この世は陰謀が蠢いている、らしい
「お待ちしておりました、副団長様。」
目がバッキバキでギャンギャンの少年に案内されてついて行った先では、令嬢が完璧に来客の準備を整えていた。
あーなるほど。
そっか、どーりでこの子、きっちり観光案内をした訳だ。
先行した情報伝達係の子が別にいて、その時間稼ぎをしていたっつー訳か。
あ、あの子だ。
めっちゃ肩で息をしているあの子。
お疲れー。
「皆、席を外してくださる?
この人は大丈夫、私の恩人なのですから。」
…え?
恩人?
いやー、俺は何にもしてないよ、本当に。
なんとなくの方針を決めて任せただけなんだから。
あとは勇者に手紙を書いただけ。
今回俺が動いたのは本当にそれだけ。
あとはもう、貴女と王に翻弄されているだけです。
流れに揉まれすぎて、俺が洗濯物だったらピッカピカになってるね。
「いえ、何も言わずとも分かります。
今の私の状況が、なにかの介入があること。
それが慈悲であることも。」
はー、やっぱり賢い娘さんやねぇ。
そうだなー。
自分で帳簿から問題点を抜き出して改善に動ける様な人は、自分を現状を顧みることも出来るか。
運だというだけでは到底あり得ないぐらいすんなりいっただろう。
例えば今回だけでも、土地、建物、職、人材が振って湧いて来たんだから。
まー、勘づくよなー。
ついでに恐れていただろう実家からの介入も、誰が抑えているのかは俺も知らんけど、無かったと。
そこらのボンボンなら受け入れちゃうかもしれないけれど、この娘さんは王が他国と政治的な繋がりを任せるぐらいの人材だもの。
王様、よかったっすね、気がついてくれましたワン。
もしかしたら、王様が動いてるってのも分かってるかもな。
「おかげさまで事業が軌道に乗りまして。
この福祉も兼ねた教育事業をもって、暫定ではありますが貴族に返り咲くこととなりました。」
お、すごいね。
年単位で掛かる任務かと思っていたんだけれど、たった3、4ヶ月で成し遂げるなんて。
おめでとう。
「ありがとうございます。
…貴方様のお陰でございます。
私を見守り、支えて頂いた、貴方の。」
ん?あれ?俺じゃないよ?
王だよ?王の慈悲よ?
「いえ、ご謙遜を。
調べは付いております。
貴方は私を陰ながら護衛しておりましたね?」
えぇ、いや、それは、まぁ。
ばったり顔見せちゃったからね。
俺が近くにいるのが適任だった訳で。
「貴方は私の行先を案じて、王城やその他の折衝に動いて頂いておりましたね?」
そりゃそうだけども…。
王の指示でね、仕事ですよ?
「それどころか、私への侮辱を咎め、恥を注ぐために隣国へと赴き、元婚約者へ制裁を与えて下さいましたね。」
…なんで知ってんの。
あれは、外交として必要だっただけっす。
両国の未来の火種だから、小火になる前に消しただけっす。
「あまつさえ、私の事業の広告塔となり得る人材、勇者様と聖女様を派遣して頂き、大変助かっております。」
うー?
派遣してはいないけどね。
孤児の保護と教育なんてアイツら好きそうだから、協力はする…か。
いやいや、俺は令嬢が孤児を集めているだなんて知らなかったっつー話。
知ったのはつい30分前だもの。
「そして、この度の貴族への返り咲き、及び実家の降爵まで!」
それは本当に本当に知らない!
つーか降爵すんの?
マジで?前代未聞じゃない?侯爵の降爵とか。
あ、ダジャレじゃないよ。
いや俺じゃない!
しがない騎士にそんな権限はない!
一応おれも貴族だけど、アンタの実家の方が遥かに偉いよ。
…おかしい。
何かがおかしい。
俺の知らない俺の功績がこの娘さんに届いている。
風が吹けば桶屋が儲かるかのように、俺がなんかしたのが周り巡って好感度の上昇に繋がっている。
「こうして返り咲いた事により、ようやく私の口から言うことが出来ます。
…以前、私達の婚約話が持ち上がった事を覚えてらっしゃいますでしょうか。」
あったね、あったよ。
団長にも団員にも死ぬ程イジられたからめちゃくちゃ覚えてる。
「おほん。
私は以前より、貴方をお慕いしておりました。
どうか婚姻を前提にお付き合い頂けませんでしょうか。」
なんでぇぇぇええ?
幻聴?空耳?脳まで言葉が届かない!
意味が!分からない!
◆
「パパ、あの娘、今頃上手くやっているかしら。」
「ふふふ、どうだろうかなぁ。
我も王の権限を使ってな、外堀はガチガチに埋めさせてもらった。
そういえばアイツの実家は喜んでおったぞ。
かの令嬢は才媛で有名だからな、優秀だが無口で無愛想、浮いた話もない副団長に降って湧いた恋愛話だからな。
…今までは役目として受け入れていただけで、自ら望んではいなかったあの娘が、自らの才能を全て注ぎ込んで男を追いかけてみろ。
逃げられるものか。」
「もう、パパったら、悪いんだからぁ。
昔さ、あの娘と副団長の噂流れたのって知ってる?」
「ああ、そんな話もあったな。
当時は男爵家の新兵と、侯爵家の令嬢がなどあり得ないことだった。
まさかアイツがこんなに出世するとはな。
どこの誰が流した噂かはしらんが、良い目をしている。
どちらにせよアホ王子との婚約が決まり、いつの間にか消えた話だ。
今の今まで忘れておったわ。」
「あれね、私とあの娘が流したのよ。
あの娘が一目惚れしたって言っていたから、なんとか助けてあげたくって。」
「そうであったか。
当時13歳とかだろう?その歳で陰謀を練るなど悪い子だなぁ、誰に似たのか。
ふむ、では今回は渡りに船だな。
優秀だが無口で無愛想、そしてフラッと居なくなってしまいそうなところがある王国騎士団副団長と、優秀だが傷ついた令嬢がくっつけば国益にもなろう。
物語としても…ふふ、お前の言葉を借りるなら、ロマンチックだしな。」
「ふふ、そうね。
あの娘も元々好きだった人だし、副団長は結婚とかしたくなさそうだけど…傷ついた女を癒すのは男の仕事なんだからそれは諦めてもらって。
これで良かったと思うわ。」
「そうだな。
アイツも功績があるのに面倒だなんだと爵位を受け取りたがらんからな。
前回のお前の誘拐の件での功績もまだ決まっておらんかったのだ。
姫の身を無事奪還、相手方との交渉を成功させたのだから、その功績は多大。
こうなれば無理矢理にでも爵位を引き上げて、令嬢と釣り合う様にしてやろう。
…おや?そういえば…誘拐犯との交渉に、副団長を推薦したのはお前だったな。
もしや、この着地が目的での高度だったのか?」
「さあ。
でも、アホ王子とあの娘に上手くいって欲しいなんて、私は思った事ないからね。
亜人差別にもウンザリしてたし、上手く行ったんだからどうでも良いじゃない。」
「あぁ、めでたしめでたし、だな。」
「…ねぇ、パパ。
正直言って、楽しんでたでしょ。
他人の恋路を操って。
嫌なパパ。」
「…ふふ、まあな。
姫もそうだろう?」
「うふふ、超楽しかった。」




