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王国騎士団副団長の憂鬱  作者: まつり
侯爵令嬢が婚約破棄された、らしい
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14/17

経済は回る、らしい

帰国して早速令嬢の店へとやって来た訳だけれども。

うわぁ、なにこれぇ。


とっても入りにくい…。


オープン以来になる令嬢のカフェ。

てっきりサクラの部下が飯でも食ってんのかと思ったら、店内は女性客で溢れ返っていた。


並んでいる客も女性、店内に居る客も女性…となんか、一部異様に目の綺麗な男性。


とにかく俺がフラッとやって来て入れる様な雰囲気ではねー。

普通に腹減らして来たのになぁ…。


中の様子を伺う俺に、働いている皇子が気付いてくれたみたいで、忙しそうな中わざわざ出て来てくれた。


いや、びっくりしたよ。

出て来てくれた事にじゃなくって、皇子が出て来た瞬間周りの女性客から歓声が上がった事に。


「副団…えーと、アニキ。

入って入って、えーど、俺らに会いに来てくれたんでしょ?」


いやいや、まぁそうだけど、並んでらっしゃる彼女らを追い越して中に入るメンタルはないよ。


それに俺をアニキと呼ぶなややこしい。

お前には本当の兄貴が居て、そいつはもうすぐ皇帝でしょうが。


俺の役職を口に出さなかったのは偉かったけども。


あーお言葉に甘えてちょっと裏で話を聞かせて貰おうかな。

なんでこんな事になってんのか気になるわ。

振り返ると皇子も忙しそうになってた。

なんだあれ、飲食店の雰囲気じゃねーぞ。

舞台の出待ちみたいだな…。


裏を覗いてみると、休憩中っぽいコンサル任せたインテリが。

一番説明上手そうだし、彼に話を聞くことにしようかね。


「お疲れ様です。」


はいはいお疲れちゃん。


…何があったん?これ。

流行ってはいるよ?流石だねぇ。

経営のプロって聞いてたけど、やっぱ実力がちげーわ。

何やったのさ。


すげーよ、こんな混んでる店、あんまり見ないもん。

だけどさぁ、なんか…。

なんつーの。

雰囲気変じゃね?


「はっ。


想定外が重なりました。

良い方に、ですが。


経営は安定、この店以上に利益を出している飲食店はこの王国に存在しないとは思っております。」


マジかよ。

飲食の単価なんてたかが知れてるだろ?

それに利益度外視で始めているんだから、その指標で見るならかなり不利なはずよ?


何があったん。


「まず、オープンからしばらくは指示通り経営いたしておりました。

つまりは利益度外視、令嬢に我々を知って頂く時間を作るために広告も打たず、本当にゆったりと始めさせて頂きました。」


うん、そう指示して他の仕事に行ったからね、俺。

ありがとう、じゃあ最初は想定通りって感じか。


「ええ、そうですね。


…何故こうなったかを端的に言いますと、副団長が欲張ったせいでもあります、この状況は。」


どーいうこと?

欲張った?

俺は経営状態を良くしようとか、利益を上げようとかは思ってなかったんだぜ?

なにを欲張ったっていうのさ。


この店員にファンが生まれてる状況とさっぱり繋がらない。


「彼女の地位を上げる口実にする為に商売を成功させる。

彼女の地位を安定させる為に有望な婚約者とくっつける。


この二軸が副団長の方針でしたね?

それでこのカフェを建設し、光栄な事ですが、私を含む5名の従業員をスタッフとして送り込んだと。」


そう。

顔と性格と能力と家柄。

みんなそれぞれ好みはあるだろうけど、どれもみんな綺麗な花たちさ!


よく集められたと自負しています。


「ええ、私もそう思っております。

みんないい奴で、働いていて楽しい。

感謝しておりますとも。


…それがいけませんでした。」


え、なんでさ。


「そうですねぇ、副団長。


えー、文官仲間もそうですし、恐らく副団長の部下達もそうだと思うのですが、美人の店員のいる酒場は流行りますよね?


何度も通う奴もいますよね?」


あ!ああー!

なるほどね!


はいはいはい。


通うね、通うわ。

そういう事か、俺はやり過ぎたのか。

確かに俺が令嬢を成功させることと、婚約者を見つける事を同時に進行させようと欲張ったのが原因だわ。


「ええ、好みがわからない為に様々なタイプの優秀な男を集めた。

それが私たちの誰かが皆様の何かにバッチリと刺さった。


その結果がこれでございます。」


おぉふ。

…オッケーそれは分かった。

だけどそれだけじゃあ、ここまでの事にはならないだろ。

異様に濃い常連が出来る程度なもんじゃないの?

なんつーか、コンサート会場みたいだぜ?


「はい、次の誤算はそれです。

彼女、令嬢は私達が想像していたよりも、真面目で優秀で御座いました。


利益率の低さを気にして、開店8日程で店の方針を転換いたしまして…。」


ほう、分かった。

そこにメニューを見たら分かった。


商品の単価を上げたのね。



「ええ、私たち目当ての女性客の増加に目をつけたのでしょう。

元々想定していたサクラの兵士。

彼らが通っていた頃と比べて、単価は実に18倍まで上がりました。


席代のシステム、それを不満に感じない様なサービス、つまりは…。


おっと、丁度いいですね、そろそろ私の出番がありますので、袖でご覧になって下さい。


貴方が集めた者が、どれだけ優秀だったかを。」



…はい?


なにこれ。

俺の知らないうちに、店に舞台が設営されてんたけど。


令嬢を守る為に作ってあった隠し通路が、いつの間にか店の裏手から直接舞台へと上がれる様に改造されていて、通用口の様に利用されてんのね。


…ショータイムみたいなもんがあんのか…。


インテリが一冊の本を片手に舞台へ上がると、窓が震える程の歓声が上がり、しかしそれはすぐに落ち着いた。


…怖いくらいの一体感じゃん…。

何をどうしたらこの短期間で、こんなにも…。


少しのざわめきに対して、インテリは口の前に人差し指を持っていき、ウインクをすると、ピタッと静まり返った。

それはもう怖いくらいに統率されてる。


ウチの騎士団よりも。


その際二人のお嬢さんが興奮のあまりバタンと昇天された様だが、慣れているのか慌てることもなく処理されてしまう。


怖えー。


パラリ。


インテリが本をめくる音が聞こえる程の静けさ。

熱気はうねるほど感じるのに。


すう、と息をひと吸いすると、スラスラと本を、いや、詩集を読み始めた。


囲んでいるお嬢さん方が胸の辺りで手を握る姿から、どれだけ真剣に聴き入っているのかが伝わる。

まだ2行くらいしか読んでないのに、もう泣いてる人や、感動で震えている人すらいる。


いやぁ、さっき話した時にも思ったけどいい声だなぁ。

そりゃ人気も出る訳だ。


…あれ?自分の出番って言ってたよな。

つまり、インテリだけではないと…。


俺や王城の知恵を絞って選定した選ばれし五人、王国イケメンランキングのランカー5人が、各々の特技を披露する場を作ったと。


思っていた方向と1080度違うわ。


…あ、そういえば令嬢を見ていない。

店の責任者のはずなのに、一度も。


お嬢さん方のより俺の方が震えたくなってきたわ。

悪魔教団に乗り込んだ時よりも嫌な感じすんだけど。

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