勇者と姫の帰還、らしい
森で一晩身体を休めた勇者パーティは、意を決して城へと歩みを進める。
勇敢な面構えと雄大な雰囲気。
胸を張って歩くコイツらが別に大して強くないし何も成し得てなんていないとは誰も思うまいよ。
すげー。
俺らの目論見通り、ドラマチックな四天王戦が進む度に彼らは、人と亜人の対立に疑問を持ってくれた。
特に差別的な人間から奴隷を解放する為に戦った二番目四天王…あー、数字が並ぶとややこしいな。
とりあえずソイツの話は中々くるものがあったっぽい。
仲間の1人はうっすら泣いてたもん。
俺の原作にはなかったストーリーが好評なのはね、ちょっと思うところはあるけども。
悔しいとかじゃないけどね、別に。
ま、この調子ならば俺の仕事はなさそうだ。
アイツら勇者パーティは基本的に善良なんだよ。
常識とかが著しく欠けてるだけで、悪い奴らじゃないのはこの旅を見守って分かった。
仲良くなってくれよ。
そうじゃないと…。
おっと。
俺はみんなの気のいい副団長。
早く終わらせて、部下と協力してくれた亜人のみんなと、ここの美味い地酒を楽しむのだ!
大会の観戦客気分になってきたな。
あー、屋台とかないの?
後を付けながら、部下が買って来てくれた骨付き肉を齧る。
お前気が効くなぁ。
奢ってやるからこの部隊のみんなの分も買っていいよ。
あ、領収書は切って貰ってね。
宛先は王宮で。
おっと、いよいよ四天王最後の相手じゃん。
全身鎧を着て、でっけーマフラーで顔を隠した大男。
すっげー強そう。
っていうか実際めっちゃ強いんよ。
あれ、ウチの団長だし。
あの軽く、ぺって振った感じの剣を気軽に受けたら吹っ飛んでくもん。
そんなん人間じゃねーよ。
その部分だけなら四天王でも団長が一番人から外れてるって。
4対1なのに、捌きまくりの殴りまくり。
切れ味が終わってる剣を使ってても、あんなん普通に鉄の棒だからな。
痛そー!
なんか身内が仮装して戦ってんのみたら笑っちまうわ。
一番笑えたのは終わり際の団長のセリフだけどな。
「ウワー、この戦い、タノシカッタゾ、勇者よー。」
だっはっは!めちゃくちゃ棒読み!
あれか?亜人感をだす演技だったのか?逆に?
亜人の人達は普通に話してるけどね。
いやー、良い見せ物だった。
2年はこのネタで団長イジるわ。
死闘を演じたその結果、友情に近い感情が芽生えたようだ。
マジで演じてんだけどね。
お疲れ様っす。
絶対にイジるけど。
さあ、ラスボスだ。
後ろには囚われの姫。
それを見た勇者の心のボルテージも上がっていく。
もし本当に神のお告げだか加護だかがあるのであれば、光り輝く場面だろう。
剣とか身体の周りのオーラあたりか?
まぁ、光ったりはしてないけど。
後に出回る物語の絵姿では光り輝いて描かれるんだろうね、多分。
おっと?魔王さん相当つえーなぁ。
そして上手い。
ありゃあとんでもない鍛錬の賜物だぜ。
分かるから、俺ぐらいになればそういうの。
いや、多分俺よりも余裕強いなあれ。
達人と言っても良い技のキレを駆使し、なんか上手いこと互角っぽい戦いを演出してくれてるわ。
うわ、なにその技!
後で教えてもらおう。
んー俺と団長二人合わせたよりも強いんじゃないか?
すげーわ。
騎士としてじゃなくって、男として尊敬するわ。
おっ、勇者のお供を斬りやがった!
