潜伏の二年間、それぞれのロジック(前編
初めての投稿です。
誤字脱字が多くなると思いますが、よろしくお願いいたします。
途中で、脱線することもあると思いますが、ゆっくりと見守ってください。
作品の内容が前後することが多々あると思いますが、大目に見て頂ければ、うれしく存じます。
では、参ります!!
【ワールド3:神々のマスター・ソースコード編】
第2部(前半・中編):『潜伏の二年間、それぞれのロジック(前編)』
1. イサナギ・ログ:無垢なる刃のビルドアップ(視点:イサナギ)
ゴゴゴゴゴ……ッ!!
廃棄セクター【スクラップ・バレー】の赤茶けた空に、巨大な鉄屑の崩落音が響き渡る。
高さ三十メートルはあろうかという、不要になった巨大な建造物アセットの残骸。その直下に、一人の青年が立っていた。
青年の名はイサナギ。あの断絶の日から、この過酷な墓場で二年の歳月を生き延びた調律師だ。
18歳だった少年の面影は、今の彼にはない。20歳を迎えたその身体は、無駄な脂肪が一切削ぎ落とされ、鋼のように引き締まっている。身に纏う衣服は砂と油で黒く汚れ、その背中には、かつて頼り切っていた【万能の買い物カゴ】の代わりに、一振りの漆黒の鉄剣が背負われていた。
「――マスター、上空より質量データ『鉄屑の壁』が自由落下。現在の座標(X, Y, Z)への直撃まで、あと2.3秒です」
ボクの傍らで、うっすらと緑色のシステム・ノイズを走らせたノワールが、冷徹な声で告げる。彼女のAI演算もまた、この二年間、神々の監視の目を掻い潜るために極限まで最適化されていた。
「……ふぅ」
ボクは深く呼吸を一つ吐き出した。
肺に取り込む空気は、相変わらず錆の味がする。だが、二年前のように胸が痛むことはもうない。この世界の過酷な環境に、ボクの肉体データは完全に適応していた。
ボクは静かに、背中の鉄剣の柄に手をかけた。
カゴを失ったボクには、もうオブジェクトを0円で消去するような例外処理は使えない。神々の前では、小細工はノイズとして一瞬でデリートされる。なら、ボクに残された道はただ一つ。
『世界の物理演算を、この生身の肉体と剣技で凌駕する』
「シリアスに行こう、ノワール」
ボクが呟くと同時に、頭上から数千トンもの鉄屑の山が、容赦のない質量となって降り注いだ。
ガキィィィィィン!!!!!
ボクの引き抜いた鉄剣が、落ちてくる鉄の巨塊の「最も強度が低い結合点」を正確に捉えた。
魔力を込めた一撃ではない。独立デベロッパーとして二年間、この世界の物理エンジンの挙動をミリ秒単位で観察し、脳内に構築した「堅牢なSwift構造の論理回路」が、鉄屑の正確な座標と耐久値の減少率を完全に弾き出していた。
ボクの放った鋭い一閃は、鉄屑の巨塊を綺麗に二つへと一刀両断し、ボクの左右へと受け流した。背後でドゴォォォンと轟音が鳴り響き、砂塵が舞い上がるが、ボクの髪一筋すらも傷つけることはできない。
「見事な物理デバッグです、マスター。二年前のあなたなら、今の質量を受け止めきれずにクラッシュしていたでしょう」
ノワールが眼鏡の奥の瞳を静かに光らせる。
「まだまだだよ。神々の兵器『コード・レギオン』は、この物理演算すらも書き換えてくる。ボクの剣が奴らの論理そのものを切り裂く刃にならないと、みんなを救い出すことはできない」
ボクは自分の手のひらを見つめた。剣を握り続けたためにできた無数のマメと、硬くなった皮膚。
二年前、目の前で引き裂かれていったレイラたちの叫び声が、今も耳の奥でリフレインしている。あの日、自分の無力さのせいで、ボクたちはバラバラになった。その絶望が、この二年間、ボクを突き動かす唯一のエネルギーだった。
「イサナギよ、少しは筋が通ってきたじゃねえか」
鉄屑の山の影から、ずんぐりとした、しかし圧倒的な威圧感を放つ影が現れた。ゴルドンおじさんだ。
彼のドワーフの肉体もまた、二年前より一層頑強になり、その肌は炉の熱で赤黒く焼けている。
「おじさん……」
「だが、まだ甘い。神どもの最高位プロトコルは、お前のその綺麗な物理論理すらも『非承認』にしてくる。お前が次に掴むべきは、物理を超えた先にある、お前自身の魂のコード――【魔剣技】の領域じゃ」
ゴルドンおじさんは、その手にある黄金のハンマーを地面に突き立てた。
「ワシらドワーフは、ただ鉄を叩いてきたわけじゃねえ。鉄の中に、己の魔力と魂を練り込んできた。お前も、その鉄剣に自分の命のログ(記憶)を乗せてみせろ。お前が仲間を想うその執念を、純粋な魔力に変換して刃に纏わせるんじゃ」
「ボクの魂の、コード……」
ボクは再び、鉄剣を構えた。
頭の中に浮かぶのは、みんなの顔だ。
カクカクとした15コマのモーションで、それでも誰よりも美しく笑っていたレイラ。
あたしの重機が最強よ、と笑っていたチェルシー。
冷徹な顔で、けれど誰よりもボクたちを支えてくれたルミエル、ドラキュラさん、シルフィア、アカリ。
(ボクの剣は、もう誰も失わないための盾であり、世界のシステムを切り拓く矛だ――!)
