第14話 残る熱
「おーい、ユウ大丈夫かー?」
アキラの声が、少し遠く聞こえた。
「……あぁ、大丈夫だ……」
そう答えたものの、
自分の声に力がないのは分かっていた。
「本当に大丈夫か? 元気ないじゃん」
ナツの視線が刺さる。
まあこいつらに誤魔化せるわけないか……。
「実はさぁ……」
マサキが、ぽつりと切り出した。
それから少しの間、
マサキが合流組に、さっき起きたことを説明していた。
万雷のこと。
俺が、どこまで行きかけたかという話を…。
「なるほどなぁ……」
アキラが腕を組み、低く唸る。
「昔にもこんな事あったなぁ」
ナツの言葉に、春嵐が首を傾げた。
《昔って?》
「マサキとミツルが、
女の子にめちゃくちゃモテる時期があってさぁ」
ナツはどこか懐かしそうに笑いながら続けた。
「それでヤンキーに目を付けられて、
拉致られた事があったんだよ。
相手が結構な人数でさ、警察に頼もうって話になってたんだけど……」
俺は、無意識に拳を握っていた。
「ユウとサイとアキラがブチ切れちゃって、
三人で突っ込んでってさ〜」
その先は、分かっている。
分かっているのに、聞くのが少し怖かった。
「サイとアキラは相手が戦闘不能になるくらいで止めたんだ。でもユウは……」
ナツは一瞬、言葉を選んだ。
「全滅させたあとも、攻撃をやめなかった。
だからサイとアキラが止める羽目になったんだ」
《……ユウさんって、怖い人?》
《今のイメージと違うんだけど……》
春嵐の戸惑いは、もっともだった。
「うーん……」
ジュンが少し考え込む。
「これから付き合っていけば分かると思うけど」
「度が過ぎるほど仲間想いなんだよな」
「それこそ自分の命を捨ててでも、
仲間を助けようとする奴なんだよ」
《そんな人、なかなかいないよ》
燐火が、柔らかく笑った。
《私達が、大事にしてあげないとねぇ》
「ホンマ危なっかしいやっちゃ」
アキラが肩をすくめる。
「目離せへんちゅーねん」
冗談めかした口調に、少しだけ救われた。
そんな話をしていると、
ミツルと赭土が合流してきた。
「みんなお疲れー。
魔法使うの、やっぱり難し……あれ?」
ミツルが周囲を見渡す。
「なんで、ちょっとしんみりしてるの?」
「まあ、ちょっとな」
アキラが肩を組んでミツルに小声で話す。
「昔の拉致の話とか、いろいろや」
「そっか、いろいろねぇ」
《よーし、回復終わったよ〜》
瑞光の声に、空気が一気に緩んだ。
《助かったぜ瑞光、ありがとよー》
《う、うん》
瑞光は頬を赤く染めながら暁闇から視線を逸らした。
《とりあえず全員の初顔合わせだな、
紹介していくか》
暁闇の一声で、簡単な自己紹介が始まった。
少しぎこちなくて、
でも確かに「仲間」になっていく感覚。
《……てな訳で、これからよろしくって事で》
《はぁ、疲れた……》
よろしくー、
みんなの声が重なった。
不思議と、胸の奥が温かくなった。
「とりあえず帰るかぁ、流石に疲れた…」
「「「「「「賛成…」」」」」」
シュゥゥゥ、ブンッ……
浮遊城 ダイニング
俺達の現実に帰って来た。
だが…、
落ち着かない…。
戻ってきた瞬間、
現実の空気が、やけに重く感じられた。
誰もすぐには口を開かなかった。
さっきまでの戦場の熱が、
まだ胸の奥に残っている。
……その時だった。
バタバタバタバタッ。
低く、腹に響く音。
「……ヘリ?」
ナツが窓の外を見る。
重低音は次第に大きくなり、
城門前で動きを止めた。
次の瞬間。
[こちらは日輪政府、
内閣官房長官、神崎 宗一]
拡声器越しの声。
無機質で、感情を極力削ぎ落とした声だった。
[城内部にいる影宮悠、及び関係者に告ぐ]
全員の視線が、一斉に俺に集まる。
[こちらに敵対の意思はない]
[対話を希望する]
「……対話だってよ」
ミツルが苦笑混じりに呟く。
「信用できるんか、それ」
アキラの声は低い。
「罠の可能性は?」
ナツが慎重に問いかける。
「高いな」
俺が即答した。
「でも……」
ヘリは一定の距離を保ち、
こちらの結界の外で止まっている。
攻撃は……してこない。
[繰り返す]
拡声器の声が再度響く。
[こちらは話し合いを望んでいる]
[応じる意思があるなら、
バリアを解除してほしい]
重たい沈黙。
俺は拳を見ながら考えた。
さっきまで、誰かを殺すために使っていた手。
それでも…、対話のためにも使えるはずだ…。
「……なぁ」
みんなの顔を見る。
「逃げ続けても、いずれぶつかる」
全員が、黙って聞いていた。
「向こうは、もう俺たちを把握してる」
「だったら……」
一度、深く息を吸った。
「話を聞こう」
ナツが一瞬だけ目を見開き、
すぐに小さく笑った。
「俺はお前についていく」
「危なっかしい選択やなぁ」
アキラが肩をすくめる。
「せやけど……ユウらしいわ」
「俺も賛成だ」
マサキが頷く。
「ただし、主導権は渡すな」
「もちろん」
俺は一歩、前に出た。
「バリアを解除する」
その言葉に、
全員が覚悟を決めた。
結界が、静かにほどけていく。
空気が変わる。
現実世界と、完全に繋がった感覚。
ヘリが、ゆっくりと高度を下げた。
ここから先は、戦場じゃない。
だが、
世界と戦う交渉が始まる。




