幸せって、こんな味 2
ノアの視線に気がついたカミラは、地下の強制労働場所でだてに生き残っていたわけじゃない。
スズの協力もあって少しは「空気を読む」ことを学んでいた。
カミラは『箱庭』の倉庫から生産された『パン』を取り出してノアへと渡して、食べるように促すと、ノアは「はむっ」とパンに齧り付いて、無表情だった顔を驚きの表情に変えた後に、パンを貪るように食べた。
子供には『パン1つで大きい』食べ物を食べたことにより、栄養失調のカミラの小さくなっていた胃は、パンが口から出そうなほど、生まれて初めての『満腹』状態だった。
思わず、原始人が着ているような服をめくってお腹を確認してしまったカミラだった。
カミラのお腹は栄養失調で不自然に膨らんでいるが、お腹を触ると硬くなっているのが不思議だった。
お腹いっぱいまで食べたからだ。
そんな事をしているカミラの横で、ノアが最後のパンを口に入れてモグモグと食べていた。
自分より小さいノアのお腹を心配して、カミラはこれまた原始人のようなノアの服をお腹まで引っ張り上げて、栄養失調で膨らんだお腹を押さえると、ノアの口から「げぇーぷっ」と、ゲップと食べたパンが出そうになってしまった。
当然だが下着は身につけていないので、ノアの可愛らしいゾウさんが「こんにちは」していた。
が、子供なカミラとノアは恥ずかしくなかった。
一緒に「連れション」もしている仲なので。
と、いうか、人は『衣食足りて、恥を知る』のである。
教育を親から受けなかった2人には『羞恥心』と言うものが欠如していた。
服は「着せられる」ので『着るもの』。
食べるのは『お腹が空いたから』。
排泄は『出るもの』で、睡眠は『眠いから』。
ほぼほぼ生きるための欲求に従って生きている2人である。
それと、日本育ちの『スズ』がカミラの中にいるので、先生代わりである。
いや『親代わり』だ。
とりあえず、カエルのようにノアのお腹が破裂しないのを確認して満足したカミラは『箱庭』で生産を頑張った。
『箱庭』の画面が見えないノアは何かをしているカミラの邪魔にならないように温かい背中にぴっとりと引っ付いて、眠気に誘わられるままに眠った。
ちなみに、カミラは10歳だが、長年の栄養失調のためにお腹が膨らみ、成長する為の食べ物を食べられなかった為に6歳ぐらいの見た目をしている。
ノアは4歳くらいに見える身長だ。
ノアも栄養失調の為にお腹が不自然に膨らんでいる。
それでも2人とも地下強制労働で何年も生きてきたので要領は良い方だ。
カミラには『スズ有りき』だが。
そして、暗くなり、魔力を使い果たしたカミラは、コロンと横になって眠りについた。
パンの製造予約をちゃんとしてから。
◇◇◇
翌朝、昨日よく眠ったカミラとノアは、日の出と共に目が覚めて、水をたらふく飲んでから、倉庫からパンを取り出して夢中になって食べた。
スズは長年カミラの中にいる事で、カミラの考えや心の動きを感じられるようになっていた。
朝からカミラが幸せそうでスズは満足だ。
お腹いっぱいにパンを食べた2人は幸せそうな空気を漂わせて「連れション」した。
排便し終えたカミラにスズが指示を出す。
「綺麗な場所に行け」と。
カミラとノアは道を少し歩いてから、横の茂みに入って地面に座った。
(カミラ、今から実験をするからね)
『じっけんって、なに?』
難しい言葉はわからないカミラだった。
スズは辞書ではないので「実験」の説明が出来なかった。
なんとなくで日本語で会話をしていたツケだ。
(う〜ん、試しにやってみることかな?)
『なにをやるの?』
とりあえずスズの言う事に嘘は無いので、カミラは素直に聞いてみた。
(カミラの目が片方だけ見えないでしょ?)
『うん、見えない』
(その『見えない目』をカミラの治癒魔法で治してみて)
『わかった』
スズにはなんとなくわかっていた。
『見えない目を治す』のは『欠損部位』を蘇らせる【奇跡】のような試みだと。
だが、カミラの中にいるスズに影響されて『箱庭』のスキルが現れたのなら、カミラに現れた『治癒魔法』は【カミラに必要】だったから現れたのではないかと思うのだ。
ならば、危険でも欠損部位すらカミラは『治療できる』のではないかと。
カミラはスズに言われるままに見えない片目に治癒魔法をかけた。
すると、カミラは目があった場所の奥がムズムズとしてきて痒くなったので、見えない目を手でおさえた時に意識を失って後ろに倒れた。
カミラに何が起きたか知らないノアは、昨日のようにカミラが眠くなったのか? と思い、カミラの腕を抱えてその隣で眠りについた。
まだまだ栄養失調な2人の子供は睡眠と休養と栄養のある食事が必要だった。
カミラは夢を見ていた。
自分の足に隠れるように、ぴったりと引っ付いてきた子供を見た。
温かい体温が心地よかったので、そのままにしておくと、いつのまにか子供はいつもカミラの近くにいた。
カミラは何の反応もしなかったが、作業の時には自分から離れるようにと背中を押して誘導した後は、黙々と指を溶かす作業をした。
作業が終わり、麦と水を貰うと、いつのまにか子供がぴったりとカミラの横に座っていた。
そして、そのまま暗い部屋の中で横になると、またいつのまにかカミラの脇に潜り込むように寝ていた。
数年は誰よりも一緒に過ごした気がして、名前も知らないのに、スズと同じような『家族』のような気がしていた。
ノアの(クサイ)体臭の匂いがして、幸せな気持ちで眠っていたカミラだった。