ボクの身体から、仄青い、しかし凶暴なまでの魔力の光が溢れ出した。それが鉄剣の刀身へと収束し、錆びついた鉄の刃が、まるで超高温のプラズマを纏ったかのように眩しく輝き始める。
「いくよ、おじさん! ボクの新しいビルド(仕様)を見てくれ!」
ボクは地面を蹴った。二年の修行は、ボクをただの調律師から、世界と戦う「一人の剣士」へと作り変えていた。
2. ルミエル・ログ:魔導数式否定法の深淵(視点:ルミエル)
――システム・エラー。
『警告。現在地【隔離セクター:無限書庫】。本エリアに存在するデータはすべて「未定義」であり、侵入者の精神ログは数分以内に自己崩壊します』
「フッ……浅はかなシステムだな。神々が構築したセキュリティなど、この二年間で飽きるほど解読してきた」
漆黒の闇の中に、無数の青白い数式の文字だけが浮かび上がる空間。
そこに、一人の男が静かに座していた。学者ルミエルだ。
二年の歳月は彼をより冷徹に、そしてより狂気的なまでの「知の探究者」へと変貌させていた。トレードマークの眼鏡のレンズには、常に上から下へと超高速で流れる神々のマスター・ソースコードが反射している。
彼の周囲には、実体のない「魔力で編まれた本」が何百冊と浮遊し、彼の思考と同期してページが激しく捲られていた。
ルミエルが置かれた【無限書庫】は、世界から間引かれた不要な設定や、没になったプログラムの残骸が無限に漂う、精神の地獄だ。普通の人間なら、数秒で自己の記憶データが汚染され、廃人になる。
だが、ルミエルは違った。彼はこの地獄を「最高の研究室」として利用したのだ。
「神々の数式は完璧だ。例外を許さず、すべての事象を論理で縛り上げる。だからこそ――」
ルミエルは細い指先を虚空に滑らせ、目の前を流れる神のコードの一行を捕らえた。
「その論理の前提そのものを『否定』してしまえば、彼らの完璧な城は砂上の楼閣と化す」
彼がこの二年間で編み出したのは、従来のファンタジー魔法ではない。神々のシステムそのものを逆手に取り、魔力を演算リソースとして消費することで、相手の記述を無効化する新体系――【魔導数式否定法】だった。
パチ、とルミエルが指を鳴らす。
次の瞬間、空間の闇から、神々の自動防衛システムである【検閲の獣】が姿を現した。全身が冷酷な数式の数式で構成された、侵入者を消去するためのアセットだ。
センチネルがルミエルに向けて、絶対的な消去魔術【フォーマット・レイ】を放つ。直撃すれば、ルミエルの肉体データは一瞬で初期化される。
しかし、ルミエルは微動だにしない。避ける仕草すら見せず、ただ冷徹に呟いた。
「【魔導数式否定法:第一節・前提不成立】」
ルミエルの脳内から放たれた膨大な魔導演算が、センチネルの放った光線と衝突した。
衝突の瞬間、派手な爆発は起きない。ただ、センチネルの光線がルミエルの手前数十センチのところで、まるで最初から存在しなかったかのように、唐突に「消滅」した。
『――エラー。実行対象の数式(Object)が検出されません。処理を中断します』
センチネルのシステムが、存在しないエラーを検知して激しく混乱する。
「神々よ、お前たちの過ちは、この世界を『記述できるもの』だけで満たしたことだ。だが、人間の魔力の本質は、数式には収まらない混沌にある。僕の脳内にある数式否定コードは、お前たちの『絶対』をすべてゼロへと還元する」
ルミエルは立ち上がり、本を閉じさせた。彼の背後で、エラーを起こしたセンチネルが、自らの論理の矛盾に耐えかねて、バリバリと音を立てて自壊していく。
「2年か……。ずいぶんと待たせてしまったね、イサナギ。僕の解析は、すでに神々の第1防衛線『クロック・ゲート』の脆弱性を捉えている」
眼鏡の位置を直したルミエルの瞳には、冷たい怒りと、仲間を救い出すための絶対的な確信が宿っていた。
3. チェルシー・ログ:魔導機械工学の反逆(視点:チェルシー)
ガガガガガ! ズドン! ズドン!
