第27話 静かな夜、迫る朝
レイナは幽月と手を合わせたあと、
安心したのだろう、また眠りについた。
「幽月…、回復魔法って使えるか?」
〈……回復魔法か〜、
正直あまり得意じゃなくてね…〉
幽月が小さく息を吐く。
金色の瞳が、倒れたレイナを見下ろした。
〈まあ、遅くてもいいなら…〉
「時間はかかってもいい。頼む」
俺がそう言うと、幽月は静かに尾を揺らす。
〈パートナーだしね…、わかった…任せて〉
黒い光が、レイナの身体を包む。
こういう時、
俺に回復系のセンスがないのが恨めしい。
回復してもらってる間、
俺は幽月と向かい合った。
〈さて……話の続き、
なぜ今、私の力が必要だったの?〉
「明日、覚醒者と面会があるんだ」
幽月の耳がわずかに動く。
「面会には俺含め、竜が七体出席する」
「その間事務所が無防備になる、
万が一、何かあった時の保険だ」
〈保険、か〉
「…甘いのはわかってる…」
俺はレイナを撫でながら、
失うことを考えてしまった。
「頼めないか?」
しばしの沈黙のあと、幽月は小さく笑った。
〈……面白い男だね、ユウ〉
〈これからよろしく頼むよ〉
「ああ、こちらこそ」
やがて黒い光が消える。
「……ん……」
レイナのまぶたが震えた。
「ここは……」
視線が俺と幽月を捉え、
状況を思い出したのか、みるみる顔が赤くなる。
「わ、私……」
レイナは焦って上体を起こした。
「もう大丈夫そうだな、ありがとう幽月」
〈あぁ……疲れた…〉
「帰ろうか…」
レイナは小さく頷く。
シュゥゥゥ、ブンッ……
現実世界 レイナの部屋
ブンッ……
「疲れた〜、?!」
時計を見た瞬間、俺は固まった。
「……は?」
午前四時過ぎ。
「仮眠しか取れない……」
溜め息が漏れる。
「まあ…仕方ないか」
寝ないことも考えたが、
面会がどう転ぶかわからない以上、
集中力を落とすことは考えられなかった。
「じゃ、俺寝るわ」
俺が部屋を後にしようとした、
そのとき。
「……お礼、まだしてない」
俺の隣で、レイナがこちらを見ていた。
「気にするなって」
「気にする」
レイナは静かにベッドに正座し、
自分の太ももを、ぽん、ぽん、と叩く。
「……」
俺は一瞬、迷う。
だが正直。
俺は疲れていた。
肉体だけじゃない、
神経も擦り減っていた。
「……じゃあ、お言葉に甘えるわ」
そっと頭を預ける。
柔らかい感触と、体温。
優しく髪を梳く指先。
普通ならドキドキするんだろうが、
そんな余裕はなかった。
「おやすみ、ユウ」
その声を最後に、意識が闇へ沈んだ。
レイナは眠るユウを見つめる。
「……ほんと、昔から無理ばっかり…」
「こっちの身が持たないよ…」
指が止まる。
「あたし…隣に立てるようになるから」
小さな雫が、頬を伝った。
夜は、静かに更けていく。
朝6時。
ピピピッ、ピピピッ
アラームの音を聞き目を覚ますと、
思いのほか、身体は軽かった。
俺は下からレイナを見上げる。
「……最高だったわ」
レイナが少し照れたように視線を逸らす。
「ぐっすり寝てたもんね」
「レイナ、ありがとな」
俺は、勢いよく起き上がり、
ナツの泊まってる部屋へ突撃した。
ドンッ
「イテッ」
「ナツ起きろ、みんなと合流するぞ」
「……、あと5分だけ…」
「……こいつ…」
ゴンッ
「イタッ」
俺はナツを叩き起こし外へ出る。
上空には、巨大な影。
オニキスが浮遊していた。
俺は念話を飛ばす。
(ミツル、全員起きてるか?)
(なんとかな…、
アキラもやっと起きたところだ)
(おつかれさん、北幌駅集合で頼むわ)
(了解〜)
北幌駅
「よっ、一日ぶり!」
「眠みぃ」
「連れてくるだけで疲れたわ」
鷹宮の話では、
地下のさらに地下に、
政府の秘密施設があるという。
待ち合わせ場所で待っていると、
スーツ姿の鷹宮が足早に近づいてきた。
「お待たせしました。こちらです」
重々しい扉が開く。
無機質なエレベーター。
数字が下へ、下へと沈んでいく。
到着すると、
さらにもう一つの分厚い扉。
それが開いた瞬間…。
そこは、巨大なモニターが壁一面に並ぶ、
まるでアニメで見る作戦司令部のような空間だった。
中央の椅子に座る三人の覚醒者。
鋭い視線が、こちらを射抜く。
空気が、変わる。
さて、始めるか…。




