ノアの生い立ち
カミラの体は『カミラのもの』だからスズには体の感触は無いが、カミラが思考した感情はスズに伝わる。
スズが目を閉じる前に感じた『目の奥の痒み』は『治療が成功した』証ではないだろうか?
と、スズは考える。
多分、カミラの右目は『潰れている』と予想できるので、多分だが『生きている視神経』が『治癒された』のではないだろうか?
そして、カミラの魔力が少ないから一度では治らなかった。
そう仮定すると『何度も同じ患部に治癒魔法を使い続ける』と『完治する』可能性が有ると思ってもいいのかもしれない。
現時点では『可能性』が有るだけ。
それでも『希望』が無いよりもマシだと思うのだ。
◇◇◇
カミラとノアは人の体温を『心地いい』と感じるが、季節の温度変化にはめっぽう『強い』のだ。
小さな頃からまともな服を着られずにいて、夏と冬を自力で乗り越えたのだから、冬を半袖体操服で過ごす子供のように強い。
汗をかくことでの体温調節はできないが、そのかわりに過酷な環境に耐えたカミラとノアの肌は厚い。
その上、一度も体を洗った事が無く、皮脂汚れがびっしりとついているので、ソレも日焼けをしない、冷たい風が直接当たらない為に本人達は過ごしやすいのだ。
お昼になって起き出したお子様なカミラとノアは、スズに言われて美味しい大豆をたくさん食べられて幸せだ。
1番美味しいのは『パン』が殿堂入りだが。
しかし、大豆は噛めば噛むだけ美味しさが口の中に広がるので、退屈しない大事な食料だ。
そしてお子様な2人はジョウロで水分を補給してから道を歩き出した。
手を繋いで。
ノアは1度こけて肩を痛めているにも関わらずに、カミラと手を繋ぐ方が大事な事なのだ。
子供は大人の愛情がなければ生きられない。
これは地球での無慈悲な実験で実証されている為、2人が赤ちゃんだった頃には確かに「大人の愛情」で育てられたはずである。
そして、人は与えられた喜びを無意識に求めるものである。
大人に甘えられない代替え行為が、カミラとノアの自覚していない『愛情』を無意識にお互いが感じているので離れがたいのだ。
『家族』なら、お互いに食べ物を分け合うのは当然。
『家族』なら、お互いに助け合うのは当然。
『家族』ならーー?
そう。
無自覚にお互いを『家族』だと認識している2人だった。
『姉』と『弟』のように。
2人は無理をせずに夕方までゆっくりと歩いて、馬車をやり過ごして、今日の寝床である柔らかい草むらに座って、水分補給をしてパンにかぶりついた。
パンが美味しすぎて獣のように貪り食うと、お腹が満たされてノアはカミラの背中にくっついて眠り、カミラは『箱庭』で頑張って生産を続けた。
すると『倉庫拡張アイテム』が手に入り、倉庫を10個多く入るように拡張できた。
倉庫容量が130個だ。
麦はパンを製造する為に作り、大豆はそのまま食べる為に育てて、倉庫に入らない収穫物は販売店でお金に変える。
その収穫と製造の繰り返しに、スズに指導されなくてもカミラが自主的に行うと『箱庭』のレベルが上がり、畑が1面増えて、スズが無意識に必要だと思っていた『牛』の牧場が1つ設置できるようになった!
そう!
カミラとノアには動物性タンパク質を摂取して、大いに太って成長していただきたいとスズは心から思っていたのだ!
本来の『箱庭ゲーム』なら、ココで鶏が出てくる順番だが、鶏の卵と肉よりも『ウシ』の牛乳が飲める方が大切だと思ったのである。
しかし、スズは忘れていた。
『牛乳』を飲むには『器』が必要だと……。
カミラはスズに言われるままに初めて見る【動物】に興奮しながらも仔牛を1匹だけ牧場にお迎えした。
『箱庭』のお金が少なかったのである。
そこで、カミラは魔力切れとなって横に倒れて、気絶するように眠りについた。
◇◇◇
翌朝、日の出と共に起きるとスズの元気に押されるように『箱庭』を開いた。
そして『仔牛』の様子を見てみるとーー。
『腹ペコな仔牛』がいた。
スズに目があったら『点』である。
そう!
スズは『牛』を設置する為に『牧場』と『仔牛』を『箱庭』にお迎えしたが、牛の成長に必要な「飼料」の生産工場の設置をしていなかったのである。
幸いにも現実の牛と違い、何日もエサをあげなくても死なない『箱庭』の牛だが、「飼料」の生産工場を建てるだけの『資金』が無い。
スズはカミラの中で心が折れた。
スズはお子様2人を育てていると思っていたが、判断を間違うこともある。
お子様2人は、綺麗な美味しい水をたくさん飲めて、美味しいパンをお腹いっぱい食べられるだけで幸せを感じているのだから、まあ、いいのだが。
そして、スズが話さなくても、お子様2人は手を繋いで道を歩き出した。
未来へと向かって。
◇◇◇
ノアは、かあちゃんが、ノアせいで寝床から起き上がれなくなったと、血の繋がった他人から聞いて知っている。
ノアは食べ物を「めぐんでもらう」為に気がついた時から畑で働いていた。
毎日、雑草と言われる草を抜いて、害虫と言われる虫を潰していた。
そして「よる」になると、こっそりと優しいかあちゃんの寝床に潜り込んで温かさと、かあちゃんの匂いに幸せを感じていたが、ある日、かあちゃんが冷たくなった。
優しいかあちゃんが動かないと、血の繋がった他人に慌てて教えると、家から投げ捨てられるように、ぽーんと放り出された。
それから夜が3回きたら、血の繋がった他人に家に入るなと言われて、毎日畑の草を食べていると「やさいをたべるな!」と畑からも放り出されて、お腹が空いて歩いていると「くしやき」を買ってくれたおじさんがいて「いっしょにくるか?」ときかれたので、返事をしてついていくと、初めて「ばしゃ」にのせられた。
それからは食べ物に困らずに新しい村について、1つの大きな家に入ると「ちか」に連れて行かれて、たくさんの「こども」がいた。
同じ部屋で「はたらく」らしく、おじさんが「はいゆ」を綺麗にするんだと教えてくれたので、言われるがままに作業をすると「いいひろいもんだ」と言われた。
意味はわからなかったけれど「はいゆ」を綺麗にすると食べ物が貰えた。
何日かそこで過ごすと、かあちゃんの匂いがして、近づくと、小さな子供かいたので布団は無いけれどひっつくとかあちゃんの匂いがして安心して眠れた。
その子は「かあちゃん」じゃなかったけれど、ノアの名前を呼んでくれて、かあちゃんのように優しくて安心ができた。
今はその子供と毎日、手を繋いで歩いている。
「ぱん」という美味しいものを食べられて、カミラとも一緒にいられて、ノアは幸せだ。




