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7月26日(日):影仕掛け見直しの日

 とある世界では今日は『怖い物語が初めて舞台に現れ、見えない仕掛けが人の想像を動かした』日。アルメリアでは『影仕掛け見直しの日』として、ひとりでに動いたように見える道具を影のせいにする前に、裏側のつなぎと隠れた隙間を確かめる日。


 昼の工房は、戸布を下ろしても白かった。夏休み9日目。外へ出る用事はなく、フィオナは昨日の棚卸し紙を青い布の上へ広げた。


 裏には、スノーの言葉を書き留めた一行がある。


『一週間分の手つきを、棚の並びで読む』


 今週使った札は、六つの分類すべてにまたがっていた。ただし、六つの箱が一か所にあるわけではない。『家の段取り』『町の手順』『外歩きと安全』は玄関小棚。『食べ物と水』は台所脇。麦穂印のものは工房の紙箱。『修理途中』は工房の修理棚だ。


「運ばずに、その場所で確かめよう。戻す場所を混ぜないために」


 フィオナが言うと、レオンは棚卸し紙を三つ折りにした。


「ぼくは使った札と、次に探す場所を書く。玄関、台所、工房の順なら、同じ札を二度数えない」


 レオンは一週間の欄へ、20日の六分類、21日の風影案内札掛け、22日の木の実袋、23日の探し札、24日の手休め刻盤、25日の夏氷受け渡し札と順に書いた。直した物の名ではなく、どの場所から取り、どこへ返したかを横へ添える。


 クリスは小さな木札を三枚持った。


「みた。まだ。もどした」


「その三枚を、箱の前へ置いてね」


 ルミナは台所脇の『食べ物と水』を受け持ち、木粉を持ち込まないよう乾いた布を用意した。グレゴールは地下室の階段口から、玄関小棚の奥行きを見ている。


 アストルだけが、細長い木組みを三つ抱えていた。


「棚卸しの前に、これを入れよう。玄関の三箱用だ」


 二本の細桟を前後へ渡し、奥側を短い木片でつないだ台が三組ある。箱の底を棚板から少し浮かせ、夏の湿りを逃がすための敷き桟だった。ところが三組の手前側は、さらに一本の長い横桟でつながれている。


「三箱が曲がらず並ぶように、まとめておいた」


 グレゴールが眼鏡を押し上げた。


「空箱で測ったな」


「箱の外寸は同じだ」


「中身の重さは同じではない」


 フィオナは答えを急がず、三箱を棚から下ろした。札は抜かず、箱ごと青い布へ置く。敷き桟を棚へ入れ、箱を元の順に載せた。


 まず『家の段取り』を引く。手前へ指二本ぶん進んだところで止まり、隣の『町の手順』まで一緒に動いた。クリスが『外歩きと安全』へ手を掛けると、三箱全部が少しずつ前へ出た。


「わたし、これだけ、ひいた。みんな、きた」


「影が引っぱったみたいだな」


 アストルが言った。


「影じゃない。見えないところで、お父さんが全部つないでる」


 フィオナは棚の下へ手鏡を差し、長い横桟を映した。中央は箱の重さでわずかにたわみ、棚の前縁へ擦れている。左右の敷き桟も外へ開き、7月20日に戻した札一枚ぶんの横幅を埋めていた。


 レオンが箱ごとの重さを手で比べる。


「町の手順は台紙付きの探し札が増えた。外歩きと安全は、夏に使う札を手前へ出してる。空箱が同じでも、載せたあとは同じじゃない」


 手休め刻盤が『水』を正面へ送った。


「先に休みましょう」


 ルミナが杯を並べる。フィオナは玄関小棚の前から離れ、水を飲んでから作業の順を決めた。


「長い横桟を外す。三組を別々にして、札を入れた箱で幅を測る。前には指を入れる場所、横には次の札一枚ぶんを残す」


 工房へ運んだ敷き桟のねじを外す。アストルが木組みを押さえ、フィオナが長い横桟を分離した。ねじは三つの小皿へ分ける。レオンは外した順と長さを書き、クリスは皿の前へ一、二、三の印を置いた。


 共通の横桟を外すと、中央の一組だけが片側へ反っていた。フィオナは平らな当て板で挟み、乾いたまま少しずつ形を戻す。長すぎる細桟は、実際に札を入れた箱を載せて印を付け、細鋸で切った。切り口を研ぎ布で丸め、指に引っかからないことを確かめる。


 三組は互いにつながない。二本の細桟が開かないよう、箱の奥側だけを短い渡し木で結ぶ。上面には小さな革片を二か所ずつ貼った。箱を止めるためだが、底全体は覆わず、空気の通り道を残す。


「前をつながないの?」


 クリスが聞く。


「前は、手が入るところだから空けるの。奥だけで幅を守る」


「ての、みち」


「そう。風の道も一緒に残す」


 玄関小棚へ戻し、札を入れたまま一箱ずつ試した。『家の段取り』を5回。『町の手順』を5回。『外歩きと安全』を5回。どの箱も隣を連れてこず、前へ静かに引ける。


 最後はクリスの手で確かめた。


「これだけ、くる。となり、こない。よこ、あいてる」


 箱の横には札一枚ぶん、前には小さな手が入る幅が戻っていた。


 棚卸しを続ける。『家の段取り』は手休め刻盤控えを手前へ。『町の手順』の夏氷受け渡し札控えは催しが終わったため奥へ戻し、次の町札を入れる幅を残す。『外歩きと安全』は白もや風屋根札控えと風影案内札控えを手前にそろえた。


 台所脇では、ルミナが冷渦札控えと木の実袋控えを取り出しやすい位置へ戻す。工房の紙箱は開けず、蓋と底に湿りがないことだけを確認した。修理棚では、切り光札控え、糸向き札控え、差し戻し札控えの置き場所を変えず、札の名が見える向きだけをそろえる。


 六つ口の札分け台も一度使った。今週増えた札の控えを一枚ずつ通し、案内溝、案内木、木輪が引っかからないことを確かめる。台を作り直す必要はなかった。


 フィオナは新しい控え札へ書いた。


『箱は中身を入れて測る。支えを一つにつながない。底へ風、前へ手、横へ次の札の幅を残す』


『影仕掛け棚卸し控え』は、『家の段取り』へ入れた。


 使った工具も戻す。細ねじ回しは壁棚の中段右。細鋸は下段。研ぎ布は端革箱の隣。手鏡は記録棚の引き出し。灰色布の上が空になり、玄関小棚にも、次の札を受け入れる隙間が残った。


 夕方、戸布の向こうで蝉の声が少し遠くなった。フィオナは棚卸し紙の裏へ、明日のための一行を書く。


『夜、家族それぞれの涼む場所と、片づけを始める時刻を聞く』


 明日からは、誰か一人の道具ではなく、家族全員の夜の段取りを考える。居間、工房、地下室の階段口、窓辺。涼しい場所は一つではないし、暑さの感じ方も同じではない。


 梁の上でスノーが、箱の間へ戻った細い影を見下ろした。「勝手に動く箱を影のせいにするな。裏で一緒に縛れば、隣までついてくる――明日の夜は、涼しい席を早い者勝ちにせず、一番暑がってるやつから聞け」



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