第25話 覚悟の交差点
米澤組事務所前
あのあと、俺たちは事務所に戻っていた。
俺は外で明日覚醒者と面会することをミツルに連絡し、
他のやつにも周知するように頼んだ。
ガラガラガラ
俺は薄暗い廊下の奥、
レイナの部屋に向かった。
(暁闇、オニキスをこっちに移動させてくれ)
《あいよ、朝までには着くはずだ》
(頼む…、今後の俺達の動きが明日決まるからな)
コンコン
「入っていいよ〜」
声を聞き扉を開けると、
レイナは窓辺に腰掛け、夜景を眺めていた。
「話終わった?」
「あぁ、明日の朝には北幌の上空に着くってさ」
カーテン越しの月明かりが、
彼女の横顔を淡く照らす。
いつもの笑顔だった。
「……レイナの覚悟、もう一回聞かせて」
「何度でも言うよ」
レイナはまっすぐ俺を見た。
「力をつけて守る側に立ちたい、
あーしは逃げない」
「お前らしくなってきたな、
後悔しても戻れないぞ」
「それでも…」
一拍置いて、レイナは息を吸い込んだ。
「あーしはやる!」
その言葉を聞いて、ようやく俺は頷いた。
「わかった…行こうか」
俺はレイナの手を掴んだ。
「えっ…」
シュゥゥゥ、ブンッ……
精神世界
ブンッ……
そこは、どこか懐かしい町並みだった。
平安時代のような木造の建物が並び、
瓦屋根の上に静かな月が浮かぶ。
だが、空気は異様に静まり返っていた。
音という音が吸い取られたように、
世界は沈黙している。
十字路の中央に、黒い結晶が浮いていた。
脈動するように、内側から闇を滲ませている。
「……なに、ここ」
レイナの声が震える。
「精神世界だ、
でも、俺らの時とは違うな」
闇は、心の隙間を喰らう。
それは闇属性の宿命だった。
レイナの不安に呼応するように、
影が足元に絡みついた。
「きゃっ」
「落ち着け…」
俺はレイナの手を強く握った。
「お前には、俺がついてる」
その瞬間、震えが止まった。
「……ありがと」
彼女の手は、思ったより強く、
俺を握り返していた。
「まずは想像しろ」
「漫画やアニメみたいに、
身体強化と武器の具現化を試してみろ」
「うん」
レイナは目を閉じ、意識を集中させる。
闇が体に絡みつき、
簡単に闇を纏ってしまった。
ビシッ
「……え」
踏み出した一歩で、地面が砕ける。
ひび割れは十字路全体に走り、
瓦屋根の影まで揺れた。
「やば!」
俺は笑ってしまった。
身体強化だけで言うなら、
親友たちを余裕で超えていたから。
これがセンスってやつなのか。
「武器はどうだ?」
彼女は拳を握り、何度もイメージを重ねる。 剣、槍、鎌、銃――。
だが、何も現れない。
「……出ない」
「もう一回」
「出ない……」
何度試しても、闇は形にならなかった。
「武器は無理か……、素手?」
「まあ、そっちのほうが、
あーしに向いてるか」
レイナは自分の拳を見つめる。
「身体強化特化型かぁ…、脳筋率高い…」
「はぁ…まあいいか……」
俺は結晶を見た。
「触れれば、相方が出て来ると思う」
「……一緒に」
「あいよ」
手を繋いだまま、結晶に触れる。
その時、
闇が爆発的に広がり、視界が黒に染まった。
影の中から、何かが歩いてくる。
二本の尻尾を揺らしながら。
「……猫?」
黒い毛並み、金色の瞳。
二本の尾を持つ猫又だった。
〈……ここは、どこ?〉
猫又は周囲を見渡し、
困惑したように首を傾げる。
「いきなり呼んですまないな、俺はユウ」
「あ、あたしはレイナ」
〈……おぉ、人と話すのは何百年振りかな…、
私は猫又の幽月〉
「少し説明させてくれ」
幽月に状況を説明中……。
幽月はしばらく黙り込み、
やがて小さく息を吐いた。
〈なるほどね…、でこの世界の私が…〉
「そう」
レイナは一歩前に出る。
「あーしってわけ」
猫又の金色の瞳が、レイナを見据えた。
〈……人の娘は脆い。闇は容易く心を喰らう〉
一瞬の沈黙。
「わかってる…、それでも守れる力が欲しい!」
幽月は、にやりと笑った。
〈なら、力を見せて貰おうかな〉
闇がざわめく。
十字路の闇が、ゆっくりと形を持ち始めた。
今……試練の幕が、上がる。




