勇者を追って色々頑張る、らしい
さ!勇者様を追ってお助けしましょう!
なんて急に言われましてもね、城でやらなきゃならないこともあるわけで。
酒場で一杯…したいところだけど、そんな暇は無さそうやね。
国交についてのやりとりをだね、文官に託したりね。
彼等の何人かに魔王国へと行ってもらうことなりそうだ。
ついでに手紙も書いて、持ってってもらわねぇと。
勇者が行きますって向こうさんは知らない訳なんだから。
ごめんなぁ、俺も出張させるのは心苦しいんだけど、どうしようもないのよ。
あっちにはウチの団長もいるからさ慰め合って温め合って下さい。
美味しいお酒と、なんかいい感じの温泉があるよ!
わがまま姫様もいるけどね!
やんごとない彼女の被害者は、勿論俺らだけじゃねーのよ。
手紙手紙。
騎士団員として文書は書き慣れてはいるけどさ、やっぱ苦手だなぁ。
面倒くせぇ。
面倒くせぇけど、適当にやると後でもっと面倒なことになりかねないからなぁ。
内容は…と。
なんとかして勇者とやらを辿りつかせるので、始めは強くあたって、あとは流れで負けて欲しいです。
そしたら姫を連れ出すだろうから、悔しそうに見送って下さい。
あ、宝物とかは無さそうな建物に誘導します。
場所の選定をお願いしますね。
こんな感じの手紙。
書いて悲しくなってきた。
なんだこの手紙。
…深く考えのは辞めよ…これも仕事だ。
全部ぶん投げて辞めてやろうか!とも思っちゃうんだけどさぁ…給与が高いのよ、この仕事。
我慢するのよ副団長!
お金のためよ!
ついでなので、黒色に金の刺繍を入れたマントを贈り、人の目からみてそれっぽい格好をしてもらうことにした。
彼らの文化での悪そうな格好と、我らの文化での悪そうな格好はやっぱりちょっと違うっぽい。
肌を見せる事が強者の証らしく、魔王は軽装も軽装。
薄着に腕輪しかしてなかったわ。
確かにそうかもしれない。
鎧などは身体の弱さを隠す道具だ。
裸で強いものは強い。
何とわかりやすい事だろう。
でもね、俺らの感覚だとシャツ一枚では威厳を感じないのよ。
ごめんね。
さてさて、翌日だ。
久しぶりに自宅で寝た気がするわ。
もう、布団、好き…。
行って帰ってきた道をまた行くなんてやってらんないけど、ダラダラしている訳にもいかねー。
勇者は数日前には出立してるんだもん。
めちゃくちゃ優秀だったらもう追いつけないんじゃない?
そんな杞憂もありましたが…。
身軽な騎馬隊200人を率いて勇者を追っかけると、遅々として進んでいなかったわ。
まだご近所にいました。
そこらの野生動物を狩って、その皮や牙なんかの金になりそうな物を売って旅の資金にするなどという、原始時代の様な事をしているのだから当たり前っすわ勇者様。
それにしても彼らは運がいい。
この地方には小規模の群れをなす野生動物と、何十もの大規模な群れをなす野生動物がいてね、後者とは出会っていないみたいなんだよね。
遠くから見る分には圧巻で、生物の、自然の畏怖を感じて好きな景色なんだけど、挑むとなるとちょっとね。
いくら武器を多少扱えるとはいえ、数の差はどうにもならないのでもう死んでいる可能性も考えたよ。
生きててくれて一安心。
まぁ、彼らがダメでも別にいいんだけどね。
その辺で見目のいい役者を雇って姫を助けさせるだけだもん。
丁度勇者が旅立ったって噂になってるし、カバーストーリーを作ってくれたから。
でもね、出来れば勇者に辿り着いてもらった方が得なのよ。
野心ある役者に完全に国の恥部を知られてしまった場合と、純真無垢な何も考えていない村人系異常者とのその後を考えた時に、後者の方が政治的な知恵が回らない分問題が少なそうじゃん?
そんな理由で旅立った奴らなんて、もしなんらかの理由でこの世から退場頂いたとしても、あんまり騒ぎにはならないだろうし。
とまぁ、付かず離れずの位置で俺たちは勇者を見守っているのだけれど、勇者様の神のご加護も品切れなのか、彼らの進行方向にやや大規模な狼の群れがいるらしい。
我が隊の優秀な斥候の報告である。
まず間違いない。
はい、先生、班を二つに分けたいと思います。
100人で先行して、群れを追い立ててどかして下さい。
あれ、これって俺らが神の加護代わりになってる?
我神ぞ?
神なら今すぐ休みを願うんだけど。
大切な部下をこんな作戦で送り出すのはめちゃくちゃ癪ではある。
狼の群れは多いけど、数の差ではこちらが不利。
んでも殺す事が目的ではなく、野生動物をルートの外へと追い立てるだけなので問題はないだろう。
野生動物だって無闇に傷つきたくないもの。
部下は上手くやってくれたみたいで、勇者は無事にその地帯を通り抜けて海沿いの街へ辿り着いたって。
よかったね。
うーん、隠す暇なんてなかったから、大量の足跡は見かけてるはずなんだけど、それに疑問を持たないのだろうか。
不思議。
あとは海を渡る事が出来れば魔王国のある大陸へ移動出来る。
船の上ではなにも起き無さそうだからとっとと乗り込んで欲しいんだけれども、彼らは勇者と名乗りながらその実態は完全に猟師なんよ。
地元の知り尽くした地ではまだしも、初見の土地で高価な船代を稼ぐ事なんでさ、何年かかるかわからなくない?
4人分で俺の月給くらいかかるのよ、船。
たっけー!
あんまモタモタされちゃうとウチの姫がまたどんな我儘を言い出して、魔王を困らせるのか心配。
それにどうせあの異常者達は、我が王の時の様に意味もなく港町の王の元へ帯剣したまま乗り込み、船に乗せてくれと戯言を吐くのだろうなぁ。
こえー!
国際問題待った無しだよぉ。
あんなのでも一応我が国民なので、問題になっちゃったら困るって。
そんなクソみたいな成功体験を積み重ねられても困るって。
てな訳で先回りして港街の王城へ行って事情を話すしかないよなぁ。
恥ずかしいけど。
話の分かる王様と会議を行った結果、無料で提供するのは良くないので、勇者に取るに足らないお使いをして貰って、その対価ね船に乗せようという話に落ち着いた。
やる事と受け取る対価は釣り合ってないけど、アイツらなら気が付かないでしょ。
丁度隣町に注文している香辛料の配送が、狼の群れを避ける為に遅れているという。
…え?
遅配の原因ってそれなの?
マジでごめんなさい。
俺らが避けた群れやんけ、多分。




