は行く」
部屋が静まる。
「一人でも多く助けたい」
拳を握る。
「もし誰も行かないなら」
「……俺は一人でも行く」
組員たちがざわめく。
黒瀬さんも驚いた顔をした。
だが。
親友たちは驚かなかった。
ユウも。
ミツルも。
サイも。
ただ俺を見ている。
ジュンが小さく笑った。
「……だと思った」
マサキがため息をつく。
「ほんと面倒なやつ…」
アキラが笑う。
「せやけど、それがナツや」
ミツルが肩をすくめた。
「しゃーねぇな」
ユウが俺の目を見る。
「ただし条件がある」
「……」
「やばいときは撤退だ」
「安全最優先」
俺は強く頷いた。
「……わかった」
ユウが言う。
「行くか…」
俺たちは外へ出た。
米澤組 事務所前(ユウ視点)
俺たち七人が並んだ。
その時。
「待って!」
レイナが声を上げた。
俺が振り返る。
レイナは少し震えながら言う。
「……本当に行くの?」
俺は静かに頷く。
「大丈夫だ」
「すぐに帰ってくるって…」
レイナは少しだけ俯く。
やがて小さく頷いた。
俺は空を見上げる。
「俺たち、もう世間からしたら竜だよな?」
ナツが笑う。
「それで?」
「ドラゴニック・レギオンってどう?」
一瞬の沈黙。
サイが口を開いた。
「…ダッサ」
アキラが続く。
「わいは嫌いやないで?」
「俺たちの初陣だ…行くぞ!!」
俺の声で同時に力を解放する。
竜化(弱)
竜翼を広げ。
武器を具現化。
夕空へ。
俺たちは飛び立つ。
西京都へ向かって。




