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朝比奈玲はまだ恋をしらない  作者: あぐり りょう


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結花はじめての合コンで

「俺、ちょっと困った顔が好きなんだよねー」

 男の軽い声。

 しかし、視線は、ずっと結花を見ている。


「灯ちゃんも、美里ちゃんも綺麗だし可愛いけど、困った顔しそうにないし」

 その言葉に灯 が即座に笑った。

「私も、困った顔する男が好きだわ」

 場が吹き出す。

 男も、

「あー、強ぇ」

と笑う。


 灯はそのまま、脚を組み替えながら楽しそうに続けた。

「余裕そうな男が、崩れる瞬間ってよくない?」

「わかる」

「最高」

 周囲の男達も、半分笑いながら乗っかる。

 すると灯がちらっと結花を見る。

「ね?」

 急に振られ、結花 は少し困ったように笑った。

 その顔を見て、男が吹き出す。

「ほら、その顔」

「お兄さん、性格悪いね」

「褒め言葉?」

 軽口が続く。


 でも結花、少しだけ気づいていた。

 こういう空気、嫌じゃない。


 探られて、値踏みされて緊張する宴席とは違う。

 ただ笑って、話して、からかわれているだけ。

 “普通の学生の飲み会”って、こういうものなのかもしれない。


ふと、結花が美里の方を見る。

美里 は、完全に音楽モードだった。


「え、じゃあ同期ってどうしてるんですか?」

「いや、現場によるけど――」


 目当てだった彼と、機材やライブの話で盛り上がっている。

 さっきまでの、“合コンだから”という遠慮が消えていた。

 話す時のテンポも早い。

 専門用語が混ざる。

 その顔を見て、結花は少し安心する。


 ちゃんと、美里のための時間になってる。


 一方、灯は灯で隣の男達と笑いながら飲んでいた。

「え、灯ちゃん絶対モテるでしょ」

「モテるよー?でも面倒だから複数管理派」

「怖っ」

「失礼だなぁ」

 完全に通常運転。

 灯はどこでも自由に話の輪を作る。


 だからこそ、結花だけが少し不思議だった。

 今、自分は何をしているんだろう。

 “ゆいか”として、男に囲まれている訳じゃない。

 “さゆり”として、仕事として場を回している訳でもない。


 ただ、同年代と飲んでいる。

 その感覚が、まだ少しだけくすぐったかった。


「灯ちゃんは、普段から女王でしょ?それを泣かすのもいいかも」

 さっきまで結花へ向いていた矛先が、今度は灯へ向く。

 だが灯は、まったく怯まない。

 むしろ楽しそうに笑った。

「あら、奇遇。わたしも、とぼけたお坊ちゃんを泣かすの好きなの」

 周囲が吹き出す。

「強ぇ〜」

「絶対勝てないタイプだ」

「灯ちゃん怖い」

 そんな声が飛ぶ。

 だが灯は、グラスを傾けながら余裕の笑みを崩さない。

 完全に、遊び慣れた空気。

 男も、負けじと笑う。


「でも灯ちゃん、本気になったら重そう」

「どうだろ?」

「相手次第?」

「うん。面白い男なら可愛がる」

「怖ぇって」

 会話が軽快に転がっていく。


 結花は、そんなやり取りを見ながら少しだけ笑った。

 灯は、こういう場に強い。

 空気を怖がらない。


 男達も、ちゃんと“対等に遊ばれてる”感じを楽しんでいる。


 そして結花は、ふと気づく。

 箱根の宴席とは、やっぱり違う。

 ここでは、誰かが商品になる訳じゃない。

 みんな、自分の意思で、会話して、笑っている。


 ふと、結花は会話の輪から意識が離れる。

 端末が、小さく震えた。


 画面を見る。


『店に迎えにいくから、終わりそうなら連絡して』

 差出人は朝比奈玲 。


結花が、一瞬止まる。

(……なんで場所わかったんだろ)

 そう思ってから、すぐに気づく。


 美里経由か、あるいは店名を以前の会話で出したか。

 どちらにせよ、玲は把握していた。


 それが少しだけ怖くて、でも同じくらい嬉しい。

 胸の奥が、くすぐったくなる。


 “迎えに来る”その言葉が、特別に見えた。

 自然と、口元が少し緩む。

 その変化を、向かいに座る男は見逃さなかった。


 灯と会話しながら、視線だけ結花へ向ける。

「……やっぱり本命は“ゆいか”かな」

 ニヤリと口角を上げる。

 灯 が、それを聞いて笑う。

「なに、急に」

「いや、今の顔見たらわかる」

「どんな顔?」

「迎え待ってる顔」

 その瞬間、結花が慌てて端末を伏せる。


「やだ、見てないでよ」

「見える席なんだわ」

 男は楽しそうに笑う。

 でもその目は、少しだけ本気だった。

 

