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第19話 新たな執行人


綱走刑務所 内部


「チッ、食料も尽きかけだな」


鉄格子を蹴り飛ばしながら、

覚醒者となった元受刑者の男が吐き捨てた。


かつて更生施設だったはずの場所は、

今や血と汚物と暴力の臭いが混じる地獄と化している。


「俺の玩具も昨日壊れちまったんだよなぁ」


「綱走から出るしかねぇだろ、

北幌まで行けばどうにでもなる」


「見つけたら女もガキも、

道中でもらって行こうぜー」


下卑た笑い声が、コンクリートの壁に反響する。


「俺は黒ギャルがいいな〜」


「はははは、最高じゃねぇか。

俺らが支配者になれるってわけだ」


「ハーレムでも作るかぁ」


「食料は奪えばいいし、

言うこと聞かねぇやつは殺せばいい」


「逆らった女は……」


言葉の続きを、誰も止めなかった。

男たちは楽しそうに笑い合う。

そこに罪悪感という概念は、もう存在しなかった。


「出発は今日の夜だ、

電気がついてる家は全部襲ってくぞぉ」


「街一つ落とせば、あとは好き放題だな」


覚醒能力を得たことで、

彼らは完全に〝人間〟をやめていた。




綱走刑務所 上空


俺達は刑務所内のやり取りを魔力を使って覗いていた。


「…聞いといてよかった……」


《あぁ、胸糞悪いがな…》


「お陰で、躊躇はなくなった」


巨大なコンクリートの要塞。

その外壁にはひび割れが走り、

そこから黒い瘴気のような魔力が噴き出している。


《中はまさに地獄だな》


「ちょうどいいな、

じゃあ俺が地獄の番人になってやるよ」


ドォン


俺は刑務所の正門前に降り立った。


地面が砕け、衝撃波が走る。

砂塵を巻き上げ、遠くの監視塔が軋む。


「なんだてめぇ!」


「上から来たぞ!」


囚人たちが次々と現れる。

その数、約二十人。


それぞれ体の一部が、

獣の爪、昆虫の外骨格、蛇の尾などに変異し、

異様な属性魔力を纏っていた。


「てめぇらは北幌には行けねぇよ」


俺は右の掌に魔力を集める。

黒炎と黒雷が絡み合い、空間が軋む。


「俺の名は影宮 悠」

「お前らの死刑執行人だ」


一瞬の沈黙。


次の瞬間、囚人たちが一斉に襲いかかってきた。


「舐めてんじゃねぇぞぉ!」


「殺せぇぇぇ!!」


「ヒャハハハ!」


狂気の咆哮。

人間だった名残は、その声にはなかった。


俺は囚人たちに掌を突き出す。


「焼き尽くせ…、黒炎雷(こくえんらい)


ボォォォオオ、バリバリバリ


「な…」


紫黒の稲妻が闇色の炎に絡みつき、

一本の災厄の奔流が、

咆哮を上げて解き放たれる。


それは雷撃であり、業火であり、

触れたものは存在そのものを否定される。


炎で肉体は焼き尽くされ、

雷は骨髄まで破壊しながら貫通する。


ゴゴゴ……


そこに残ったのは、炭化した影だった。


衝撃が収まった後、

刑務所の前庭に音はなかった。

風すら焼け落ちたような沈黙。


「へー、三人も耐えたか、

幹部クラスってやつか?」


「な、何なんだこいつ…」


「こ、こいつ昨日動画で見た黒竜?!」


俺は刀を抜き、

囚人に切っ先を向ける。


「来いよ」

「お前らの罪、全部まとめて返済してもらう」


囚人たちの地獄はこれからだ。

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