右目に、治癒(逃げた)
「草は、無いよ?」の男の言葉にカミラの心がなぜか追い詰められていた。
頭の中でスズが「全部食べた!」と言え! と言っている。
「ぜ、ぜんぶ、たべた」
そこで、隊長は「ぐずっ」と鼻水を啜っているアネッサに声をかけた。
「アネッサ、子供達のカバンの中には草が入っていたか?」
隊長の声に、鼻水を垂らしたままピシッとしたアネッサが答えた。
「服とサンダルと水袋が入っていました!」
アネッサの鼻水が長く伸びた。
隊長はカミラを笑顔で見た。
「草はなかったそうだよ? どこから食べた草を持ってきたのかい?」
カミラは緊張感に気が遠くなりそうだった。
その時、カミラの斜め後ろにいたノアが叫んだ!
「カミラをいじめるな!」
ノアのカミラの為の叫びは4回目だ。
大声を出し慣れてきたようだ。
そして隊長がカミラから、矛先を小さなノアに変えた。
「いじめてないよ。怒ってないからね。でもお腹がいっぱいなんだろう?」
「そうだ!」
ノアも肯定してしまった。
スズが気が遠くなりそうなカミラの頭の中で叫んでいる。
隊長が心で笑った。
「ナニを、食べたんだい?」
「ぱん!」
ノアも素直だった。
「ぎゃー!」っとカミラの頭の中でスズが叫んだ。
「パンは、どこにあったの?」
隊長が悪い大人のようだ。
「いつも、カミラが、くれる!」
少し自慢するようにノアが言った。
カミラが大好きなノアは、誰かに「カミラは凄い」と言いたかったのかも、しれない。
「カバンの中に、パンは、入ってないよ? パンはどこにあるんだい?」
実は、それはノアも理解していなかった。
いつも、ノアがお腹が空いている時にカミラがいつのまにか手に持っているからだ。
「しらない!」
ノアは、素直だった。
隊長は少し矛先を変えてカミラの肩を強めに触った。
カミラは大人の男の大きな手に捕まれて、殴られた時を思い出して恐怖で固まった。
無意識にスズに助けを求めていた。
スズ、スズ、たすけて、スズーー。
スズは強くゆっくりと言葉にした。
カミラが混乱しているからだ。
(カミラ、右目に治癒魔法!)
いつものスズの魔法の言葉に、カミラは自分の右目に治癒魔法をかけて、気絶した。
ぐらりとベッドから落ちそうになったカミラと、カミラにしがみついていたノアを隊長が受け止めて、ベッドへとゆっくりと寝かせた。
ノアはカミラが見た事のない怖い顔をして、カミラを守るように覆い被さって隊長を威嚇している。
子供相手に追い詰めすぎたな、と思いながらも、隊長のカンはこの子供に「なにかある」とずっと訴え続けている。
とりあえず、アネッサに罰を言い渡す。
「アネッサ、神からの恵みの料理を無駄にしてはいけない。冷めた料理は2人分全部、君が食べなさい。あと、この部屋にいるように」
アネッサは鼻水をすすった。
隊長は副官と隊長室に戻る前に空き部屋に2人で入った。
扉を閉めてから静かな声で会話をする。
「まあ、聞いてのとおりだ。ジーニス、何か違和感はあったかい?」
ジーニスは素直に考えを口に出した。
隊長とはいつも感じた事や違和感を話し合って、事故や事件や犯罪者を追い詰めてきた。
解決の糸口はどこにあるのか、わからないほど意外なところにある時がある。
犯罪は時代と共に進化して変容しているからだ。
「あの女児、虐待の跡があって表情はわかりませんが、意外なほどに目が正直ですね。男児は素直すぎて将来が心配になりますが。想像通りに2人は『奴隷』だったのでしょうね。
女児の両手を見ましたか?」
隊長が渋い顔をした。
「ああ。人が子供にする事じゃないな。虐待に、異常な手の小ささ。私は至近距離で見たが指の骨が見えていたぞ」
それを聞いた副官も嫌悪の滲む顔をした。
「隣国の奴隷達を保護しなくてはいけないですね。
まあ、それは、隊長が上層部に申告しておいてください。
あの女児ですが『カバンの中にある草を食べた』は完全に嘘ですね。男児の『パンを食べた』が正解でしょう。不可解なのは、奴隷の幼な子が何故か殺されずに自由になって、生きて国境の山越えをしてきたかの点ですね。
『山賊』を殺したのは2人の子供が我が国に入国してきてからなので、街道を使用していたら部下にもっと早く保護されているか『山賊』に無残な殺され方をされたでしょうからね」
「その点は同意だ」
隊長も気がついた意見を出す。
「そういえば、アネッサがあの2人は『親から食事を貰ったことがない』と聞き出していたな。
それと『子供を殺していた大人の男から食べものを貰っていた』だったか。かなり小さい頃、物心ついた時から奴隷として働かされていたのか?
それと、お前よりも、私の方を怖がっていたな。体の大きな男が怖いのか?」
「それは、あるかと」
隊長は続ける。
「それと、あの子供達を監視、いや、見守っていた部下が『非常に逃げ足が遅い』と報告していたな? あの高さだけはある山を子供の足で、山の中腹にいた山賊に気がつかれずに超えてきたと計算すると、冬の雪山の中を歩いてきた事になるぞ?
そして『奴隷は使い潰すモノ』だとの考えだぞ? 女児の体は限界が近かったから殺す手間よりも手放した可能性はあるが、男児は元気だったし大人を怒鳴りつける無謀さもある……。どう思う?」
副官はしばらく黙っていたが、1番の不可解な件を話した。
「仮にですが『食べものを悪い大人に貰ってしまう』くらいに食べものに困っていたはずです。それを裏付けるように2人の体には余分な肉が一切無く、2人とも髪の毛は老人のように生え揃っておらず、まばらに生えていました。満足する食事を提供されていたとは考えられない。
しかし、山を越えてきた2人の側には『食べものをくれる悪い大人』はいなかった。
それにもし『悪い大人が山越えをする』時には足の遅い、まあ、言い方は悪いですが『足手まとい』を連れてはこないでしょう。
そして、部下たちの山狩りに『それらしい男』は見つかっていない。
『国境の砦』と『村』は山に囲まれて孤立しています。
これを踏まえて、どうしても気になるのが今まで何故生き残ってこれたか、です」
2人とも黙ったが、多分同じ事を考えている。
隊長が呟いた。
「食料だな」
「そうですね。山賊は皆殺しにはしましたが、殺す前に聞き出したところ、食糧の入手は難しかったらしく、たまたま山の裾野に湧き水が奇跡的にあって、山の中腹にいけば山ヤギを殺して肉を食べ、ウロの中で生き延びてはいましたが、ほぼ、骨と皮でしたね。生きた魔獣です」
「魔獣は森の奥から出てこんがな」