 懇親会の時とは違う。

 今日の“ゆいか”は、ちゃんと誰かを待っている。

「誰かのモノって、急に欲しくならない?」

 男が、グラスを揺らしながら笑う。

 軽い口調にどこか本音混ざる。


それに灯が、即座にニヤリと笑った。

「それって、手に入ったらポイってするヤツ?」

「俺、ひどっ!まぁ、間違い…ではないかな?」

「お兄さん、そのうち人の事笑えなくなるよ?」


 その言葉に、男が少しだけ目を細める。

「……どういう意味?」

 少しだけ声色が変わる。

 灯は、楽しそうに肩を竦めた。

「今は余裕ある側だから、遊べるんでしょ」

「まあね。否定はしない」

「でも、急に来るよ?“あ、これ無理だ”ってなる相手」

 周囲が、

「うわ、経験談っぽい」

と笑う。


 男もクツクツと笑った。

「怖ぇなぁ」

 すると灯はちらっと結花を見る。

 それから、意味深に笑った。


「あの人も、本来はそっち側の人間。でしょ?」

 結花が、思わず視線を逸らす。

 

 男は一瞬考えて、それから吹き出した。

「あぁー。同族嫌悪!それか!」

「たぶんね」

 灯は、面白そうにグラスを傾ける。

 学祭以降ライブで見かけるスーツの男、朝比奈玲 。と、今目の前にいる男。

 タイプは違う。

 でも、“欲しいものは取る側”の人間。


 だからこそ、お互いの危うさがわかる。


そして今、玲だけが必死に“待て”をしている。


「でもさ、この前おっさん口紅付けたまま帰ったじゃん」


 男が、思い出したように笑う。

「あれ羨ましいわ。俺にもつけてくれない?アレ」


 その軽口に、結花は苦笑した。


「あれね、無意識だったからね。事故、事故!」

 周囲が笑う。


「“ゆいか”は無意識でキスするんだ。エロいね」

「やめてよ」

 結花が顔をしかめる。

 男は、楽しそうに続けた。


「でも今日は、いつものイメージと全然違って健康そうじゃん。アレはなんかやってんの?」


 その問いに、結花は首を傾げる。


「私は無意識だから、よくわかんないし……灯?」


 話を振られた灯が面白そうに笑った。

「あーねー。アレはZONE入ってるだけだから、そう簡単には見れない」

「ZONE?」

「スイッチ入った時の“ゆいか”。ライブとか、ああいう特別な時だけ」

 男が、少し興味深そうに目を細める。

「へぇ……」

 灯はグラスを回しながら、軽く肩を竦めた。

「今度見れるのが、最後じゃないかな?」

「来年か……」

 男が、残念そうに笑う。

「他に見たかったら、どうする?」

 灯は、ニヤリと笑った。


「さぁ?王様は気まぐれだからね」

 その会話を聞きながら、結花は少しだけ視線を落とす。

 “ゆいか”でいられる時間も、きっとあと少し。

 大学も、ライブも、今の関係も。

 全部、いつか変わってしまう気がしていた。


「ZONEに入るって事は、別に音楽用意すればって事じゃなく、夢中にさせればって事でしょ?」

 男はまだZONEについて楽しそうに話す。

「俺、それならZONEに入れる自信あるわ」

 その言葉に周囲が、

「おー!できるんかい?!」

と冷やかす。

 だが、灯は面白そうに笑ったまま首を傾げた。

「どうだろうね」

「灯は“ゆいか“守れる自信ない?」

「逆。簡単に落ちるなら、王様になってない」

 男が、少しだけ目を細める。

「へぇ」

 すると灯はグラスを持ったまま、結花を見る。

「結花ってさ、意外と見てるから……」

突然名前を振られ、結花は少し困ったように笑う。

「なに急に?」

「顔とか雰囲気じゃなくて、ちゃんと中身見てハマるタイプ」

 その瞬間、今まで余裕ぶった男が少し黙る。

 顔から軽薄な笑みが消える。

 懇親会で、“ゆいか”に興味を持った。

 今、目の前にいるのは普通に笑って、友達と喋って、

少し不器用な大学生。

 そのギャップが、逆に厄介だと気づき始める。


 そして灯、ニヤリと笑う。

「だからお兄さん、本気で行くなら気をつけな?」

「なにそれ」

「ハマった方が負けだから」

合コンの女王・灯と、再登場放蕩三昧なお坊ちゃん次男坊。から見た結花の話


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