スズがいなくなる? (予想)
そして、「全部わかった!」という、気持ちになった私にスズが始めの話に戻る。
(じゃあ「風呂男」に話しかけて知った【じじい】に無料で貰った「服」の話だね!)
『むりょう、って、なに?』
(服を貰うのにお金を【じじい】に払ってないでしょ?)
『はらう、ってなに?』
(お金を渡すこと)
『えっ!? 私【じじい】にお金を渡してない!』
(お金を持っていないでしょ? 箱庭のお金しか)
『……箱庭のお金を出せないかな?』
(出せないけど、箱庭のパンはお金の価値があるよ! さっきわかったでしょ?)
『あっ! 40円の儲け!』
(でね、40円の儲けでは「風呂男」が言った「パン100個」を作っても「カミラが着ている服」は「買えない」の。何でかわかる?)
『……わからない』
(箱庭じゃない「現実の世界」では絶対に必要なお金を「原価」って言うんだけどね「原価」だけでは服が「買えない」。それでカミラが言った40円が儲けになる。これを「純利益」って言うの。難しいけど、覚えて)
『必要なお金、げんか、原価。儲けの40円が、じゅんりえき、純利益。……多分、大丈夫』
(じゃあ、最後の話をするね。現実の世界は「カミラが今生きている現実」。「箱庭の世界」とは違うのがわかる?)
『なにが、違う、の?』
(カミラだけは「現実の世界」のお金を払わなくてもパンを食べられる。でも「現実の世界」では「現実の世界のお金」じゃないとカミラはパンを買えないし「食べられない」。理解した?)
『……! 私、お金を払って無いのにパンを食べられる! すごい!』
(そう! 凄く良い「スキル」なんだよ! 「箱庭」は!)
『わあ、私の「箱庭」って、すごい……』
(ねえ? みんな知ったら「箱庭が欲しい」と思うよね?)
『絶対に、欲しい! 箱庭があるだけで、生きていける!』
(そうだよね? 「現実の世界」で「箱庭で作ったパン」を売ると、純利益は、どうなるか、わかる?)
『! わかった! パン1個の純利益が、現実の40円の、儲け? より、60円も多くなる!』
(そうだよ。よく理解したね。もっと簡単に言うと「現実」では40円の儲け。「箱庭」で作ったパンは現実世界に持ってくると100の儲けになるの)
『わあ! もしかして、私、初めての「現実のお金」を儲けられるの? パンを売ったら?』
(そうだよ)
カミラは凄く喜んだ!
初めて知った事実に気持ちが舞い上がっていた!
そこに、スズが水を差す。
(ねえ、カミラ。「箱庭」を知った人はみんな「箱庭」が欲しいよね?)
『きっと、欲しいよ! 使える私だって、使えなくなったら「死んじゃう」』
(そうだよね。カミラは「今」【箱庭】で生き残っているからね?)
そこで、浮かれていたカミラがスズの不穏な空気を感じて、少し現実に意識が戻ってきた。
だってカミラは『地下』で空気を読まなければ生き残れなかった。
……勿論、スズのアドバイスもたくさんあったが。
『……スズ? なに? なんか、おかしいよ?』
(そうだよ。おかしいよ。カミラは気がついていないもの)
『……なに?』
(「怖い男」が【箱庭】を知ったら、どうなるか、って。考えてみてカミラ。【箱庭】はカミラしか使えないんだよ? カミラ「1人だけのスキル」だよ? 欲しいよね? 「怖い男」も「悪い男」も「カミラを蹴るかもしれない男も女も」ね?)
そのスズの言葉を聞いて、カミラの思考が一瞬にして凍りついた。
こわい……。
こわいよ、スズ。
みんなが『箱庭』を【欲しがる】
みんなが私の「スキル」を欲しがるんだよ?
怖い。
カミラは現実で、小刻みに震え始めた。
異常に気がついたのは、カミラを見ていたノアだ。
ノアはベッドに座っているカミラに抱きついてカミラの名前を呼んだが、思考に没頭しているカミラには届かなかった。
そして『もう1人』
カミラをジッと見つめていた「風呂男」の副官がカミラが震えているのに気がついた。
しかし、ジッと見つめたまま動かない。
『カミラ』が【敵】なのか【味方】になるかを、見極めなければならないから。
カミラはいつも助けてくれる【スズ】に助けを求めた。
『スズ、こわいよ、たすけて……』
怖がっているカミラに、スズは少し寂しそうに告げる。
(カミラに怖い思いをさせたのは「私」だけど、後悔してないよ?)
『スズ、たすけて……』
(カミラ、今はわからくても『考える事をやめないで』)
『スズ……?』
スズは思った。
自分の体は無いから【カミラの中】にいられるけど、いつまでも【一緒にはいられない】
かもしれないね、と、予想するだけだけど。
【消える前】に【カミラが1人で生きていける】だけの『ナニカ』を残す為にここにいるのだと。
……スズは思考をカミラと通じている事を『すっかりと忘れていた』
現実世界で【スズがいなくなる】のを想像してしまったカミラの目が決壊した!
ーー潰れたはずの『右目』からも、涙が出て、止まらない。
カミラの暴力を受けてボコボコな顔に涙が流れて、膝に落ちる。
カミラを抱きしめていたノアの手にも涙が落ちた。
「カミラ?」
ノアが寝床に立って、カミラの顔を覗くと、カミラの「目だけがキレイ」な瞳から涙が溢れて、止まらない。
「カミラ!? カミラ! カミラ!?」
カミラを守るための叫び声、以外に、初めてノアが異常を知らせるような声を出した!
「カミラ! へんじして!」
動かなかった「風呂男」が立ち上がった。




