なぜ、パンが100円?
ノアが私に何か言いたそうにしているけれど、スズに「しっかりと話を聞いてね」と言われて心の中で会話した。
(多分だけど、ここの大人は【カミラに『箱庭』を使わせる】のが目的だと思うから、絶対に使わないで)
とても怖い、真剣な声でスズが教えてくれた。
『なんで箱庭を使わせたいの?』
(とっても【利用価値】があるスキルだから)
『えっと、りようかち、が、あるとどうなるの?』
(地下の生活に戻ると思うよ)
カミラは一生懸命に考えた。
『地下』での生活は痛かったが、食事をもらえた。
スズがカミラの考えに話しかけてくる。
(いつ死ぬか、いつ、殺されるか、わからなかった。でしょ?)
そうだ。
監視の男と『お兄さん』の機嫌次第だった気がする。
(それと、大きくなった子供は戻ってこなかった。何でかわかる?)
『地下に、住めなくなったから?』
(想像だけど「食費がかかるようになったから」じゃないかな?)
『しょくひ、ってなに?』
(【箱庭】を想像してみてね。麦は畑で育てる)
『うん、1つの種を蒔くと2つ収穫できるね』
(そう、麦が2つ収穫できたら、1は種として残して、1つはパンを作るのに使ったり、販売店で売れてお金が儲かるでしょう?)
『もうかるって、お金が増えること?』
(似ているけど、違うな。人が生きるにはお金が必要だって理解してる?)
私は生まれてからお金を使ったのは『箱庭』だけ。
またスズが考えに入り込んでくる。
(カミラは生きるのにお金は要らないって思ってる?)
『だって、箱庭以外でお金を使ったこと、無い』
(服は? 生まれたときから来ていたでしょ? 凄く値段が高いんだよ。知らないでしょ?)
『私、知らない』
(そこの男に聞いたらいいよ)
スズを信じてるけど、服にお金がいるなんて知らない。
怖いけど、男に聞いてみることにする。
横になっていた体を起こすと、なぜかノアも起き上がった。
私は後ろを向いて避けていた目を男と合わせる。
男の目は無感情だ。
こわい。
男に話しかける。
「あ、あの、ききたい、ことが、ある」
男は意外にもすんなりと「どうぞ」と聞いてくれる感じだ。
「わ、私が、きている、ふく、は、ぱん、なんこ、かう? あ、ちがう、かえる?」
男は無表情に少し目線を斜め上に向けた。
「おおよそですが、パンを100個は、確実に買える筈です」
『スズ! 難しい! 教えて!』
(【箱庭】でのパンの値段は?)
『ねだん、って、なに?』
私の頭の中でスズが叫んだ!
「スマホくれっ」と。
すまほくれ、もわからない。
スズが「それは置いといて」と話しを続けた。
(値段は、物の価値だよ。わかる?)
『ものは服とか、パン、だよね?』
(そうだよ)
『かち、が、わからない』
(価値はねぇ……。カミラはパンに「何円」のお金を出す?)
『え、箱庭、だよね? 100円、でしょ?』
(仕方ないなぁ。カミラはもっと自分で考えてね!)
なんでか怒られた。
スズはずっと私といるから聞いてもいいでしょ?
またスズが頭の中で叫んだ。
(もう! じゃあ、パンを売る店は100円でパンを売るけど、麦だけではパンは本当は作れないの)
『え? 箱庭は麦だけで作れるよ?』
(パンを作るには小麦粉って言う「麦の粉」と「水」と「お酒」と「塩」が最低限はいるの)
『さいていげんって、なに?」
(これだけは「絶対に必要」って材料)
『ざいりょうって、なに?』
(何か、を、作る時に「必要な物」だね)
『じゃあ、パンを箱庭以外で作ると、えっと、麦、と?』
(「麦の粉」「水」「酒」「塩」が必要)
『えーっと、4つも材料が必要なの?』
(やっと理解したね。4つの材料で何円になると思う?)
『う〜ん、う〜ん、う〜ん? やっぱり、わからない』
(言うと思った。予想の値段だと思って聞いてね。多分、20円〜40円くらいだと思うよ?)
『それだと本当は100円で、えーと、5〜2個? は買える? よね?』
(そこで服に戻る。まあ、パンを作る値段が30円だとして、30円で誰かパンが欲しい人に売ると「パンを作った人にはお金が残らない。お金が残らないと「パンを作った人」は食べものを食べられないと「死ぬ」。そこまではわかる?)
『パンを食べたら「死なない」よ?』
(パン作るのに30円かかるでしょ? 材料を自分の物にするにはお金が必要で30円かかる。でも他人に30円で売るとお金が残らなくて、自分の作ったパンを食べると30円かかるの。次にパンを作る材料が買えないよね?)
『あっ! お金が無い!』
(やっと気がついたね。少なくても2倍、パン2個分の60円の値段で売らないとお金が残らなくて食べものを買えない。理解した?)
『えっと、理解、した』
(でもね、2倍で売っても生きていけないの。何でかわかる?)
『う〜ん、う〜ん、あ! 多分、わかった! 服だね!』
(そう! 「服を買うお金」が必要なの。地下でも裸じゃなかったでしょ?)
『うん。かんとうい、って言う服を着てた、よね?』
(そうだね。じゃあ、パン30円で「パンを作る材料」が買えて、もう1個のパン30円で自分の食べるパンが無くなると、服はどうやって「買う」の?)
『スズが今、言ったのは、60円では、服が買えない……。あっ! わかった! だから100円で売るんだね!? 服を買う為に40円必要だから!』
(そう! 「儲けが出た」って言うの覚えて!)
『……40円の儲け? が出た?』
(そうだよ! あってる)
『嬉しい』
カミラはパンが100円である、という事実を理解して少し気持ちがスッキリした。
でも、狭い世界で生きてきたカミラには、まだまだたくさんの知識が必要なようだ。