「よし! 出力安定! 圧力問題なし! これなら神様のクソ硬い装甲だって、おからみたいにペッタンコにできるわよ!」
不気味な歯車と高熱の蒸気が立ち込める【隔離セクター:製鉄廃炉】。
けたたましい機械音の震源地にいたのは、天才メカニックのチェルシーだった。
二年の月日は、彼女の技術を「街の修理屋さん」から「神への反逆者」へと押し上げていた。18歳だった彼女の顔には、作業の油汚れが精悍に付着し、その短い髪はバンダナで乱暴にまとめられている。
彼女の背後にあるのは、かつての可愛いマジックバッグではない。
神々の廃棄した超重量級のアセット(巨大な鉄骨、壊れたゴーレムのコア、蒸気機関の廃材)を力技で回収・解体し、純粋な機械工学と魔力を融合させて造り上げた、全長五メートルを超える真鍮製の魔導重機【アイアン・バスター】だ。
「神様どもはさ、魔法とかバグとかを『パッチ』で消してくるでしょ? だったら、パッチで消せないものをぶつけてやればいいのよ」
チェルシーは巨大なスパナを肩に担ぎ、アイアン・バスターのコックピットへと飛び乗った。
彼女がこの二年間で気づいた真実。それは、神々がどれだけプログラムを書き換えようとも、世界を構成する「物理的な実体」そのものを消すには、多大な処理負荷がかかるということだ。
ならば、魔法による特殊効果を一切排除し、純粋な「質量」と「魔力駆動の圧力」だけで、物理的に神々のシステムを圧殺する――それが彼女の辿り着いた【魔導機械工学】の結論だった。
「行くわよ、あたしの可愛い相棒! 出力全開!!」
チェルシーがレバーを引くと、アイアン・バスターの背面に据え付けられた六基の魔力ボイラーが、プシューーーッッッ!!!と凄まじい高圧蒸気を吹き出した。
彼女の眼前に立ち塞がるのは、製鉄所の防衛用に配置された、神々の超硬質合金製ゴーレム。
「【魔導機械工学:超高圧物理スパナ・フルスイング】!!」
アイアン・バスターの巨大な真鍮の腕が、魔力駆動のゼンマイによって超高速で回転し、ゴーレムの脳面へと叩きつけられた。
ドゴォォォォォン!!!!!
それは、システムによる例外処理など受け付けない、純粋な「質量の暴力」だった。
神々がどれだけ「防御力向上」のコードを上書きしようとも、それを上回る物理的な圧力が、ゴーレムの分子構造(データ配列)を力技で「ひしゃげて」いく。
ゴーレムの巨体は一瞬でスクラップへと変わり、製鉄所の壁を突き破って遥か彼方へと消し飛んだ。
「ふぅ、いい手応え」
チェルシーはコックピットから顔を出し、満足そうに汗を拭った。
「見てなさいよ神様、あたしたちをバラバラにしたこと、2万倍にして返してあげるんだから。イサナギ……待っててね。あたしの重機で、絶対にみんなの道をこじ開けてみせるから!」
彼女の握るスパナには、二年間絶やさなかった情熱と、仲間への熱い絆が、魔力の火花となってパチパチと弾けていた。
(第2部(前半・中編):『潜伏の二年間、それぞれのロジック(前編)』・終了)
みなさま、どんな風に感じてもらったのでしょうか?
少しでも面白いかもと思って頂けましたら幸いです。
励みになりますので、☆☆☆☆☆をチェックしてもらえると嬉しく存じます。
これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
この作品を読んでくださる方がいていただけて、とても、うれしくありがとうございます。頑張って新しいアイデアを入れ込んでいきますので、よろしくお願いします。
新作始めます。探偵物です。よろしくお願いします。
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