「貴様ぁ!俺の仲間を!」
…やっばぁ。
なにその技術ぅ…痺れるぅ。
勇者はなんかキレ散らかしてるけど、大丈夫よ。
見た目にはすんごく痛そうだけど、大怪我も致命傷も負わない絶妙な力加減で斬られたから。
よくあのスピードで出血だけ多い箇所を狙って皮一枚だけ斬ることが出来るなぁ。
感動したわ。
俺も後で技を教えてもらうだけじゃなくって、稽古も付けてもらお。
独特の運び方とかは亜人の剣術の流派なんかな。
勇者よりそっちに興味津々になるね。
そろそろクライマックスかな。
やや勇者が不利になったタイミングを見計らい、間に割り込んで助太刀する四天王の男の亜人。
これ俺!
俺が考えたシーン!
これは熱いシーンだろ?
まぁ、兜で顔を隠しているだけの団長だけどね。
絶対に喋らないで欲しい。
バレるから。
喋らなきゃムッキムキに鍛えててデケーからまるで獣の様に見えちゃうわ。
部下思いで優しい団長なんだけどなー。
勇者くんもさ、あれ?コイツはもしかして人なんじゃないかって少し疑ってあげて欲しかったところではあるよ。
団長が割って入ったことが合図になって、戦闘の間に挟まれ始めた同情すべき亜人ヒストリー。
勇者達がそれを真剣に聞いて、舞台装置に呑み込まれた。
魔王の目的、つまりは亜人の独立と人間との交流に理解を示してもらうって目的は、人類の代表を勝手に背負っているっぽい勇者に伝わった事で達成されただろう。
されてないけど。
これから文官が手を尽くして喧伝していくんだけど。
「俺が…!俺達が架け橋になってやる…!
…だから罪のない姫様を返してくれ。
人質が必要なら俺がなる。
説得が必要なら俺がする!
…だから!」
いやぁ、感動的だね。
姫も感動した様子で両手を祈るように握りしめて見惚れていますわ。
「勇者様…!」
だってさ。
…アンタちょっと太ったよな?
どんな自堕落な生活してたんだよ、ここにいる間に。
見えてんだよ、ボタンを二つ外したドレスのスカートがよ。
分かり合えたので、無事に解放されたムチムチの姫が、勇者に駆け寄る。
マシュマロ姫をその腕に抱え、勇者は誠の勇者となった!
これはドラマチックだろう!
文句なしに!
とっとと帰ってくれ馬鹿。
お前らが帰った後にもやらなきゃいけないことが山積みなんだよ。
魔王と国交のあれこれだとかさ、方針の共有だとかさ。
むしろ本番はこっからなんだから。
魔王改め、亜人王の本当の戦いもこれからだもん。
いい王様になってくれよぉ。
頼むぜ。
茶番に付き合ってくれた彼らの今後に幸あれ。
本当にすいませんした。
会議やらなんやらで大分遅れて帰国した我ら騎士団。
帰ったら丁度姫の帰還パーティーが行われていて、勇者が高い所で手を振っているタイミングだった。
裏を知ってる俺らは単純にめでたいとはいえないけどもこのお祭り騒ぎで経済も良く回ることだろうなー。
国民に認知された勇者。
これから彼らはどうなんだろ。
増長されても活躍されても邪魔になるのがなぁ。
架け橋になるっていってたし、亜人国の駐在員として働いてくれるのが理想的なんだけど。
そんな風に俺は考えてたけどね、どうやら問題にはならなさそうだよ。
新たな戦いだか人助けだかを求めて、勇者は直ぐに何処かへと旅立ったんだもん。
一安心。
…いや、一安心か?
今後は本来の実力でやってかなきゃなんねーのに、大丈夫かよ。
もしこの勇者の話が物語になったりして、それが人気になって続編が出たりしたらさ、前作主人公の弱体化が話題になりそうやね。
過去の英雄が仲間になると意外と強くないとか、そんな話はよくある話か。
神のみぞ知ると言った所だよ。
お告げとかあってやって来たんでしょ?
大丈夫大丈夫。
これで俺の仕事も終わり!
騎士団も通常業務に戻ります!
んあー…今回は疲れたな…。
数日の休暇もらお。
絶対。
マジで。




