7月27日(月):縞綱水瓜の日
とある世界では今日は『スイカの縞模様を綱に見立て、7月27日を「夏の綱」と読む』日。アルメリアでは『縞綱水瓜の日』として、丸い水瓜を家族で分け、涼しい席を一番暑がる者から聞いて、盛夏の夜の居間を静かに整える日。
夜の灯路が窓の下で淡く光り始めたころ、ルミナは台所の涼み棚から大きな水瓜を抱えてきた。昼のうちに台所の涼み棚へ置き、濡らした布を掛けて、日の当たらない場所で休ませていたものだ。濃い緑の皮には黒い縞が何本も走り、クリスは両腕で大きな丸を作った。
「おおきい。わたしより、まるい」
「クリスより丸かったら、ずいぶん立派だな」
アストルは笑いながら、東窓の下へ長椅子を寄せた。日中の熱がまだ壁に残っている一方、窓からは灯路沿いを抜けてきた細い風が入っている。
それを見たレオンが自分の椅子を運び、フィオナも作業灯から離れた椅子を窓側へ寄せた。グレゴールは地下室の階段口から低い腰掛けを持ち出し、クリスはルミナの椅子へ小椅子をぴたりと付ける。
気づけば東窓の前には、椅子と腰掛けが半円ではなく、風を奪い合うような一列に並んでいた。長椅子の前へ低い卓を置こうとしても、脚がレオンの椅子に当たる。台所から水瓜を運ぶ道も狭い。
「お父さん、もう少しそっち」
「そっちは柱だぞ。レオンこそ半歩――」
「ぼくが下がると、おじいちゃんの階段口をふさぐ。今の並びだと、誰か一人を動かすだけじゃ直らないよ」
アストルが長椅子の端を持ち上げた拍子に、座面へ置いていた畳み布が床へ落ちた。けがも壊れ物もない。ただ、全員が涼みたいのに、誰も落ち着いて座れない。
梁の上でスノーが片目を開けた。
「早い者勝ちにするなと言っただろうが」
フィオナは玄関小棚から昨日の棚卸し紙を取り出した。裏には、自分で書いた一行が残っている。
『夜、家族それぞれの涼む場所と、片づけを始める時刻を聞く』
「置いた順じゃなくて、暑い順に聞こう」
「なら、まずお父さんね」
ルミナが穏やかに言うと、アストルは反射的に首を振った。
「俺はどこでも――」
「お父さん、工房からずっと背中を拭いてる。どこでもいいって言うと、最後に風のない場所へ座ることになる」
レオンは理由まで言って、東窓の右端を指した。
アストルは布を見下ろし、観念したように笑った。
「じゃあ、右端。背中へ風が来る向きがいい」
グレゴールは地下室の階段口を選んだ。ただし降り口の正面ではなく、一段目から手のひら二つぶん離す。ルミナは台所へ戻りやすい南側。クリスはその隣で、水差しへ手を伸ばさなくてよい場所に決めた。
「わたし、おかあさんのとなり。かぜ、ちょっと。おみず、ちかい」
レオンは窓の正面を避け、風をふさがない斜めの位置を選ぶ。
「ぼくはここ。立つときに卓の角へ当たらないし、皮の鉢も持てる」
フィオナは作業灯の熱が届かず、全員の顔が見える西側にした。
6つの席が決まると、余っていた椅子を壁へ戻した。長椅子は窓と平行ではなく、少し内側へ向ける。腰掛けと小椅子も、首だけをひねらず卓へ向けた。落ちた畳み布は二枚に折り、長椅子の背とグレゴールの腰掛けへ一枚ずつ置く。
低い卓が中央へ収まった。台所から運ぶ道にも、人ひとりぶんの幅が戻る。
「まず、普通の声で聞こえるか確かめよう」
ルミナが水差しを置きながら言った。
アストルが右端から尋ねる。
「父さん、水は足りるか」
「聞こえる。杯も手元にある」
グレゴールの返事へ、誰も身を乗り出さなかった。クリスの「わたしも、きこえる」も、窓の風に消えない。
席が整ってから、水瓜を切る準備に入った。ルミナが皮を洗い、乾いた布で水気を取る。丸い実が切り板の上で動かないよう、フィオナは厚い布を輪にして下へ敷いた。アストルが両脇から押さえ、子どもたちは卓から一歩離れる。
刃が皮を割ると、赤い実と黒い種が現れた。甘い匂いが、夜の風へ薄く混じる。
「ひかってる」
クリスの声が小さくなった。
半分にした水瓜へ、フィオナは紙帯を沿わせた。皮の縞だけを目印にすると、切れの幅がばらばらになる。紙帯へ同じ幅の折り目を付け、ルミナがその印に合わせて切り分ける。
「大きさも、食べる人から聞こうか」
「ぼくは最初、細いのがいい。食べ終わって足りなかったら次をもらう。大きいのを持って汁をこぼすより、その方が落ち着いて食べられる」
「わたし、たね、すくないの。あかいの、いっぱい」
アストルは厚め、グレゴールは薄め。ルミナとフィオナは中くらい。誰も『どれでもいい』とは言わず、持ちやすさと食べきれる量を言葉にした。
卓の左へ食べる盆、右へ皮を戻す鉢、手前へ種皿と湿り布を置く。残りの二切れは蓋盆へ入れ、台所の涼み棚へ戻した。
灯路の光が窓辺を縁取る中、家族はそれぞれの席で水瓜を食べた。アストルの背へ風が通り、グレゴールの眼鏡は曇らない。クリスは見つけた種を一粒ずつ皿へ置き、レオンは皮を鉢へ返すたび、卓の角へ当たらないことを確かめていた。
「片づけは、何時からにする?」
フィオナが聞くと、アストルの『食べ終わったら』は、口に出る前に引っ込んだ。
ルミナが刻み時計を見る。
「20:20にしましょう。それまでは急かさない。時刻になったら、自分の席と使った皿を一つずつ戻す。卓と水差しは最後」
全員が頷いた。
20:20になると、誰かが号令を掛ける前に手が動いた。皮の鉢と種皿を流しへ運び、湿り布は洗い籠へ。椅子は引きずらずに持ち上げ、元の場所へ戻す。グレゴールの腰掛けを階段口へ置いたあと、フィオナは一段目との間へ手のひら二つぶんの幅があることを確かめた。
最後に卓を拭く。水瓜の汁も、踏みそうな種も残っていない。畳み布は洗って固く絞り、丸めず、乾かし籠の縁へ広げた。
フィオナは新しい控え札へ書いた。
『涼しい席は、一番暑い人から聞く。椅子ごと卓へ向ける。食べる盆と皮の鉢を分ける。片づける時刻を先に決める』
『縞綱涼み札控え』は、『家の段取り』の箱へ入れた。昨日直した敷き桟の上で箱は隣を連れず、静かに引き出され、静かに戻る。
居間には、さっきまで6人が座っていた形だけが、涼しい風の通り道として残った。台所の乾かし籠では、二枚の布が重ならずに夜気を受けている。朝になったら、乾き具合を確かめてから畳む。
スノーが上窓の風へ翼を少し開いた。「丸い実は切れば分けられるが、涼しい風は早い者勝ちにするな。声を張る前に席をずらせ――明日の朝、湿った布を丸めたままにするなよ」




