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朝比奈玲まだ恋をしらない  作者: あぐり りょう


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しかし、サイコー!景視点

鷹司景視点

鬼怒川ライン下り

乗船場。

何艘かの船が、繋がれている。


人は多い。

だが、まだ席はある。


救命胴衣を渡され、そのまま船に乗る。

船頭たちが、注意事項を告げている。


「あっ!そこの美形カップル!」


声が飛ぶ。

「女性、外側ね。重心が傾く!」


さゆりが、軽く手を挙げる。

「ワタシ?」


「残念!儚げ系の他!」

ユリを指す。


「同じことなんで、

隣の船の説明を聞いてくださいね」


軽い。

雑にも見える。


——だが。


「この季節ね、水量が多いから、割と大変なんですよ」

「だからね、水被っても怒っちゃやーよ!」


笑いを取る。

同時に、舵は正確だ。


評価が、変わる。

隣の船は、静かだ。


漕ぐことだけに、必死になっている。

活気がない。


——違う。

こちらは、


“見せている”。


流れが、速くなる。

あちらこちらで、悲鳴が上がる。


水音。

笑い声。

混ざる。


さっきまでの、軽さはない。

船頭の目が、変わる。


流れを読む。

外さない。


そして——


「あっ」


思うより、早い。


庇う間もなく、水の塊が、降る。


「キャッ」


小さな悲鳴。

避けられない。


ユリの全身と、自分の半身が、

一瞬で濡れる。


冷たい。

重い。

息が止まる。

勢いよく船は進む。

飛沫は何度もかかる。



流れが、緩む。

船頭が、タオルをこちらに投げる。


「お兄さん、ごめんね!」


「降りたらタオル売ってるから、

お姉さんにかけてあげてね」


ニヤリと笑う。

「眼福!ありがとう!」

そのまま、戻っていく。


また、同じような事故が起こる。

さゆりと朝比奈も同じように水がかかる。


笑いと、悲鳴。

混ざりながら、船は進む。


やがて、船着場。


「面白かったね」

さゆりが笑う。

ユリも、めずらしく声を上げて笑っている。


足元が少し揺れる。


二人とも、よろけながら立ち上がる。


桟橋で救命胴衣を返す。

同じように、外す。


その横で——

視線が、止まる。


「……なっ」


言葉が、出ない。


薄いワンピースの生地が、肌に張り付く。

素肌が透けて見える。


線が、浮かぶ。

隠れない。


——全部。


後ろで、気配が動く。

振り返る。


さっきの船頭が、

ニヤニヤと見ている。


「……タオルくれ!すぐに!」


思わず、声が強くなる。

怒鳴る。


その瞬間、

掴んでいた手が、びくりと震える。


潤む瞳。


濡れたままの、無防備な姿。


息が、

浅くなる。


——まずい。


どこかで、分かっている。

それでも、止まらない。


自分の中で、

何かが、

焼き切れる音がした。


帰り道。


車に乗るまで、視線を遮る。

人の流れを、切るように進む。


見せない。

見せたくない。


当然のように、ユリをタオルで包む。

そのまま、抱き上げる。


「重いので、歩きます」


上で、少し暴れる。

落ち着かない。


——危ない。


ぴしゃりと、尻を打つ。

「じっとしていろ。危ない」

低く、押さえる。


それで止まる。


さゆり達が、無言で道を作る。

真顔だ。

冗談はない。


車内へ。

ユリとさゆりを、押し込む。


ドアが閉まる。


空気が、切り替わる。

朝比奈の顔が、歪む。


「……デンジャーで、

最高、か」


吐き捨てる。

皮肉にもならない。


血が、まだ熱い。

一度、下げたい。


車内を、見る。


さゆりが、

手早く着替えをさせている。

申し訳なさそうにしている。


ユリが小さく首を振る。

励ますように、さゆりの肩を軽く叩く。


「……」

「景さん、俺にもタバコください。」


「あぁ……」

短く返す。


火をつける。

煙を吸う。

肺に落とす。


「お前が俺の名前呼ぶの、久しぶりだな」

「自分の顔見てから、言ってください」


互いに、それ以上は言わない。

余裕がない。


煙だけが、ゆっくりと上がる。


ようやく、

少しだけ、

呼吸が戻る昼間の気温の高さから、

一変する。


肌寒い。


半身が濡れただけで、はっきりと分かる。


車内に、暖房を入れる。

乾いた空気が、ゆっくりと回る。


——静かだ。


間もなく、宿に着く。


コンシェルジュの案内は、断る。

そのまま、指定されたスイートへ向かう。


扉を開く。


リビング。

二つのベッドルーム。


個室露天風呂も、二つ。


整っている広い空間に、

人の気配が消える。


朝比奈が、

「二人とも、先に身体を温めてください。風邪を引く」

と淡々と告げる。


間を置かず、

「我々は、あちらを使います。ゆっくりしてください」


余計な言葉はない。

それだけで、十分だった。


——分けられる。


自然に。


誰も、疑問を持たない。

空気が、決まる。


「行きますよ」

軽く言う。


声は穏やかだが、視線は違う。

——早く来い。


仕方なく、そちらへ向かう。


「貴方も軽く汗を流して、着替えて下さい」


手際よく、着替えを並べていく。

「お前は?」


「俺は後で。

貴方と混浴なんて、何の罰ゲームですか……」

呆れたように、言う。

「そうか」

そのまま、バスルームへ入る。


扉が閉まる。

音が、遮断される。


身体が冷えていたのか、

シャワーの温度が、いつもより高く感じる。


肌に、刺さる。

手早く済ませる。


それ以上、中にいる理由がない。


リビングへ戻る。


入れ替わるように、朝比奈が立つ。

「……」


言葉はない。


そのまま浴室へ向かい、またすぐに戻ってくる。


向かいに座る。

視線は、自然と、

二人が消えた方へ向く。


——音は、まだない。


静かすぎる。

待っているだけなのに、

やけに長い。


少ししてから、賑やかな声が漏れてくる。


「姉さん!もう!それは置いて、コッチ!」


さゆりの声。

明るい。

遠慮がない。


「……、……」


小さい声。

ユリだろう。


内容までは、拾えない。

「だからね、白、レース、優勝なんですって!」

「……?」


「コチラが良いですか?上級者向けですよ?」

「……」


「ダメ。ダメ!どっちかです!」

間がない。

押し切る。


「清楚?妖艶?」

「……」


カタ、

そして布が擦れる音。


思わず、視線が動く。

朝比奈と、一瞬だけ目が合う。


逸らす。


しばらく、静かになる。

ふぅ——


漏れる吐息


どちらか。

あるいは、両方。


「清楚と妖艶ですって。どちらでしょうね」

ニヤニヤと告げる。


「あぁ」

短く返す。


「さゆりちゃんに、ファイトマネー。追加しますか?」

「あぁ。俺からも追加してくれ」

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